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第一章
第六話:王の立場
 部屋に案内され、義人はとりあえず近くにあった椅子へと腰を下ろす。
 置いてある物は大きなベッドに木造りのテーブル。それに椅子。壁にはいくつか絵画らしきものが吊り下げられ、控えめな華美さがある。部屋は部屋でも、どうやら寝室らしい。
日本の建築様式とは違い、両開きの扉に三メートル以上はある高い天井。三十畳を超える広い部屋。床には絨毯が敷き詰められている。
いまだに意識を失っている優希は天蓋つきの大きなベッドに寝かせ、志信はカグラへと目を向けた。その後ろには、ミーファとアルフレッドが並んでいる。

「俺と、北城の立場はどうなる?」
「ホウジョウ……ああ、ユキ様ですね。お二方は王のご友人ですから、客人として扱わせていただきます。それにしても、シノブ様は落ち着いていらっしゃるんですね?」
「義人と北城があの調子だからな。俺くらいは落ち着いて周りをみなければなるまい」

 志信の言葉に、カグラはクスリと微笑む。

「助かります。では、王を落ち着かせてほしいのですが……」
「ああ」

 返事を返し、志信は義人へと近づく。

「義人」
「……おお、志信。どうするよ? 夜のクイズ番組、録画予約してないんだ」

 心底困ったような義人の言葉に、志信は内心で小さく笑う。

「心配する点が違う気もするが」

 いつも通り落ち着いている志信を見て、義人は自分も落ち着くように努める。いっそ優希のように気絶できたらどんなに楽だろうか、とも思ったが。
 落ち着きを取り戻した義人を見て、志信は口を開く。

「とりあえず、ここの連中は俺達に対して害意はない。そして義人はこの国にとって必要な人物。一年もあれば一人は戻れる。ここまではいいか?」
「あー、うん。オーケー」

 順序立てて説明していく志信に、義人は頷きを返す。志信は王の間で聞いた情報を分析し、吟味して口を開いた。

「この一年という期間だが、おそらく短縮することが可能だ」
「え? マジでか?」

 驚いた義人に頷き、志信はカグラへと視線を向ける。

「先程、『この国の魔力回復施設は質が悪い』と言っていたな。ならば、その質を良くすれば期間を短くすることができるのではないか?」

 その問いに、アルフレッドが相好を崩す。

「ほほう、シノブ殿は本当に落ち着いて聞いていたようじゃのう」

 どこか好々爺染みた笑みに、賞賛するような響き。しかし、志信はさして気にしない。

「たしかに、シノブ様のおっしゃる通りです。施設の質を上げれば、その分魔力の回復する時間が早くなります。ですが……」

 カグラは首肯した後、言葉を濁す。

「ですが?」

 先行きが見えた義人は、カグラの言葉の続きを待つ。すると、カグラは非常に申し訳なさそうに呟いた。

「施設を改良するだけのお金がないんです」

 一瞬、沈黙が場を支配する。

「えーっと……マジですか?」
「本当です。魔力回復施設に関する物は莫大なお金がかかるので、そう簡単には改良できないんです」
「この国は貧乏なのか?」

 志信が歯に衣着せず突っ込む。そのストレートな物言いに、カグラとアルフレッドは視線を逸らした。

「その……二代前の王が、ちょっとですね」

 どう言ったものかとカグラが悩むと、その横からアルフレッドがやれやれと呟く。

「これが大層な愚王でしてな。国の資産を食い潰しおったのじゃよ」
「食い潰したって……その王はどうなったんだ? 俺の一つ前の王は?」
「前代の王もそこまで優秀な人物ではなかったんじゃ。そのせいで……いや、なんでもないわい」
「ちょっと!? そこまで言われると逆に気になりますよ!?」

 言いよどむアルフレッドに、義人は気になって叫ぶ。その叫びを聞きつつ、志信が呟いた。

「役に立たない、か。ならば謀殺でもされたか? それとも飾りの王として据えて、周囲が国政をしたか?」
「う、む……」

 確信はなかったが、正鵠を射たらしい。
アルフレッドは口を閉ざすと共に、なんで志信のほうが王じゃないのか、などと少しだけ思った。言葉が詰まったアルフレッドに、志信は追撃をかける。

「それでは可笑しいところが出てくるな。召喚とやらは、その周囲で最も王に相応しい人物が召喚されるのだろう? ならば、何故そんな事態になる?」
「いや、それは……」

 返答に困るアルフレッド。それを横目で見ながら義人は考え込み、合点がいったように頷く。

「五十年ごとに召喚するのなら、二代前は百年前か……あー、あの時代にこっちに王様として召喚されたら、そりゃ厳しいだろうさ」

 今から百年前。文明開化も終わり、西洋の文化が浸透しきった頃。今とは違い、学校等に通っていた者は金銭面の関係であまり多くない。そのため、知識などは現代に比べれば劣っていただろう。政治や経済などの政など、行えるはずもない。
 それに何より、異世界などと言われて理解できたかどうか。現代ならば、ゲームや小説などでその異世界という存在を比較的理解しやすいのだが。
 そして、王というからには当時の日本よりも遥かに豊かな生活が出来たのだろう。
 ならば話は簡単だ。
人は、気をつけなければ簡単に堕落する生き物なのだから。

「資産を食い潰したねぇ……それでこの国が今まで無事だったっていうのは、すごいことか。
アルフレッドさんなんかは、かなり苦労したんじゃないんですか?」

 義人の言葉に、アルフレッドは無言で返す。即ち肯定だ。

「それでもまた新しい王様を召喚しようっていうんだから、盲目的というかなんというか」

 苦笑する。

「実際、召喚国主制を廃止しようという動きもありましたから」

 その苦笑に、カグラはそう返す。カグラの言葉に、志信は納得がいったように頷いた。

「成程。さきほどの場で、歓迎している連中が少なかったのはそれが原因か。だとすれば少々面倒なことになるかもしれんな」
「面倒なこと? 志信、なんだよそれ」

 言葉に不穏な雰囲気を感じて、義人が尋ねる。それに対し、志信は表情を変えずに告げた。

「クーデター……いや、この世界に合わせて言えば反乱が起こる可能性が高い。王を殺す、もしくは幽閉でもして新たな政権を築く可能性がある」
「ちょっ!? マジかよ!」

 慌てて周囲を見回すが、カグラ達は目を伏せるだけだ。義人はその可能性を軽く考え、肩を落とす。

「そうだよなー。俺も周りの立場ならそうするか……どうするかねぇ」

 動揺を抑え込み、義人は椅子に背を預ける。そして、考えを巡らせていく。
元の世界に戻るには時間がかかる。しかし、この世界にいたら最悪殺される可能性がある。ならどうするか? いや、どうしたら殺される? 簡単だ。王として役に立たなければ殺される。だけど、既にアウトかもしれない。前の王様がずいぶんと駄目だったらしいし、このままではすぐにクーデターが起こる、か?
考えつつ、カグラ達を見る。
この人達はおそらくこっちの味方。アルフレッドを筆頭に、地位も高い。この人達が見限らなければ、まだギリギリで大丈夫だろう。
優希と志信は完全に味方。
志信……志信かー。

「なあ志信。お前王様しないか?」
「しないな。俺よりもお前のほうが王に相応しい。そして、お前が王なら俺はそれに付き従う」

 とりあえず聞いてみたが、すぐさま返答がきた。義人はそんな志信に苦笑を向ける。

「そこは少しくらい悩もうぜ。志信は文武両道だから丁度良いと思うんだけど。でも、志信は一度言ったら曲げないから無理か……さて、どうしようかねー」

 方法を模索し、案を考える。
一、どうにかしてすぐさま元の世界に帰る。
二、反乱を起こしそうな者を先んじて捕らえる。
三、どうにかやって反乱が起きないようにする。
四、逃げる。

「一は無理。四が魅力的だけど、この世界で生きていける可能性はあまり高くなさそうだしな。だったら二……いや、国のことを考えると三か? うーん……」

 考え込み、何やら呟き出した義人を見てミーファは僅かに眉を寄せた。
 何故シノブ殿が王ではないのか……。
 内心に不満が浮かぶが表情には出さない。どう見ても志信のほうが王に相応しいと思ったが、それを言っては王に対して不敬に過ぎる。
 ミーファの内心を知らず、義人は顔を上げた。

「カグラさん達はこっちの味方?」
「はい、もちろんです」

 問いに、笑顔で即答するカグラ。そもそも、カグラが反対派なら召喚されることもなかっただろう。

「ふむふむ、カグラさんは召喚後の王を補佐する立場ってことはけっこうな重役で、アルフレッドさんがこの国の宰相。ミーファさんが魔法剣士隊の隊長……そして優希と志信がこっちにはいるか。成程成程」

 この国の規模がどのくらいかわからないが、幸い重要な立場の人間エルフもいるがが味方になっている。
 義人が一つ頷くと、カグラが苦笑を浮かべながら口を開いた。

「ヨシト王。わたし達は臣下なのですから、さん付けなんてされては他の臣下に示しがつきません。従って、敬語なども絶対に使わないようにしてください」

 暗に威厳を示せと言われた気がしないでもないが、義人はひとまず頷く。

「ん、そう? なら、そうしようかな。しかし、そっちこそ王なんてつけて呼ばないでくれよ。背中が痒くて仕方ない」
「じゃあ、ヨシト様ということで」

 にこやかに告げるカグラ。様付けもかなり抵抗があるのだが、威厳を示せばこちらへと恭順する者も出てくるかもしれないと思えば仕方ない。だが、自分よりも年下の者に高圧的に話されても印象が悪い気もするが。
 そこまで考えたところで、ベッドに寝かせていた優希が身じろぎをした。一度寝返りをした後、ゆっくりと体を起こす。

「ぁう〜……あれ? ここどこ?」

 のん気に体を伸ばす優希を見て、義人は小さく笑う。
 なるようになるか、と呟いて、ひとまずこの場を解散させることにした。


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