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多分僕が勇者だけど彼女が怖いから黙っていようと思う 作者:花果 唯

本編

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彼女に殺されそうです

「まさか置いて行かれるとは……」

 試練を受けるのはアリアなので表立って動くつもりはなかったが、出来るだけ力になりたいと思っていた。
 だが、エルは試練を受けるアリアと聖女だけ連れて行ってしまった。
 エルが二人の手を取った瞬間に姿が消えたのだ。

 聖獣がいるのは特別な空間だという。
 それ以上のことは説明してくれなかったので今アリア達がどこにいるのかさっぱり分からない。
 僕と一緒に残された騎士も分からないそうだ。

「大人しく見守るしかないようだな」

 壁に凭れて立っていた騎士だったが、女性陣が試練へと旅立つと僕の隣の席へと腰を下ろした。
 二人で部屋の中に浮かんでいる大きな鏡を見る。
 金色の蔓が縁取る楕円形のこの大鏡はエルが置いて行ってくれたものだ。
 鏡の中に試練の様子を映してくれるそうなのだが、今は宿屋の室内が映っているただの鏡だ。
 早くアリアを映してくれ。
 アリアは大丈夫だろうか。
 離れると一気に不安になってきた。
 命に関わるようなことはないと言っていたけれど、アリアが怖い目に遭わないか心配だ。

「……逞しい女性に振り回されているのも同じだな」

 溜息をついていると隣から騎士の笑い声が聞こえた。

「騎士様?」
「そんな堅苦しい呼び方はやめてくれ。ジュードでいい。君の父もよくミリア様に振り回されていたよ。そんな二人に、私はもっと振り回されたのだがな。苦労したよ」

 騎士……ジュードに顔を向けると、声を漏らして笑っていた。
 ジュードのこんな顔を見るのは初めてだ。

「あの人の息子に、窃盗容疑をかけてしまうなんてな。ミリア様には雷撃を貰いそうだ」

 確かに母さんは空を舞う魔物を打ち落とす電撃も得意だった。
 ジュードは食らったことがあるのかな?
 僕も黙っておやつを食べた時に食らったことがあるから親近感が湧いた。
 悪印象しかなかったジュードだが、申し訳なさそうな横顔を見ていると悪い人には見えないが……。

「……ロイに聖剣を渡したのはあなたなんですよね」

 ロイの気持ちを利用して僕に濡れ衣を着せようとしたのならどんなに良い人でも許せない。

「ああ。……すまなかった。言い訳になるが、窃盗の容疑をかけるために渡したんじゃないぞ?」
「え?」
「聖剣と勇者は繋がっているものだ。君が聖剣を手にしたら、君が勇者だと言い逃れが出来ないような事象が起こることを確信していた。リッチを倒した後に聖剣が修復されていたようにね」
「……」

 聖剣に何か反応が出るはずだから、それを僕が勇者だという証明にしようとしていたってことか?
 いい加減な感じがして信用でいないが、聖剣について僕よりも知識のあるジュードだから確証を持っていたのかもしれない。
 ……納得は出来ないが。

「仕組んだわけではないが、君の名誉を傷つけるような結果になったことは謝罪する。窃盗騒ぎを丁度良いと利用し、王都に連れて行こうとしたこともすまなかった。君にも、君の両親にも謝りたい。どうか許して欲しい」
「僕を嵌めるためにロイを使ったわけじゃないんですね?」
「あの子を? ……ああ、そうか。オレがあの子を使ったと思っていたのか。もちろん違う。元々聖剣は君の手元に届けるつもりだった。そこにあの子が謝りに来てくれて……。オレは君の家に入ることが出来ないからあの子に託したのだが、自分で行けば良かったな。それと、あのポンコツが盗まれたと騒ぎ出すとも思わなかったのだ。あいつのものではないからな。まさか本当に自分は勇者だと思っていたとは」
「……」
「信じて貰えないか?」

 正直に言うと半信半疑だ。
 父さんの部下らしいから信じてもいいかなと思うが……容疑をかけられた時に掴まれた腕の痛みは忘れないぞ。

「……もういいです。父さんと母さんがお世話になったみたいですし」

 信頼は出来ないけど、少なくとも父さんを慕ってくれているのは本当だと思う。
 そういう人には良い人であって欲しいという願いを込めて水に流そう。
 心が狭い僕はふて腐れながら許した。

「ありがとう」
「……」

 顔を逸らしていると大きな手で頭を撫でられた。
 ちょっと父さんの手と似ている……というか子供扱いしないで欲しい。

「男二人で何をいちゃついておるのだ」
「!? ……エルか。変な言い方をするなよ!」

 物音が全くしない中で急に声がしたから吃驚してしまったじゃないか。
 エルが戻って来たようで、人の姿で行儀悪くテーブルの上に立っていたのだが……。

「え。一人? 二人を置いて戻って来たのか?」
「ああ。あの場所にいていいのは試練を受ける者だけだ。ほら、見せてやろう」

 エルが宙に浮いていた鏡に手をかざすと鏡面に波紋が起き、そこに景色が映り始めた。
 聖剣ってこんな力もあるのだなあ、と感心しながら目を向ける。

 生い茂る木々、簡素な民家、小さな宿屋、のんびりと過ごす村人達。
 そこは――。

「あれ? 映っている場所……この村だよね?」
「そのようだな」

 エルが頷いてくれたがそれ以上の言葉はない。
 どうやら詳しく説明してくれるつもりはないようだ。
 ジュードも静かにしているので、僕も大人しく鏡を見ることにした。
 見守っていると、村の民家の間を二人の少女が歩いている光景が映った。
 並ぶと対照的な涼しげな水色と燃えるような赤の髪が揺れている。

『聖獣ってどういう姿なの? 何かの動物?』
『……知りません』
『知っていて隠しているんじゃないでしょうね!』
『そんなことはいたしません。……あなたじゃあるまいし』
『なんですって!』
『あなたはルーク様に素顔を隠させていたような人ですから』
『……っ』

 早速揉めているじゃないか。心配だなあ。
 そしてアリアが言い負けている内容が気に食わない。
「アリアに隠すように言われたけど、手ぬぐいをつけ続けたのは自分の意思です」と聖女に抗議したかったが、今言っても無駄なので黙る。
 絶対後で言おう。

「ん?」

 大人しく見ていると、おかしなところに気がついた。
 見知った村の人達の様子が『今』とは違う……皆が若い。
 それに最近立てた倉庫がない。
 ……ということは?

「昔の村?」
「昔?」

 僕の呟いた言葉を聞いてジュードが首を傾げている。

「あ、ジャック!」

 村の中を歩いている子供の一人に目が釘付けになった。
 それは子供の頃一緒にやんちゃをした友人のジャックだった。
 悪友の懐かしい姿に思わず顔がほころんだが……僕より二つ年上のジャックが鏡の中では子供だ。
 それに今、村にはジャックはいない。
 ジャックは去年結婚したのだが、村での稼ぎでは満足出来ないと外に出稼ぎに行った。
 やっぱりここは『昔の村』ということだろう。

「あ」

 ジャックが通り過ぎて行ったあと、何やら見慣れた金色の髪の少年がてくてくと歩いてきた。
 あれは……。

『ルーク!』
『ルーク様!』

 まだ手ぬぐいもつけていない頃の子供の僕だった。
 僕ってこんな感じだったっけ。
 なんだか生意気そうに見える。

「ほう、この頃から麗しい! 美少年ではないか!」
「目元はミリア様似だが、やはり団長にも似ている。子供の頃の団長を見ているようだな」

 思い思いの感想が聞こえてきた。
 何の鑑賞会だ、これは。
 何だか自分を見るって変な感じだな。

『な、何!?』

 二人の少女に大きな声で呼び止められた子供の僕はとても吃驚していた。
 目を見開いていたが……聖女を目に止めると、段々顔が赤くなってきた。

『……』

 聖女の前で恥ずかしそうにする僕よ、何故だ……。
 ……服か?
 村には聖女のような、お腹が出ていて胸も強調されているような服を着ている人はいない。
 だから照れてしまったのだと思う。
 僕に聖女と会った記憶はないのだけど、覚えていないだけなのだろうか。
 ここは過去というわけではなく、ただ幻影が作り出しただけの村、とか?
 目が合うとバッと視線を外した子供の僕を見て、聖女はどことなく嬉しそうだ。

『エロガキ!』

 すぐにアリアの粛正が入った。
 子供の僕の両頬を摘まんで引っ張っている。

『うぅ!? なんだよ、酒臭い姉ちゃんだな!』
『なんですって! ルークのくせに生意気ね!』
『子供に怒鳴るなんて信じられません! ルーク様、お許しください』
『え? あ、うん……』

 うわあ……子供の僕はどうも聖女に弱いらしく、照れながら顔を逸らしている。
 頼むから余計なことは言うなよ?
 アリアの機嫌を悪くするようなことは……!

『あ、僕行かなきゃ。美人のお姉さん、ばいばい! ……そっちの方は朝からお酒を飲むのを止めた方がいいよ』

 子供の僕は聖女には笑顔を、アリアには苦い顔をして去って行った。
 ……最悪だ。

『美人のお姉さんだなんて。ふふっ、ルーク様ったら』
『ルーク……後で絞める』

「理不尽……」

 本当に自分かどうか分からない奴の責任まで負わなければいけないとは……辛い。
 というか、お酒を飲まない方がいいというのは子供の僕に同意だ。

『あ、猫』

 二人の前を真っ白な猫が横切った。
 それは毛が長い猫で、よく手入れされているようでふわふわの毛並みを自慢げに揺らしていた。
 血統の良さそうな猫だが、こんな猫は村にいただろうか。

「あ」
『!』

 僕が猫のおかしなことに気がついたと同時、聖女が猫に向かって走り出した。

『え? ちょっと、どうしたのよ!』

 アリアは何も気がつかなかったようだが、走り出した聖女を追いかけた。

「今の猫、影が無かったな」

 ジュードから聞こえてきた呟きに頷いた。
 僕も猫にだけ影がないことに気がついた。
 あの猫が聖獣なのかもしれない。

「試練ってあの猫を捕まえること?」
「さあな。試練の内容は毎回違う。聖獣も一匹ではない。今回はあやつらに合った聖獣が出向いているはずだ」
「へえ」

 あの猫の姿のままだと戦闘に役に立つとは思えない。
 あれは仮の姿なのだろうか。
 エルはやっぱり説明する気はないようなので、再び意識を鏡に集中した。

 どうやら二人は猫を見失ったようだ。
 キョロキョロと視線を動かし、猫を探しながら外を歩いている。

 二人の周りには懐かしい村の風景が映っている。
 昔から変わっていないと思っていたけど、案外変化はあるんだなあ。
 今は空き家になっているところに人の姿があったり、取り壊される前の建物あったり。
 人の数は少しずつ減っていたから、今鏡に映っている風景の方が賑やかに見える。

「……父さんと母さん、いるのかな」
「存命していた頃の村ならいるんじゃないか」
「……」

 エルの言葉を聞いて、鏡の端から端まで探してしまった。
 少しでもいい。
 二人の姿を見たい。
 そんな僕をジュードが見ている。
 僕を見るくらいなら一緒に探して欲しいのだが……。

「ん?」

 流れていた景色が止まったと思ったら、二人の足が止まっていた。
 その先では、男の子と女の子が話をしていた。
 金色の髪の男の子、それに赤い髪の女の子……アリアだ。
 子供の頃のアリアだ!!

「可愛い! 子供のころのアリアをまた見ることが出来るなんて!」
「勇者よ、やかましいぞ。黙って見ろ」
「ごめん! でもアリアが可愛くて! 見てよ!」

 僕の目は小さなアリアに釘付けだ。
 髪は今ほど長くない。
 でも眼光の鋭さは今と同じで思わずくすりと笑ってしまった。

『ルーク!』
『……なんだよ』
『また村の外に行こうなんて考えていないでしょうね!』
『うるさいな。僕に構うなよ』

 アリアを鬱陶しそうにしている僕を見てエルとジュードは驚いた。

「なんだ。勇者よ、今と随分態度が違うではないか」
「邪険にしているようだが?」
「はは、そうなんだ。子供の僕は本当に馬鹿だなあ」

 この頃の僕はアリアに冷たい態度を取っていた。
 母さんがいう『お子様』な僕は、アリアの優しさに全く気がついていなかった。

「ん?」

 アリアを袖にして去って行こうとした子供の僕だったが……少し進むと踵を返して戻ってきた。

『……何よ』

 顔を顰めるアリアの前に立つと、子供の僕は不機嫌そうに話し始めた。

『この前、僕とジャックにお使いを押しつけただろ』
『それが何よ』
『持って行ったら、パン貰ったんだぞ。いいだろ!』
『ふーん』

 ……子供の僕は何をしたいんだ?
 自慢したいだけ?
 我ながら性格の悪いな……。
 こんなことあったかなあ。
 駄目だ、全然覚えていない。

『……本当は知っていたんだろ、パン貰えるって』

 ボソッと呟くと、ポケットから小さな包みを取り出した。
 小袋というか、ハンカチにリボンを巻いて止めたようなものだった。
 子供の僕はそれをアリアに向けて差し出した。

『ん』
『……何?』
『母さんが作ったクッキー。美味いけど、僕はもう飽きたから』
『……』
『捨てたら怒られるからやるよ』
『私をゴミ箱扱いする気!?』
『そーだよ! じゃあな!』

 押しつけるようにアリアの手に握らすと、子供僕は走り去って行った。
 どうやらアリアにクッキーをあげたかったらしい。
 我ながら素直じゃない。
 後ろ姿を見ると、耳が赤かった気がするが気のせいだ……気のせいだ!

 そうだ……思い出した。
 外に出ると危ないと心配してくれことに素直に「ありがとう」は言えないし、パンのお礼も言えなかったからクッキーを渡したんだった。

 ……エルとジュードからニヤニヤと笑う視線を感じる。

「……何だよ」
「いや」
「素直じゃないのう~。随分と可愛いリボンがついていた気がするが?」
「……っ」

 そうだよ、アリアが好きそうなリボンを選んだからな!
 ちらりとジュードを見ると、アリアと喧嘩した僕を宥める時の父さんのような顔をしていた。
 この余裕のある笑みが勘に障るんだよなあ、なんてことを思い出した。

 鏡の中の大きいアリアと聖女を見ると、子供の僕が去って行った方を見ながら微笑んでいた。
 二人はからかうような感じではなかったが、それはそれで恥ずかしい……。
 これ、なんていう苦行?

 ……小さなアリアを見て和もう。
 取り残された小さなアリアは呆然と子供の僕を見送っていたが、姿が見えなくなると小さな手で僕が渡したクッキーをそっと握りしめて胸に当て、呟いた。

『……やったぁ』

「!!!!」

 それは小さな呟きだった。
 でも、僕の耳にはしっかりと聞こえた。
 僕が渡したクッキーを大事に胸に抱き、嬉しそうにニコッと微笑んだ小さなアリア。
 小さな手と頬が赤く染まっていて目は少し潤んでいた。

 こ、これは……これは……なんて……なんてっ!!!

「可愛いいいいっ!!!!!!」

 僕は思わず立ち上がった。
 ああ、僕があんな可愛げの無い態度で渡したクッキーで、アリアがこんなに喜んでいたなんて!!
 恥ずかしくてリボンしか気を利かすことが出来なかったことが悔やまれる。
 もっといいものにすればよかった!!

 大きい方のアリアは、「ルークに貰ったっ」と更に顔を赤くしている小さなアリアを見て固まっていた。
 固まっているが、小さなアリアに負けないくらい顔が赤い。

 小さいアリアと大きいアリアの両方が可愛い!!!!!
 苦しい……っ!

「おい、大丈夫か」
「大丈夫じゃないです。ジュードさん、助けてください」

 正常な呼吸が出来なくなった僕は立ったままテーブルに上半身を突っ伏した。
 聖獣の試練ってなんなんだ……僕を殺す気か!!
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