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多分僕が勇者だけど彼女が怖いから黙っていようと思う 作者:花果 唯

本編

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迷いがないように

 歩ける程度に気力が戻ったところで家に戻ることにした。
 不本意だが聖剣は僕の腰にぶら下げた。
 聖女達もついてこようとしたが全力でお断りした。
 ただ、『勇者』についての話は聞くことにしたので、あとから宿屋に行くと伝えてある。

 聖剣が僕以外にも意思を伝えることが出来るようになってしまったし、村の人達の前で魔物を倒してしまったから、「勇者だなんて知りません」ととぼけるのは難しいだろう。
 それでも、アリアの側を離れて勇者をするつもりは毛頭無いが、勇者をしなくても何か役に立てることがあるなら力になる。
 そういう話をしたいし、勇者についても一般的なことしか知らないので話を聞けるなら聞いておいた方がいいだろう。

 すぐに宿屋には行かず戻って来たのは、もちろんアリアの様子が気になるからだ。
 会いたいのに会うのが怖い。
 帰路を辿る足も速くなったり遅くなったりしている。

「勇者よ、我の人の姿が恋しくなったらすぐに言うのだぞ? 言わなくても夜は添い寝してやるから安心しろ」

 今は人の姿は消し、大人しく腰の鞘に収まっている聖剣が無駄口を叩く。
 エルは剣だけの状態でも声として会話が出来るようになっていた。
 今まで通り、外部には聞こえないように話すことも出来るそうだが、声を出す方が好みらしい。
 僕も聖剣と話しているところを人に見られても独り言だと思われないから、こちらの方が助かる。
 いや、姿がないと一人で二人分の声を出しているという不審者に思われてしまうか?
 それだと病み度が増したじゃないか。
 なんて迷惑な奴だ。

「添い寝なんてしたらまた折るから」
「! 勇者よ……我は折れても直るが……あれはとてつもなく痛いのだ! もう二度とごめんだ!」

「うぅ……」と悲しそうな声を出しているが、嘘泣きだということは分かっている。
 恐らく痛いのは本当なのだろう。
 一度折ってしまったことは反省している。

「悪かったよ、ごめん。折らないけど、人の姿でくっつくのはやめて欲しい。アリア以外に触られても不快なだけだから」
「不快?」
「不快」
「不快なだけ?」
「不快なだけ」

 エルが僕の台詞から拾った言葉を復唱する。
 聖剣がカシャンと物悲しい音を立てたような気がするが聞かなかったことにする。

「我は気配だけだ。実際に触れているのではないと言っただろう?」
「それでも不快」
「ぐぬぬ……不快不快と連呼しおって……!」
「不快」
「勇者、お前な……」
「聖剣は聖剣職だけしていればいいのに」
「はっ! どこぞの勇者のせいでな。我は聖剣としての出番が少ないのだ。折角得た人の姿を楽しまないでいてはやっていられぬのだ」
「……」

 確かに聖剣職が出来ない原因は、聖剣を使わないのは僕だった。
 言い返せない嫌味を言われ、形勢が悪くなったので黙ることにした。
 聖剣はずっと喋っていたが聞き流し、黙々と家路を急いだ。



 僕の家の玄関の扉は僅かに開いていた。
 アリアが飛び出し時のままになっていたのだろう。

「……ただいま」

 少し期待しながらいつもの言葉を口にしたが、望んだものは返って来なかった。
 誰もいない。
 家の中は静かだった。

 アリアはこの家には帰らなかった。
 隣の実家に戻ったのだろう。

「……寒い」

 迎えてくれる暖かさを思い出してしまっていたからか、この人のいない冷たさはたまらなく悲しかった。
 すぐに家を出て鍵をし、隣の家に向かう。

「……はあ」

 隣の家の前で立ち止まり、溜息をついた。
 アリアに会いに来たが、何を言えばいいのだろう。
 勇者をせずにそばにいると言ったのに、「いらない」と言われてしまった。

「……あっ」

 無意識にアリアの部屋がある二階を見ると、窓際に立っていたアリアと目が合った。

「アリア!!」

 声を掛けると勢いよくカーテンを閉められてしまった。
 拒絶されたようでまた悲しくなった。
 アリアが中にいることは分かったが……呼んでも出てきてくれるのだろうか。

「ルーク!」
「ああ、ロイ」

 後ろから名前を呼ばれたと思ったら、ロイがあの広場から戻って来たようだ。
 笑顔で僕の前まで駆けてきた。

「姉ちゃんのことだろ? おれに任せとけって!」
「うん? えっと……?」

 任せとけと言われても……任せたらどうなるのだろう。
 ロイはアリアと喧嘩している時に「別れろ」と言っていた。
 聖女と付き合えとか、恐ろしいことも言っていたはずだ。

「……自分でなんとかするよ」
「遠慮するなって! ルークはすぐに旅立っていいから!」
「いや、それは……」

 僕を応援してくれているのだと思うが、なんだか追い出されるようで悲しい。
 もっと側にいさせてください!

「あ」

 もう一度アリアの部屋を見上げると、カーテンの隙間からアリアが覗いているのが分かった。

「……」

 可愛い……カーテンの隙間が恐ろしく可愛い空間になっている。
 微かに見える赤が愛しい。
 後ろから抱きしめたいのに、近づけないのが辛い!
 こんなの拷問じゃないか!

 くよくよしている場合じゃなかった……なんとか話をする!!
 絶対に!!

 固く決意をし、ロイをどう説得してアリアのところまで行くか悩んでいると、家の中からシェイラさんが出てきた。

「シェイラさ……」

 挨拶をしようかと思ったが、シェイラさんの表情を見て止まった。
 どこか悲しそうな、怒っているような……複雑な表情をしていた。
 そしてその表情から、僕は歓迎されていないということを感じた。

「ルーク」

 シェイラさんの静かな声に、思わず背筋が伸びた。

「アリアはうちに戻って来ているよ。……今はそっとしておいてやってくれないかい?」
「……」

 シェイラさんはアリアから何か聞いたのだろう。
 僕を見る視線には責めているような色が見えた。

「アリアはあんたのところに嫁ぐのはやめた、と言っていたよ」
「……」

「旅立て」「消えて」と言われたのだから、昨日の婚約の話は無くなった可能性は考えていた。
 分かっていたのに、シェイラさんの口から言われてしまうと辛い。
 昨日の今日でこんなことになって、申し訳ない気持ちでいっぱいで……。
 シェイラさんの目を真っ直ぐに見ることが出来ない。

「どうしてアリアがあんたを手放したか分かるかい?」
「手放す?」

 聞かれた質問の意味が分からず、恐る恐るシェイラさんに顔を向けた。

「そうさ。あの子は物心ついた時からあんたのことを捕まえて誰にも譲らなかった。あんたは自分の方が気持ちが強いと思っているかもしれないけど、アリアには敵わないよ。あの子は、親の私が見ても心配になるくらいあんたがいなきゃ駄目なのさ。なのにあの子は、あんたから離れることを選んだ。どうしてか分かるかい?」
「……」

 聞かれたことの答えも分からないし、言われた内容も理解出来なかった。
 なんだか僕はとてもアリアに愛されているような風に聞こえたが……。
 アリアが僕をいらないと言ったのは、勇者なんてものになってしまった僕が嫌いになったからとしか思っていなかったけど……違うのか?

「ルーク、アリアに会って何て言うんだい?」
「そ、それは……」

 ……分からない。
 とにかく話をしたくて、今話さないと一生話が出来ないよう気がして……。

「アリアに会うのは、ちゃんと腹を決めてからにして頂戴。じゃないと、いつまでもお互いに辛いだけだと思うわよ」
「……」

 腹を決めてから、か。

 僕は勇者にはならないと決めたけど……「本当にそれでいいのか?」という思いは捨てきれていない。
 勇者であることよりアリアの側を選んだことに僅かだが迷いがあると見抜かれたようで辛い。

「勘違いしちゃだめよ」
「え?」
「ルーク、あんたのことを責めているんじゃない。あんたもね、アリアの嫁入りに関係なく私の息子だ。親友が私に託した大事な息子なんだ。だから私は二人とも幸せになって欲しいんだよ」
「……シェイラさん」

 息子だという言葉が嬉しくて大きく頷くと、慰めるように腕をポンポンと叩いてくれた。

「後悔しないようにね。あんたはあの二人の血を引いているんだから、大丈夫だと思うけどね」
「……はい」

 そうだ、父さんと母さんは強い人だった。
 今の僕を見たら、二人はきっと怒る。
 ……しっかりしなきゃな。

「改めてまた来ます」

 シェイラさんにそう告げ、もう一度アリアのいる窓を見た。
 今はカーテンがきっちりと閉められていてアリアの姿は見えないけれど、きっといると思う。

「待っていてね」

 僕は勇者についての話を聞いて、ちゃんと向き合ってくる。
 腹を決めて、アリアを幸せにする方法をしっかり考えて、また会いに来るから。



「……『母』とはよいものだな」
「そうだね」
「……」

 宿屋を目指して歩き出し、シェイラさんとロイが見えなくなったところで聖剣が呟いた。
 声色が珍しく優しいものになっている。
 かつて聖女として生きていたエルにも母はいるだろうし、もしかしたらエル自身も母だったのかもしれない。
 聞いてみようかと思ったが思い出に浸っているのか静かになったので、そのままそっとしておくことにした。

「ん?」

 宿屋に辿り着くと、入り口の前で五人程が固まって話をしているのが見えた。
 どうやら空気が良くない、揉めている。
 喧嘩ではないが、いつそうなってもおかしくない感じがした。
 仲裁すべきかと足を早めて近寄ってみれば、そこにいたのはトラヴィスときのこ君だった。
 宿屋の人達と口論になっているようだ。

「どうしたんだ?」

 僕は宿屋の人より、取引相手で話しやすいきのこ君に声を掛けた。
 だが、反応したのはきのこ君じゃなかった。

「お前が俺を道化にしたせいで!」

 僕の顔を見たトラヴィスが顔を真っ赤にして叫んだ。
 僕は何の話だ? と首を傾げた。
 すると宿屋の人達がサッと動き、威圧するようにトラヴィスの周りを取り囲んだ。

「偽物勇者がなにルークに偉そうにしてやがる! 大体、聖剣泥棒はお前の方だったじゃないか! ああ、ルーク! 可哀想に……泥棒扱いされて!」
「これ以上泥棒を泊めるわけにはいかないね! ルーク、部屋が欲しかったら準備するからな」
「泥棒はもう村を出て行っておくれ!」
「な……誰が泥棒だ!」
「トラヴィス様! 私がお話ししますから! ここはお下がりください!」

 あー……なんだかまずいことになっていた。
 僕が勇者だと広まったことで、それまで勇者だと言われていたトラヴィスはまるで罪人のような言われ方をするようになったようだ。
 きのこ君は宿の人とトラヴィスの間で必死に弁明しようとしているがトラヴィスの態度が悪いため、宿の人達は怒る一方だ。

 確かにトラヴィスは勇者ではないのだが、僕は利用していたのでこんな状況になっているのは申し訳ない。
 なによりきのこ君が可哀想で、つい口を挟んでしまった。

「えっと、色々事情があって……トラヴィスには協力して貰っていたんです。だから、騙していたとかではなくて! えっと……これも『作戦』なんです!」

 勇者になるのが嫌だから押しつけていたとは言えないので、適当に誤魔化すことにした。

『相変わらず壊滅的に嘘が下手だな』

 声に出さないならわざわざ言わなくてもいいと思う。

「作戦?」

 案の定宿屋の三人は混乱していたが、きのこ君がすぐにフォローをしてくれた。

「トラヴィス様が聖剣を預かっていたのは、魔物の目を欺くための作戦だったのです! 勇者として目覚めたばかりの勇者様に怪我をさせるわけにはいきませんから」

 必死な様子は続いていたが、努めて冷静に説明をするきのこ君。
 方便だが、僕とは違って納得させる力のある物言いだった。
 なんて優秀なきのこなんだ。
 それは功を奏したようで、三人の顔から怒りは消えていった。

「まあ、そういうことなら……」
「ルークも怒っていないみたいだしな」
「まあ……その……絡んで悪かったよ」

 そう言うと三人は、気まずそうにトラヴィスやきのこ君の肩をポンと叩いて中に戻って行った。

 あ、違う。
 今の話だと僕が勇者になっている。
 間違えた。
 僕が勇者であることは否定しておかなければならなかった。

 とりあえず解決することは出来たが……気に入らないのか、トラヴィスの顔は険しくなっていた。

「……お前、随分と俺を馬鹿にしてくれたじゃないか。自分が勇者だと分かっていながら俺に聖剣を渡し、道化にするなど……。あんな派手な戦闘をしたあとで俺に聖剣を渡そうとするなんて、嫌がらせでしかないよな」

 トラヴィスが歯を食いしばりながら僕をジロリと睨んだ。
 怒りを抑えているのか握りしめた拳が震えている。

「トラヴィス様、それは私が……」
「お前もそうだ!」
「!?」

 宥めようとしたきのこ君の胸倉を掴み、トラヴィスは怒鳴った。

「お前もそうやって俺を馬鹿にしている!!」
「え……」

 きのこ君が目を見開いているのが見えた。
 トラヴィスは呆然としているきのこ君に舌打ちをすると、乱暴に掴んでいた胸倉から手を離し、宿屋の中に消えて行った。

「……」

 残されたきのこ君はトラヴィスが消えて行った方向を見て放心している。

「……えっと……ごめん」

 僕は余計なことをしてしまったかもしれない。
 申し訳なくなって謝ったのだが、彼は悲しそうに微笑むと首を振った。

「……いいえ。やっぱり、嘘はいけませんね。女神様はちゃんと見ていらっしゃるんですね。聖剣を渡したことで……勇者ではないのに勇者をさせてしまうことで……トラヴィス様を傷つけてしまいました」

 トラヴィスは本当に自分が勇者だと思っていた。
 後から勇者じゃなかった、偽物だと言われてプライドが傷ついたと思う。
 僕も加担して、ひどいことをしてしまったなとは思うが……。

「君が聖剣を渡したのは、彼のためにやったことだ。僕も共犯だし。でも……こう言っちゃなんだが、実力が足りないのは彼自信の問題で……」

 トラヴィスにも非がないかと言うと、僕はそうは思わない。
 偉そうなことを言ってしまうが、トラヴィスには努力の形跡が見えなかった。
 戦闘ではきのこ君の方がよっぽど優秀だった。
 トラヴィスには甘えがある。

「ええ、ですから私は間違えました。私がしなければいけないのは、聖剣を渡すことではなかったのです。私がしたことは、トラヴィス様を傷つけただけです」

 そう言うときのこ君は俯いてしまった。
 顔が見えなくなると更にきのこ感が増す……じゃなくて、こんなに考えてくれる人が側にいてトラヴィスは幸せ者だと思う。
 トラヴィスはきのこ君が誇れるような立派な剣士になって欲しいと思う。

「でも……正直に言うと、聖剣をお返し出来てホッとしました」
「え?」
「本当は怖かったんです。……世界中の人を欺くなんて。私の嘘のせいで、あなたに救われるはずだった誰かが傷つくかもしれないと思うと。あなたの強さを見て、やっぱり間違っていたと思いました。……どうか、その聖剣でたくさんの人を救ってください。あなたなら、それが出来ると思います」
「……」

 静かに微笑むきのこ君の言葉は、聖女に同じようなことを言われた時よりも胸に刺さった。
 勇者であることを否定するのは、真っ直ぐに向けられたこの言葉を裏切るようなものだ。
 ……トラヴィスに偉そうなことをいう権利は僕にはないな。

「ルークさん、ご迷惑をお掛けしました」
「……こちらこそ、すみませんでした」

 宿屋の前でお互い深々と頭を下げ合った。

「トラヴィスはどうするんだ? 勇者じゃなきゃ家には戻れないんだろう?」
「……はい。どうされるかはまだ伺っていませんが、私はどこだろうとトラヴィス様について行きます」
「きのこ君は偉いね」
「きのこ君……」
「あっ! ……ごめん」

 また僕の中での愛称を言ってしまった。
 更に申し訳ないことに、名前を忘れてしまった。
 名前もきのこっぽかったことだけは覚えているが。

「いえ、構いませんよ。あ、でもせめて、『きのこちゃん』にして貰えますか?」
「え?」

 どうしてだ?
 可愛らしい方がいいのか?
 首を傾げていると、「やっぱり勘違いされていますね」ときのこ君……改めきのこちゃんは笑った。

「これでも一応性別は女なので」
「え…………ええええええ!?」

 思わず大きな声を出してしまい、近くにいた人達に注目されてしまった。
 視線は気になるが、今はそれどころじゃない。

「え? あいつ、さっき胸倉掴んでなかった? 女の子だって知らないのか?」
「ご存じですよ。……『女』だという意識は持たれていませんけどね」
「ええー……」

 あいつというのは勿論トラヴィスだ。
 女の子相手に何をやっているんだ!?
 あ、待ってくれ……僕も確か……最初に助けた時に……!!

「ごめん!! 僕、君に思いっ切り蹴りを入れたよね!? 本当にごめん!!」
「あ、いや、あの時は助けてくれたと分かっているので! 謝らないでください!」

 今まで気がつかなかったのも失礼だけど、女の子に跳び蹴りとか……!
 アリア以外の人にあまり興味を持てなかった弊害なのかな……。
 これからは気をつけよう。

「トラヴィス様が胸倉を掴んできたのは多分、カッとなって私が女だと忘れてしまったのだと思います。きっと後から謝ってくださると思いますよ? トラヴィス様はそういうところは誠実ですから」
「いや、誠実な奴は女の子の胸倉を掴まないと思う」
「それは確かに」

 クスクスと笑っている様子は、言われてみれば確かに女性的だ。
 体つきはローブを着ているのであまり分からないが、身長はアリアと同じくらいだ。
 きのこ頭の一部である前髪で目が隠れてしまっているので、ハッキリと顔は見えていないのが勿体ない気がする。
 そういえば僕も隠しているのは勿体ないと言われたっけ。

 なんてことを考えていると、自然ときのこく……ちゃんの前髪に手が伸びていた。
 今まで男だと思っていたからか触れることに全く抵抗がなく、つい前髪を捲ってしまった。

「あ、可愛い」

 きのこの傘の中にあったのは、優しい橙色のぱっちりとしたつぶらな瞳だった。
 よく見ると顔に少しそばかすがあるが、それが素朴で可愛らしい。
 やっぱり隠しておくのは勿体なかった。

「!!!!」

 きのこちゃんはとても驚いたようで、目がこぼれ落ちそうなくらい見開いている。
 顔も一気に温度が上がったようで、白きのこから赤きのこに変わった。

「わ、私はトラヴィス様を追いかけなければっ! ごめんなさい-!」

 僕から離れると、慌てた様子で宿屋の中に入って行った。
 風のように早い動きだった。
 そんなに嫌だった?
 ちょっと傷ついたよ。

「勇者よ、フラれたな」
「ははっ、みたいだね」

 聖剣の言葉に笑いながら、自分も宿の中に足を向けた。

 きのこちゃんは聖剣や聖女より断然可愛いと思う。
 健気だし、なによりまともだ。
 心穏やかに会話できるって素晴らしい。
 あんなに気に掛けてくれる子とずっと一緒にいられるトラヴィスが羨ましい。
 僕は余計にアリアが恋しくなってしまった。

 宿屋のカウンターで聞いた聖女と騎士が待つ部屋の扉をノックする。
 小さな宿屋の中で一番大きな部屋だった。

「勇者様、お待ちしておりました」

 扉を開けたのは騎士だったが、声を掛けてきたのは聖女だった。
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