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多分僕が勇者だけど彼女が怖いから黙っていようと思う 作者:花果 唯

本編

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借りただけなのでお返ししたいです

「エルメンガルト」

 もう一度名前を呼ぶと聖剣は魔物の頭から消え、僕の手に戻って来た。
 わざわざ回収しなくても済むこの機能、本当に便利だな。

『初めての共闘でぶん投げられるとは思わなかったぞ、勇者よ! お前は聖剣の扱いというものを知らぬな! 女にモテぬぞ!』
「アリアがいるからモテるとかどうでもいい」

 軽口を叩きながら魔物の前に立つ。
 魔物は聖剣が抜けたことで痛みは治まったらしく、身体を起こしてこちらに頭を向けた。
 そして僕を敵だと認識したらしい。
 目が合うだけで呪われそうな暗い瞳が僕を捉えた。

 エルメンガルトを構え、魔物に向けて対峙した。
 魔物は様子を見ているのか動かない。
 こちらの出方を伺っているようだ。
 手負いの獣のくせに意外に冷静なんだな。

 僕の後方にはアリア達がいる。
 背後を守りつつ、村に被害が出る前に始末したい。

 ここは広場のようなとこで木は多少あるが民家とは離れている。
 アリアを助けることが出来た今だから言えることだが、魔物が現れたのはここでよかった。
 とは言っても村の中だし、この巨体が暴れるには狭い。
 早々に始末するため、迎え撃つよりこちらから打って出ることにする。

「犬を躾けるよ」
『ああ。躾は大事よのう』

 一歩踏み出した瞬間に思った。
 ……ああ、聖剣って凄いな。
 今まで出来なかったことでも出来るようになったことが感覚で分かる。

 僕はただ駆け出すのではなく魔法で加速させ、放たれた矢のように飛び出した。
 これは僕が魔法を使っているのではなく、聖剣に魔法を使わせているという感覚だ。
 聖剣から白い光が流れ込んでいるのが分かる。
 その光は視覚でも捉えることが出来るから、今僕の身体は光って見えるだろう。

 聖剣を手にした僕の動きは魔物の目でも捉えられなかったようだ。
 突然鼻先に現れた僕に対応出来ず、立ち止まったままの魔物の見開かれた暗い目に、輝く聖剣が映っているのが見えた。
 思わずにやっと口角が上がる。
 魔物の巨体を左右真っ二つに裂くように頭から足先まで、天から地へ聖剣を振り下ろした。
 途端に魔物の苦しげな咆哮が村に響く。
 聖剣は確実に魔物の肉を裂いた。
 手にはその感触もあったのだが……。

「へえ、凄いね」
『攻撃が当たった瞬間に身を引いたようだな。あの瞬間に動けるとは大した犬だ』

 唸り声を上げる魔物を見ると、身体を縦に分断したつもりだったのだが頭が割れるに留まっていた。
 頭頂部が裂けているので普通の魔物ならこの状態でも死に至りそうなものなのだが、この魔物はまだちゃんと四本の足で立っている。
 ダメージは最初の刺さった分と合わせて蓄積されているようだが、少しずつ回復しているようだ。

 回復する時間を与えないようにしなければいけないなと思っていると、魔物の前足が動いた。
 どうやら僕に突っ込んで来るつもりらしい。
 背後にある民家やアリア達を守るため、避けずに受け止めると決めて聖剣を構えた。

 突進してきた魔物が、目の前で大きく口を開けた。
 僕を噛み殺すことにしたようだ。
 不揃いに生えた鋭い大牙が刃のように光った。
 これに挟まれたら確実に死ぬなあ、なんて思いながら聖剣を横にし、剥かれた牙を受け止める。

「エルメンガルト、欠けたりしないよね」
『馬鹿にするな。欠けても勇者が力を込めればすぐに戻る』
「ははっ、欠けるのか」

 『欠けることなんてない』ではなく、『欠けても大丈夫』だったことに笑ってしまった。
 いつもの聖剣なら「笑うな」と怒鳴りそうなものなのだが、今は気分が良いらしい。
 柄を握った手から聖剣の気分も伝わってくる。
 鼻歌でも歌い出しそうな程上機嫌だ。

 一方、暢気に会話をしながら牙を受け止められた魔物は怒りを漂わせた。
 牙を剥いたまま、左足で爪撃を仕掛けてくる。
 腹を引き裂かれるわけにはいかないので、受け止めている牙を聖剣で突き押して身体を離し、魔物の開いている口の中に横一閃をお見舞いした。

 その衝撃で吹っ飛んだ魔物の大きな身体が後方に飛ぶ。
 地面に落ちると土を抉りながら転がったのだが……。

「うわ……今のちょっと危なかった」

 爪撃は避けたが、それと同時に魔物は風の刃を放ってきていたのだ。
 瞬時に聖剣の力を使い、身体の前に光の盾を作り出したが……少し遅れた。
 その結果、腹に傷を負った。
 浅い傷でなんてことはないが、血が出たのは久しぶりだ。
 それに魔物が光の盾を打ち消す能力を持っていなくて助かった。
 盾がなかったら死んでいた。

『油断するからだ』
「エルメンガルトが笑わせたからだろ」

 相変わらず楽しそうな声の聖剣が馬鹿にしてくる。
 確かにさっきは油断をしてしまっていたが……聖剣のせいだということにしておいた。

「あいつ、独り言でなにを……いや、聖剣と会話しているのか?」
「……やはり」

 聖女とトラヴィスの声が聞こえたが、魔物がまだ頑張るようなので意識を前に戻した。
 口の中に見舞った一閃が効いたようで悶えていた魔物だったが、また仕掛けてくるようだ。
 中々しぶといな。

 『グォォォォ』と地響きを起こしながら低く唸り始めると、頭に魔力が集まり始めた。
 何をするつもりだ?
 大きな魔法を使われてしまってはこんな小さな村は一瞬で跡形もなく消えてしまう。
 頭を切り落とそうと駆け出した。

 最初の一太刀の時とは違い、突如近くに現れた僕に魔物は対応した。
 魔力を溜めている頭を僕に叩きつけようと大きく首を振り、迫ってくる。
 聖剣を使い、光の盾を出現させてそれを受け止めた。
 グルルルという獣特有の唸り声が目の前で響く。
 わあ……獣臭いし。

「ぐっ……結構押されるな」

 身体の大きな魔物の力は強い。
 聖剣を持っていても耐えるのが中々辛い。
 これを続けるのは分が悪そうだ。
 タイミングを見て光の盾を消し、魔物が一歩前に出た瞬間にがら空きとなっていた大きな身体の側面を思い切り蹴り込んだ。
 さっきよりも勢いよく、更に遠くに魔物の身体は飛んで行く。
 アリア達から離れることも出来てちょうど良かった。

『もう仕留めた方がよいぞ。こいつはケルベロスだ。魔力が溜まると頭が増える。そうなれば面倒だ』
「そうなんだ? そういうのはもっと早く言って欲しかったな」

 確かに頭に集まっていた魔力は転がっている今も消えていない。

「じゃあ一気に仕留めるから聖剣の力を沢山貰うよ?」
『ああ。どこぞの勇者のせいで力は有り余っている。存分に使え!』

 楽しそうな声を張り上げたエルメンガルトを握る力を強くすると、刀身から光が溢れだした。
 自由に出来る力の全てを引き出してやると、光は虹色に変わった。
 いかにも聖剣といったその光景には苦笑いをしてしまったが、エルメンガルトは誇らしそうにしている。
 聖剣は美意識が高い、だっけ?
 確かに拝みたくなるような高大で美しい光だけど……派手過ぎて僕の好みではないな。

 くすりと笑いを零していると、獣の鳴き声が聞こえた。
 倒れていた巨体が再びのっそりと起き上がった。

 一撃で仕留めるように構える。
 魔物の方もこれが最後だと分かったようだ。
 頭に流れていた魔力が止まり、牙へと流れ初めた。
 牙に全ての力を託すのだろう。

 こちらは聖剣、向こうは牙。
 同時に駆け出し、二つの『刃』が交じる――。

 それは一瞬の交差だった。

 手にした光、エルメンガルトは鋼鉄のように硬い牙をバッサリと切り落とし、すれ違いざまに魔物の身体を地面と平行に分断した。
 駆け抜けた僕の視界の端に、魔物の身体が上下に別れて行くのが見えていた。

「……くっ」

 一気に力を使った疲労で少し足がもたついた。
 聖剣を地面に突き刺し、足に力を入れた。

 ――仕留めた……はず。

 背後でドサリと最後の地響きが起こった。
 間違いなく魔物が倒れた音だった。

 ああ、よかった……頭が増える前に倒せた。
 安堵しながら、振り返えったのだが……。

「あ、あれ?」

 魔物の姿は無く――。

 ひらひらと蛍のような光が舞っていた。
 それは暫くするとスウッと空気に消えていった。

「消えた?」

 魔物は倒したら身体は残るはずだ。
 なのに魔物の姿がない。
 まさか、生きていて移動した!?
 気配がないから逃げた!?
 大混乱していると、聖剣が僕の疑問を察したようで解説してくれた。

『浄化。聖剣の能力の一つだ。魔物は世界に穢れの淀みを作る。普通に倒してしまうと穢れは残るが、我で始末した場合は残らない。淀みが減ると魔王の力も弱まる。だからこれからは我で魔物をどんどん始末していくといい!』
「……いや、これでエルメンガルトを使うのは最後だから」

 僕はまだトラヴィスに返す気満々です。

 ふう、と息を零し、とりあえずは魔物を倒したことにホッとした。

『……そうかな? お前、もう逃げられぬと思うぞ?』
「?」

 顔のないはずのエルメンガルトがニヤリと笑ったような気がした。

「お前……ルークか?」
「え? あ!」

 突然掛けられた声に振り向くと、そこにはおじいさんが立っていた。
 牛舎に閉じ込めてしまったあのおじいさんだ。
 昨日は結局、様子を見に行くことが出来ていなかった。
 心配だったのだが……うん、元気そうだ。

「わしを助けてくれたのはお前だったが……。そうか、そうかそうか……お前は、お前こそが勇者だったんじゃな!!」
「え!?」

 気づけば村の人が周囲にいた。
 離れていた人達もこちらに駆け寄ってきて……どんどん包囲されてしまう。

「本当だ……勇者だ……今のデカい奴……一人で倒しちまった……」
「聖剣に選ばれた勇者だ……!」

 耳に入ってくる誰かの呟きにハッとした。
 思わず自分の右手を見る。
 僕はまだ仄かに白い光を放っているエルメンガルトを持ったままだった。
 サーッと僕の血の気が引いていく。

 うわあぁぁぁぁ……僕は何をやっているんだ!っ!
 こんな村の中で聖剣を使って戦ったら、勇者だと自ら名乗っているようなものだ。
 バレないようにしていたのに!

 アリアを傷つけられたことで、頭に血が上っていた。
 あの魔物を倒すことしか考えられなくなっていた。
 馬鹿だよ……僕は間違いなく馬鹿だ……。

 いや、まだ諦めるな!
 まだ誤魔化せるか!?
 無理ですか!?

「ルーク。あんた、そんな綺麗な顔をしていたのかい! どこからどう見ても勇者じゃないか!」
「……へ? えっ!? ええええ!?」

 近所のおばさんが、ぐいぐいと僕の顔を覗き込んできた。
 あ、そういえば手ぬぐいも聖女に降ろされたままだった。
 というか、僕って質の悪い顔じゃないのか?

「おおおお! こりゃまたど偉い男前じゃないか! そういえばお前の親父さんもこんな村には馴染まない男前だったなあ」
「ほんとにイイ男だねえ……。あんたの母親も憎らしいくらい綺麗だったのを思い出したよ」
「ええ~格好いい~! 村にこんな人がいたなんて!」
「吃驚ね! なんで隠してたの!?」

 よく分からないが……褒められている?
 驚いた様子ではしゃぎながら声を掛けてくる人が殆どだが、中にはキラキラした目や何やら熱い視線もあって……怖くなってきた。
 勇者だということを隠しておきたい件をなんとかしたいのに、容姿のことまで騒がれてパニックだ。
 聖剣を握ったままオロオロするしかない。
 犬の始末が終わったから、早くアリアのところに行きたいのですが!

「こ、これは……聖剣は借りているだけで! ……あ!」

 僕に群がる村の人達から少し離れたところにトラヴィスときのこ君がいた。
 救いを求めるように手を振り、二人を呼んだ。
「お返しします」と聖剣を渡そうとしたのだが……。

「……受け取れるわけないだろう」
「…………えっ」

 ……なんで?

 トラヴィスは僕に背を向けると、居心地が悪そうに去って行った。
 きのこ君に渡しておけばいいかと視線を向けたのだがスッと目を反らされ……彼もトラヴィスの後を追って去って行った。

 ええ!?
 利害が一致していたはずでは!?

 ……どうしよう。

 僕にとって最後の砦だったトラヴィスに見放された?
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