優秀な庭師
あるところに、非凡な才を持つ庭師がいた。
この庭師、卓越した腕の良さもさることながら、非凡と人々に言わしめるに相応しい不思議な力があった。
彼は、手入れする庭の家主が好むものが何なのか、教えられずともたちどころに分かってしまうのだ。
それにより猫が好きな家主の庭木は愛くるしい猫の形に、酒が好きな家主の庭木はワイングラスやボトルの形へと見事に剪定してしまう。
その素晴らしい働きぶりに、依頼人たちはみな声をそろえて称賛の言葉を彼に送った。
あるとき、庭師の噂を聞きつけた大きな屋敷の夫人が、彼に庭の手入れを申し出た。
「主人が出先から帰ってくるまでに、手入れをお願いしたいの。聞くところによると、私たちの好きなものへと仕立て上げてくれるようだけど、大丈夫かしら?」
屋敷の主人が帰ってくるのは、一週間後だと言う。それに対し、庭師は胸を張って応えた。
「ご心配なく、五日程でこの広い庭を見事に手入れしてみせましょう」
この言葉に夫人は満足気に笑みを浮かべ、庭師に全てを任せることにした。そして彼女は自らも楽しみにしようと、庭師の指定した五日間は屋敷を離れることにした。
五日後、夫人は期待に胸を膨らませながら屋敷へと戻ってきた。
庭へと足を踏み入れる。見るとそこには、様々な人の形に剪定されたたくさんの庭木があった。
初めこそその意図が分からなかった夫人だが、近付いて見るや否や思わず息を飲んだ。
なんとその庭木は、女学校時代から今でも交流を続けている夫人の友人にそっくりだった。
それだけではない、他の庭木も夫人と親しい女友達の姿へと見事に剪定されていた。
これには夫人も感動し、興奮した様子で庭師へと賛辞を述べた。
「こんなに素晴らしいものに出来上がるなんて、感激のあまりに言葉も出ないわ! ただ気になったのだけれど、主人の好きなものは一体どこにあるのかしら?」
すると庭師は自信たっぷりに口にした。
「ご安心ください。確かにこれらは旦那様の好きなものでもありますので」