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神様の螺子巻き
作:小羽 朔夜



輝く闇暦


“…、貴方は帰らなくては。”
“分かっている、だけれどももう少しだけ。次の…までは。”


…またこの夢。帰りたくなくて、帰りたくて泣く夢。あの日以来、毎日とは言わないけれど、頻繁に見るようになってしまった。
以前程恐くはないけれど、やはり夢見は良くない。

緩慢な動作で支度をし、ブランチを摂ろうとしたところでヤツが来た。いつもより22分早いのはタイミングが悪いとしか言いようがない。昼の時間に合わせてきた訳ではないと思うけれど、疑いたくもなってしまう。こう、箸が動く様をじーっと見つめられていると。

“見つめることしか出来ないんだもんなぁ…自分のものでないのも分かっているし、手に入らないであろうことも理解してるつもりなんだけど。”

コイツは暗にほのめかす程食べ物が欲しかったらしい。まぁ、チェシャ猫にはミルクをあげてるから余計惨めに思ったのかもしれないのだけど。

“そんなに言わなくてもあげるから。そうやって物欲しそうに見てないでくれる?”

“そんな簡単に手に入るとは思えないんだよなぁ。諦めきれないんだけど。やっぱり潔く諦めるべきなんだよな…。”

人の好意をそんなに疑わしく思うのか、コイツは。

“要るのか要らないのか、はっきりして。どっちにすれば良いのか分からないじゃない!”

…何かがひっかかった気がした。ずっと言いたくて言えなかったような。

嗚呼、私は『私』を見て欲しくて。必要とされたくて、でも本当に必要とされてるのか分からなくて逃げようとしていた。過去に逃げ込むのは楽だろうけど、そんなところに還りたくも帰りたくもない。きっと拒絶もして欲しくないし、捕われるのも嫌だったから、自分を壊さないように逃げようとしてただけ。

それをこんな何も考えてなさそう(あくまで、なさそう、であって全くないとは言いきれないが)なヤツに気付かされるなんて。

“…え?何の話?俺何か言ってた?”

はいっ!?どうやらコイツは記憶喪失までしているらしい。もう嫌だ。


“知らないっ!”

“だから知らないって何を?俺何か言ったっけ?
あ〜、そのミニハンバーグ旨そう…あ、なんでそんな勢いよく食べるのさ。一口くれたって良いじゃん、すずチャンのケチ。って、ちょっと詰まらせてるなよっ!?”
ヤツが渡してくれたお茶でどうにか一息つくと、また何やら見つめられている。あの時と同じ見透かすような瞳。人が折角思い出さないようにしてたのに。

“ねぇ、すずってそんなにハンバーグ好きだった?人に取られたくないくらいに?なんかすごく満足そうなんだけど。でも、それは分かるんだよな〜俺もさ前に…”

うん、どうやら私の杞憂だったらしい。コイツは心配や遠慮という感情とは絶対無縁だ。心配して損した。

でも、まぁ、この世界に踏み留まらせてくれたことには少しだけ感謝してみようと思う。本人無意識だったようだけれど。
そういえば、食べ物の話じゃないとすると、さっきの呟きは何のことだったんだろう?やっぱり読めないヤツだ。



“かぐや姫、貴方は帰らなくては。”
“分かっている。だけれども、もう少しだけ次の満月までは。あのひとを待っていたいと思う。”

手に入りそうにないからと諦めようとしないで、要るなら要ると言って下さい。うわべだけじゃなく、私の矛盾した想いも知って下さい。貴方に要らないと言われるのが恐くて月に逃げようとしていただけなのだから。



あの夢に出てきた私の分身は幸せになったのだと信じられる。
きっと、何度も逃げたくなる。また泣くこともあるだろう。でも、今、ちゃんと前を向けていることも大切にしてあげたいと思った。

“ちょっと、すず?聞いてる?聞いてないなら残り食べちゃうよ〜?こんな美味しそうなお昼は久しぶりだなぁ。”

“あ〜私のお昼っ!ハンバーグがぁ…。アンタ、どうしてくれるのっ!?”
“え?何?やっぱりハンバーグ好きなの?人の話を聞いてないのが悪いんだよ。それに、名前呼んでくれなきゃ俺も聞いてやらないもんね。”
“それとこれとは話が別っ!大体アンタだって…って言ってるそばからっ”
“やべ、チェシャ猫逃げるぞっ!”
“あ、ちょっと。もう、ジンっ!返しなさいよっ”



…御門様、次の満月なぞ妾は存じませぬ。たとえほんに暫しの間でも多くこのような時が続けば良いと望んでおるのみにございます。
嗚呼、もし、貴方様にほんに望まれたとしたらば、どんなにか嬉しきことでしょう。早く気付いて下さいませ。












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