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神様の螺子巻き
作:小羽 朔夜



狂った羅針盤


人と長い間(といっても10分以上なのだけど)接していると頭痛に襲われる。どうやら私なりの拒否反応らしい。
自称時計ウサギこと家宅侵入罪現行犯がチェシャ猫を連れて嵐のように去って行った(どうやって人様の家の屋根から移動してるのか分かりたくはない)後、私はベットに倒れ込んだ。久しぶりに人間と話したことは自分で思っていた以上に衝撃が大きかった。全く知らない人間だったということも一因かもしれないが。

だから心の平穏のためにも、これ以上アイツには関わらないようにしようと思ったものの、アイツは毎日のようにチェシャ猫を抱いてきては窓辺で寛いでいた。
何度か追い返そうとした(窓を閉めておいたら割れんばかりに叩き続けていたので仕方なく入れてやる羽目になった。別の日は無視を決め込んでいたら玄関のチャイムを鳴らし続けていた。近所迷惑にも程がある。)が、一度関わってしまった以上、関わらないようにするにしても迷惑な存在だと気付かされるばかりだった。
まだ、窓辺で寛いでいた方が、後で頭痛に悩まされる方がマシだと渋々ながら譲歩してみたところ、ソイツは先日言葉をまくしたてていたのが嘘のように静かに寝転んでいた。かといって寝ている訳ではない。独りじゃない静寂を持て余しながらも、次第に頭痛の程度も弱くなり、ヤツがいるのに慣れてきている自分がいることを感じるのは時間の問題だった。


アイツが現れてから一ヶ月も経とうという頃、私はつい、いつもチェシャ猫に話しかけていたように取り留めのない話を始めていた。あまりにもヤツが静かで普段通りに思えたから不覚にも。というのが表立っての理由ではあったけれど、本音は必要以上に踏み込みもしない彼に安心したからかもしれない。

暫く経ってからアイツにそれを話したら何と無くニヤニヤしていたから、きっとアイツには私の意地なんか全てお見通しだっただろうけど、実はその感覚もそれほど不快じゃなかった。


“ねぇ、”

“チェシャ猫。…どうして私は人間なのかなぁ。私はどうせなら猫が良かったのに…”

いつもの静寂。今日はチェシャ猫の相槌はないけれど、いつも通り。そう思っていたのに。

“必要だから、必要にされたから居るんだろ、理屈じゃなくて。俺やアリスがチェシャ猫を必要としていたように、俺やアリスという人間がチェシャ猫にも必要だったから俺らはいるんだよ。チェシャ猫だけじゃなく、誰かにそうあるべき人間として必要とされる為にこうしているんだ。”


“…それに、別の種族を知らない癖に、それは失礼だ。どっちがより良いかなんてなったことのないヤツには誰も分からないんだし。”


思いがけない言葉が返ってきたことに取り乱してしまい、頭でヤツが言ったと理解する前に口は動いていた。


“それなら、私が必要だってされる保証も、人間の方が幸せだっていう証明もないじゃないっ!
…私は生まれて来なければ良かったのよ。きっとその方が周りの為にも、地球の為にも、世界の為にも良かったんだから。”


“周り?世界?チェシャ猫や俺も含めてか?俺は嫌いなモンは突き放すタチだし、それにコイツはさ、人間嫌いで俺にしかなついてなかったんだよ。アリス以外は。だから、少なくとも二人…いや、一人と一匹はアリスが居て良かったと思うけどな。
確かにアリスが生まれてきて何かがもし悪くなっていたとしたら、それは最善悪かもしれない。物事は変わるんだから、必ず否が応でもプラマイが出る筈だ。なら、マイナスの中で一番良い策だとしたら…アリスは生まれて来るべきなんだ。
今のありのままの君との出逢いに乾杯っ …いや〜俺って良いこと言ったんじゃね?”

言うなり軽くウィンクするとヤツは出ていった。後をチェシャ猫が追い掛けて行く。

私は穴だらけの軽薄だか真面目なんだか分からない意見に翻弄されて、すっかり反論出来なくなってしまった。コイツが本当に考えてモノを言っているのか分からないものの、あまりに自信満々で言うものだから、不覚にも信じそうになってしまった。

危ないと自分を叱咤していたところ、そういえばまた、私の名前がアリスではないと訂正しそびれてしまったことに気付く。
まぁ、呼ばれなくても勝手に来るだろうと、僅かに口角が上がったことには気付かないフリで、やたらと陽気な空を閉め出した。今日は、人魚の涙は降らないことを祈りながら。


何故かやたらと書きたくて、気付いたらもう三話目でした。
この小説は実際私が考えてたことと、それに対する答えを童話になぞらえた形にしています。もし、読んだことによって貴方が何かを感じてくれれば幸いです。











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