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  右隣 作者:式部雪花々
-4-
「交差点の横断歩道で飲酒運転の車と接触してね・・・怪我の方は軽かったんだけど、

 お腹の赤ちゃんは・・・助からなかったの・・・。」



「・・・そんな・・・」



「きっと・・・罰が当たったんだよ。」



「?」



「私が陸の事、信じきれずにいたから・・・。」



「・・・どういう事?」



「本当の事言ったら、陸の人生が狂っちゃうかもしれないとか、

 そんなのは綺麗事で、ホントは・・・怖かったの・・・。」



「・・・。」



「陸におろしてくれって言われるのが怖かったの・・・。」



「そんな事、言うわけないだろ?」



「うん・・・でも・・・どうしても陸の子供が産みたかったから・・・

 そう言われるのが怖くて・・・だから言えなくて・・・それで・・・」

「結子っ!・・・もういい・・・、いいから・・・。」



「・・・ごめんなさい・・・。」



「・・・俺の方こそ・・・ごめん・・・何も知らずに・・・」



「陸は悪くないよ・・・。」



「何言ってんだよ・・・俺は結子の一番近くにいたのに、それなのに・・・

 何も気付いてやれなかった・・・。」



「陸は悪くない・・・。」



「ごめん・・・結子にばかり辛い思いさせて・・・。」



「ううん・・・私が馬鹿だったから・・・自業自得だよ。」



「・・・結子。」



「・・・陸・・・もう・・・放して・・・?」

これで・・・本当に陸とさよなら・・・。



「嫌だ。」

「どうして・・・?、話したら諦めるって言ったじゃない。」

「言ったけど・・・そんな理由だとは思ってもみなかったから・・・。」

「・・・どんな理由だと思ったの?」

「他に好きな男ができた・・・とか。」

「そんなワケないでしょ。」

「・・・結子は、もう俺の事嫌い?」

「そんな事ない・・・。」

「じゃ、戻ってきて。」

「でも・・・」

「理由がわかった今・・・このまま結子を放すわけにいかない・・・。」

「償いのつもりなら別に・・・」

「そんなんじゃない。」

陸は私が全部言い終わらないうちに言葉を遮った。



「たしかに償いたい気持ちだってある・・・けど、償いとか・・・

 そういうのじゃなくて・・・、俺は・・・っ、

 もう二度と結子を失いたくないんだ!」



「・・・陸。」



「それでも・・・結子は嫌か?」



・・・そんな事ない・・・そんな事ない・・・っ。



私は陸をぎゅっと抱きしめた・・・。





それから一時間後・・・私と陸は病院に戻った。



陸の体はすっかり冷えて、そしてすっかり風邪をひいた。

おかげで退院は一週間延期になった。



「もし、私が行かなかったらどうするつもりだったの?」

「絶対、来ると思ってた。」

ベッドの中で熱まで出して苦しそうにしているくせに自身満々で陸は答えた。



「結子は平気・・・?風邪ひいてない?」

「うん、大丈夫。」

私の心配なんて・・・してる場合じゃないのに・・・。



「・・・なら、よかった・・・。」

陸はそう言うと安心したように少しだけ笑って目を閉じた。





一週間後。

陸の退院の日。

まだ車の運転や激しい運動はできないけれど、

生活には支障がない。

そしてまだ全ての記憶が戻った訳ではないけれど・・・。



午後3時。

私は今日も夜勤だから陸の退院のお見送りはできない。

けれど、アパートに着いたら携帯にメールをすると昨夜陸が言った。



午後3時半、タクシーでアパートに戻ったと陸から携帯にメールが届いた。

ちょうど出勤準備をしていた私は、短く返事を返した。



−−−−−

おかえり。

あんまり無理しないでちゃんと安静にしててね。

−−−−−



陸が入院している間、私が休みの日以外は毎日顔を合わせていた。

だけど退院してしまった今、そうもいかなくなる・・・。

それはちょっと寂しいけれど、それでも10年間ずっと

陸に会えなかった事を思うと、これからは毎日じゃなくても

“会える”のは幸せなんだと思える。



私が部屋を出て、ドアの鍵を閉めようとした時、

右隣の部屋から微かに物音が聞こえた。



あ・・・お隣・・・帰ってきたんだ。



私は引越しの挨拶がまだだったのを思い出し、

粗品を持って右隣の部屋のインターフォンを鳴らした。



引っ越してからすでに一ヶ月以上経っているけど・・・ま、いっか・・・。



「はーい。」

中から男性の声がしてドアが開いた瞬間、

私は自分の目を疑った。



「り、陸っ!?」

「結子!?」



お隣さんて・・・陸だったのーっ?!



「なんで・・・結子、ここに・・・?」



「一ヶ月前に隣の部屋に引っ越して来たんだけど・・・

 ずっと留守でご挨拶がまだだったから・・・来て見たら・・・」



「隣?」



「うん、隣の部屋。」



「結子・・・隣の部屋なの?」



「うん・・・あ、そうだ・・・隣に引っ越してきた宇田川です。

 よろしくお願いします。」

私はにっこり笑って陸に粗品を手渡した。



すると陸はプッと吹き出し、

「こちらこそヨロシク・・・お隣さん。」

と、私のおでこに軽くキスをした。





今・・・



私の右隣には・・・



陸がいる・・・



・・・柔らかな笑顔で・・・。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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