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掌編小説集8 (351話~400話)

一杯のラーメン

作者: 蹴沢缶九郎

「死ぬまでには絶体に食べておいた方がいい、幻と言われるラーメンがある」


そんな話を会社の同僚から聞いた。そんな話を聞かされた日には、ラーメン好きの自分としては、行かない訳にはいかない。仕事が終わり、私はさっそく、同僚から教えられた店の場所へと足を運んだ。


その店は、駅から十分程歩いた、閑静な住宅街の一角にあった。店の周りには、自己主張の強い看板の類いは一切なく、一見、すぐにはラーメン屋とわからない佇まい。おそらく、何も知らない者がこの店の前を通っても、ここがラーメン屋と気付く者はそうはいないだろう。


私は期待に胸を膨らませ、店の扉を開けた。店内はこじんまりとしたカウンター席のみで、客はなく、店主が一人、何やら厨房で作業をしている。

私の存在に気付いた店主は、「いらっしゃい」と一言声を掛けると、注文を聞く事なく、勝手にラーメンを作り始めた。

それもそのはずである。メニュー表には「醤油ラーメン」の一品しかないのだ。一品勝負。これは余程自信のある一杯を出すに違いない。私は、より一層期待を高めた。


それから五分程が経ち、「おまちどお」と、カウンター席に掛けた私の目の前に、念願の醤油ラーメンが出された。

空腹を刺激する旨そうなラーメンの香りに、私は堪らずラーメンに食らいつく。自然と口の中に吸い込まれていくラーメン。麺、スープ、具材とその一つ一つの味のバランスが絶妙に保たれ、全てが完璧であった。それは、自分が今までに食べてきたラーメンの中で、確実に一番と言えるラーメンだった。同僚の言っていた事は本当だったのだ。

旨い物に言葉はいらない。私は無心でラーメンを(すす)り続け、スープの一滴までを飲み干し、完食した後、最高の一杯を提供してくれた店主に、感謝と尊敬の念を込めて伝える。


「旨かった…。こんな旨いラーメンなら何杯でも食べられそうだよ」


しかし、そんな私の言葉に、店主は当然といった様子で言った。


「そりゃそうでしょ、だって幻なんだから…」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 幻のラーメンですか。たべてみたいです。
2019/10/12 03:12 退会済み
管理
[良い点] いいですね、最後のセリフ(笑) 楽しく読ませて頂いて、ラーメンの良い匂いがこちらまで漂ってきそうでした(笑) ごちそうさまです(笑)(*^^*)
[一言] 面白かったです! ちょうどラーメンが食べたいな、と思っていたところへ、この作品のタイトルが目に飛び込んできました(笑) そして、読了したらもっと食べたくなりました。(とんこつよりも、醤油ラー…
2017/02/01 10:19 退会済み
管理
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