ファンタジーショートショート :スライムの話
辺りに何もない平原から突如生まれたスライムはその時己の中で自覚していた。
「私は既にその他大勢のスライムではない。私は魔物を統べる者になれるのだ。その為に今は雌伏の時
少しずつ己を昇華していかなくては」
そうスライムは考えていた如何せん喋る器官が備わっていないためプルプルと震えるだけではあったが、そしてそこからの行動は早かった。
自分自身は未だにレベル1のスライムであるため直ぐ誰かに倒されてしまう可能性がある。その場を移動しだすと行く手に森が見えた。
その森は自分より遥かに強いと思われる魔物達のエリアだった。スライムはそこにひっそりと入ると厳つい装備をしている死体を見つけた。それに飛びつくとスライムはゆっくりと消化していった。
「これだ。この美味い物を食い続ければ私は昇華する。もっともっと沢山食べねば。」
そこにはそのスライム等足元にも及ばぬ魔物達がいたがスライム一匹誰も気にも留めなかった。
どれだけ食べても自分のレベルが1から上がることは無かった。体力等が向上した様子も無い。しかし確信に近いものがあった。食べ続ければいずれ…!
そうして1年、10年、100年食べ続けた。森が人間達に襲われ命からがら逃げ出したり、街の下水路に隠れている時もあった。少なくともスライムが発生し直ぐ倒されるそんな場所は避けた。高レベルの魔物がいてそこでスライムなんてとても倒そうとは思わないそんな場所を探し移動し続けた。出来れば配下になる者が欲しかったが、喋ることすら出来ないスライムには見向きもされなかった。
ある時お告げのようなものが聞こえてきた。
「よくここまで倒されること無く、食べ続けましたね。さあ後はその先の森で死んでいる人間の肉を喰らうのです。そうすれば貴方は魔王になれるでしょう」
そのお告げを聞くや否や大急ぎで森に向かった。その森も自分より遥かにレベルの高い魔物の棲みかであった。
「あった。あの肉さえ喰えば…!」
そう急ぐような気持ちで移動するスライムに人影が現れた。
「ありゃ、こんなところに仏さんかぁ…弔ってやらないとなぁ。ん…?」
「まずい!」
と思った時には遅かった。どう考えても自分が1撃で倒されてしまうであろう高レベルの戦士に見つかってしまったのだ。
「何でこんなところにただのスライムが居るんだぁ?こんなの倒しても何にもなりゃしねぇしなぁ・・・」
そう言い淀んでいた。
「よしよし、これなら少しずつ移動してその先の肉さえ喰えれば!」
しかし
「俺じゃ駄目でもあいつには経験値になるか?おーい新人!」
「はい!何ですか?」
「遠征体験もいいが、このスライムを倒せよ?お前なら経験値になるだろうぜ?」
そうして如何にも武器も何もかも目新しい冒険者がスライムを見た。
「そうですね。それじゃ僕の経験値になってもらいましょうか!」
冒険者がこっちに向かってきた。
「馬鹿を言うな。もう少しだもう少しなのだ。せめて一欠けらでも喰えばこんなやつ瞬殺してしまえるのだ!戦いながらでもいい何とか肉に飛びつくのだ!」
プルプルと怒りと恐怖に震えるスライムが冒険者に飛び掛った。
しかしスライムレベル1、新人冒険者レベル2。明確なレベル差がそのまま現れてしまう世界だった。
スライムを1撃で倒した新人冒険者は「これでレベルが上がったらなー」
とのんびり構えていた。その時冒険者の辺りに声が響いてきた。
「おめでとうございます!魔王の因子を摘み取りました。新人冒険者へはスライムの経験値を移譲。新人冒険者は『勇者』の称号を手に入れました!」
そんな声が響き渡り大騒ぎしている遥か上空、宇宙空間にて2つの話し声がしていた。
「今度こそ魔王が君臨すると思ったのに!いつも強い魔物を育て上げて失敗していたからわからない様にスライムを選んだのに!また負けたぁぁぁぁぁ!」
「スライムが発生しないところにばかりいるからおかしいと思ったんだよ。ま、これでここも勇者誕生で俺の勝ちだ今のところ3-1で俺の勝ち越しだな。まだやるか?」
「このまま勝ち逃げなんてさせないよ!まだ勝負はこれからだ次はあっちの惑星で勝負!」
二人の声は誰にも聞かれることは無かった。