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<R15> 15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

HPとMPが見えるようになったので、病院に行きます。

HPとMPが見えるようになったので、病院に行きます。

作者:江戸川維新
 ーー昨日から人の頭の上に英語と数字が見えるようになった。



 見間違いではないかと何度か瞬きをしてみたが、一向に治る気配が感じられないので病院に行く事に決めた。

 パソコンで近くの眼科を検索して午前の予約を取ろうと試みる。

 が、エンターボタンを押す寸前で踏みとどまった。

 果たして今僕に出ている症状は、眼科のお医者様の手に負える症状なのだろうか。と言う考えが思い浮かんだからである。

 多分、無理だ。

 いや、確実にヤバイ奴だと思われるだろう。

 という事で、眼科へ行くのは諦めた。

 しかし、病院に行かなければ一生治らないよ、と言う中学生の時の同級生の言葉を思い出したため、やはり何かしらの治療は受けなければならないのだろう。

 そうなってくると、もう行く病院の種類は決まったも同然である。

 心療科だ。

 ここならばたとえヤバイ奴だと思われたとしても、眼科の時とは比べ物にならない程、精神的には楽だろう。

 そりゃあ精神的な病気を扱うのだから、医者のストライクゾーンも広めに構えているはずである。

 まあ、根本的な問題として、これは病気なのか? という考えが頭をよぎるが、世の中には色々な病気があるらしいし、多分、僕の病気も、

 AUSM(AtamanoUeniSuuzigaMieru)

 と言った感じの病名でひっそりと存在するだろう。

 いや、存在してもらわなければ困る。

 かくして、僕は心療科の予約を取り病院へ向かった。





 結果だけ言うと、AUSMなどと言う病気は存在しなかった。

 と言うか、僕が作った病気なのだから、無くて元々、あったらラッキーである。

 いや、なかったからアンラッキーか。

 それはそうと、すごい事実が判明した。

 何かと言うと、僕が人の頭上に見ていたのはHPとMPだったのだ。

 なぜわかったのかというと、医者に何が見えるか聞かれたので注意深く医者の頭上を見ていたらHPとMPと言う表示が出ていたからである。

 なんてことだ。

 もっと病院へ行く前の段階で注意深く見ておくべきだった。

 恥ずかしいにも程がある。

 しかし、僕がその事を医者に伝えると、彼はやたらとMPの数値を知りたがっていた。

 彼は患者の病状へのストライクゾーンうんぬんを考えるより前に、生粋のゲーマーだったのである。

 まあ、「0ですね」と答えると、途端に診療が雑になったのはご愛嬌とでも思っておこう。

 しかしながら、医者が僕の病名を特定することはできなかった。

 ただ単に疲れているのでしょう、と言われるばかりだった。





 翌日、僕は起きるとすぐに近くの駅へと向かった。

『ikeyo』と言うこの地域限定のICカードで改札を通過し、ペットボトルのコーラを買って電車へ乗り込んだ。

 と言っても、別に目的地があるわけではない。

 ではなんで電車に乗ったのかというと、僕はこのHPとMPが見える目で、多くの人を見てみたかったのである。

 特に、MPがある人間を。

 HPなら、どんな人間でも必ず持っている数値だという事がわかっていた。

 小さな子供が大体500前後で、そこから大人に近づくに連れて大きくなっていく。

 20歳代の男の平均が5500ぐらい。

 しかし、30歳を超えてくると段々と落ちてゆくのだ。

 80歳くらいのおばあちゃんで1000と言ったところか。

 まあ、こんな風に人のHPは扇型のグラフのような動きをする。



 ところがMPはそうはいかない。



 ほとんどの人間が0なのだ。

 このほとんどと言うのは、何人かに一人はMPがある人間を見た、というものではなく、もしかしたらいるのかもしれない、と言うもの。

 つまり、僕はMPを持つ人間を今だかつて見た事がないのだ。

 と言うわけで、この目的地のない電車の旅を絶賛満喫中の僕なのだが、その旅は急にゴールを迎える事になる。






 別にトイレに行きたかった訳でも、飲み物がなくなったから買いに行こうと思った訳でもなく、僕は電車から降りた。

 何で降りたのかと聞かれれば、「ドアが降りて欲しそうに開いたから」と言うのが一番妥当な答えではないかと思う。

 要するに気分だ。飽きた、と言い換えてもいい。

 ともかく僕が降りた駅は、無人改札のこじんまりした駅だった。

 当然、平日の真昼間に無人駅のベンチでだらだらとしている人間なんて僕ぐらいだと思った。

 しかし、先客がいたのだ。

 麦わら帽子に白いワンピース。艶のあるロングの髪に細いフレームの眼鏡。

 清楚と言う言葉しか頭に浮かばないほどの女性だった。

 その彼女が、ちょうど僕が座っているベンチの真ん前で電車を待っていたのだ。

 はて、いつからこの人はいたんだろう、と首をかしげるばかりだった。

 しかし、もっと疑問に思うことがある。それは、何故この人は広い無人駅の中で僕の前に立っているのかという事だった。

 頭が地面に着くぐらいかしげた。

 まあ、つぎに降りる駅の出口に都合がいいのだろうと考えれば済む事なのだが、いかんせんその清楚なルックスのせいで考え方が狂わせられる。

 僕に気があるのか。

 いやいや、そんなはずはないだろう。こんな平日の真昼間からベンチでダラダラしている男だぞ。百歩譲ってそれはない。



 しかし、決めつけもよくない。



 もしかしたら彼女も、平日の昼間からダラダラしている仲間かもしれないのだから。

 僕は彼女の後ろ姿を眺める。

 白く弱々しい足首から華奢な腰、小さな背中を経由して黒髪に隠れたうなじ。麦わら帽子が本当に愛おしい。

 と、ここで僕はある事に気づく。



「HPがない」



 思わず声に出してしまった。

 それと同時に快速の電車が通過すると言うアナウンスが聞こえた。

 いやいや、待て待て。何かの見間違いだろう。

 絶対におかしい。

 ぼくはもう一度確認する。

 ダメだ。間違いなくHPはない。

 その代わり、何故かMPが-37435と言う数値になっている。

 マイナス表記? どういう事だ。僕はいてもたってもいられなくなり、彼女に声をかける事に決める。


「あの、すいませ......」


 一瞬の出来事だった。


 僕が声をかけると同時に、彼女は通過する快速の電車に飛び込んだ。

 初めての経験だったが、声は出なかった。

 破裂する人。

 ファンタジーの世界以外で、こんな事が本当にあるのかと思うほど人形的に散らばった人の部品。

 飛び散った彼女の血液が僕の顔面に付着した事によって、悪夢から悪夢へと並行移動したような気分になった。

 しかし、紛れもなく現実である。

 目の前の光景を受け入れるという、ごく簡単な事が難しかった。

 しかし、僕はある紛れもない事実に気がつく。


「なぜ電車は行ってしまったんだ?」


 人が飛び込んだというのに、あの快速電車は無人駅をいとも簡単に通過して行った。

 見えなかったのか?

 いや、運転席から真正面でぶつかった物が見えないはずがない。

 これは何かの間違いだろう。

 だって、現に、彼女はまだこうして散らばっているのだから。

 天文学的な確率で、運転手が自殺に気づかなかったとしよう。

 そうすると。僕が第一発見者として警察に通報しなければならないのだろうか?

 いや、救急車か?

 万に一つの可能性があったとしても、それはないだろう。

 なぜなら、各部品単位で生きている人類を見た事がないからだ。

 僕はおそるおそる彼女の部品に目を伸ばす。


「え?」


 ない。どこにもない。


 あんなに派手に散らばって、なんなら赤い液体さえも四方八方にバラまいていたというのに、ない。

 目の錯覚かと思った。

 しかし、これは夢でも何でもない。

 見間違いでも何でもなく、ないのだ。

 全て破裂したはずはないのに、この目で飛んでいくのを見たというのに、ない。

 その代わり、僕は見覚えのある白い足首を見つけた。

 もちろん、部品だけではない。しっかりと組み合わさった完成系だ。


「うああああ」


 さすがの僕も、これには驚いた。

 さっき目の前で派手に散った女性が、何事もなく、散る前の姿で、そこに立っているのだ。

 足首、腰、背中。ある。くっついてる。

 黒髪、頭、帽子、ある。破裂してない。

 なんだ、一体この女性はなんなんだ。

 僕は本当に夢でも見ていたのか?

 自分自身に自問自答を繰り返すが、どうしてもさっきの出来事が夢だとは思えなかった。

 今も頬に触れば、あの時の温かい血の感触が鮮明に蘇る。

 ダメだ。今、目の前にいる女性も、さっき電車に飛び込んだ女性も紛れもなく現実である。

 何も変わらず、何も悪びれず、そこに立っている。

 いや、待てよ。違う。変わってる。

 さっきと今で確実に変わっている事がある。


 それはMPだった。


 今の彼女のMPは-37434になっていた。

 1、増えてる。

 数字が増えてる。

 そう気づいた時、またもや快速通過のアナウンスが聞こえた。

 僕は嫌な予感を感じとり、思いっきりその場から離れる。

 すると、嫌な予感は最悪の形で現実となった。

 そう、彼女は快速電車が通過するタイミングでまたもや飛び込んだのだ。

 辺りに散らばる彼女の部品と赤い液体。何事もなく通過する電車。

 デジャブじゃない。

 確実に現実で起こった事が繰り返されている。

 一度目を瞑り、深く息を吸って、吐く。

 目を開けて次に僕が目にするのは......白い足首だった。






 僕は懲りもせず、インターネットで腕のいい病院を検索していた。

 無論、僕の病気を治せる医者がいない事は百も承知だ。

 しかし、毎日毎日検索し続ける事でいつかは現れてくれるだろう、と言う僕の勝手な希望が指を動かしていた。

 先日のあの白いワンピースの女性。彼女は僕があの無人駅へ行く数日前に、あそこで飛び込み自殺をしていたらしい。

 あの時は気がつかなかったが、僕が座っていたベンチの下には、まだ枯れきっていないお供えの花束があった。

 そんなことも知らずに、よくもまああんなに堂々と座って入られたものだ。

 知らないというのは言い訳にはならない、と言うのはあながち間違いではないと言う事なのだろう。

 僕は社会に出る前に、この教訓を身をもって理解したのだから、さぞ仕事のできる社会人になるはずだ。

 それはそうと、あのMPの事なのだが、やはり謎な部分が多い。

 あの女性が自殺を繰り返す度に増えていく数字。

 一体、0になったら何が起こるのだろうか。


 いや、違うな。


 僕はあの女性に、生き返って欲しいと思っている。

 生きている人のMPが例外なく0なのだから、あながち可能性がないわけではない。

 自殺に追い込まれるほど嫌な事があったのだから、次に生まれ変わったら幸せになって欲しいと言うのが正直な感想だ。

 しかし、自殺というのはやはり罪な事なのだろう。

 仮に生き返れるのだとしても、あの女性はあと37434回は死に続けなくてはならないのだから。

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