[5]父親の過去
「結婚しろって言われてもなぁ…。てか親父は何をするつもりなんだろう…」
雅季は空の盃を脇息の上に置いて長い人差し指でつついた
「京でどのような噂をたてられているとしても…右大臣様はお優しいと私は信じております。悪いようにはなりませんよ。」
そう言って上総は笑ったものの、俺はいまいち親父を信じれなかった―――
京に流れる親父の噂話…
“右大臣は富のためならば、それが誰かを傷つけることになったって構いやしない。あれは鬼だ。”
それを俺が初めて聞いたのは、官位を授かって参内した初日のことだった…
俺が知っていた親父は…優しくて、笑ってて、、、鬼なんて言われるような人じゃなかった。
俺は屋敷に着いてすぐ、着替えもしないで親父の乳兄弟の義久のもとに駆けてった
『義久っ、父上はっ父上はっ鬼などではないよなっ?』
取り乱した俺の肩にそっと両手をのせて、義久は言った
『若様、あなたの存在は特別なんだ。あの方の血を引き継ぐ…あなたはあの人の生きる意味なんだ。』
意味も分からず立ち尽くしていると
肩に乗せられていた手に力がはいった
『右大臣様はこの世にたった2つの宝を探すため鬼と化しているんです。』
『…この世に…たった二つの…宝…?』
『えぇ。10年前あなたのお父上が、己の命よりも大切だと言ったものです。』
もっと詳しく話を聞きたかったのに、“もうお疲れでしょう。早く床につかれたほうがいい”と背中を押されて対屋に帰るしかなかった―――
それから3年が経ったけど…あの義久の話の意味も理解できないままだし、仕事中も親父の良い噂は聞かない。
皆、親父を鬼だ鬼だと恐れているんだ…
「…ついに息子の俺もヤツの駒になるときがきたか……」
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