[3]
乳兄弟と女房が話す声は対屋の中まで丸聞こえだった…
「ったく…根も葉もない勝手な憶測をたてやがって」
とか口では言ったものの…上総がたてた憶測ももしかしたら…ありえるかもしれないとか思ったり思わなかったり。
俺が生まれたばかりのときは中将だった父親も今では右大臣となり、その息子である俺は少将となった。
いわば出世街道まっしぐら。順調に行けば左大臣の席も夢ではない。
それに、まだ物心付く前から、歌、楽、舞、手習い、漢学、、、その他もろもろ…嫌というほど教育されたお陰で
人一倍教養はあるほう―――だと思う。
あとは…死んだ母親譲りとよく言われるこの容姿。
「…?」
ふと御簾越しに聞こえていた2人の会話が途切れた―――
ぱたりと止んだ二人の話し声の変わりに、誰かが渡殿をドスドスと激しく踏み付ける音が聞こえてきた。
(…まさか…まさか、)
ふと俺の心に不安がよぎる…。
当たって欲しい予感は外れるのに、当たらなくてもいい無駄な予感はいつも当たるのってどうしてだろう
逃げようと腰を上げかけていた俺を、御簾越しに制する声
「逃げるんじゃないっ!」
あの足音からしても…声色からしても…随分いらだっていらっしゃるようで…
逃げても無駄と悟った俺は浮きかけていた腰を静かに戻して頭を下げた
「父上自ら対屋にお越しとは…今日は何用ですか?」
そんな俺の態度が彼の逆鱗に触れてしまったらしい…
「“何用ですかぁ?”だとっ?!」
親父は拳を固く握って振りかざしてきた
「自分の胸に手を当てて思い出せっ!この馬鹿息子がっ!!」
殴られた痛みに堪えながら、言われるがまま自分の心に手をあてたものの…
…思い当たる節が多すぎて…正直、何について怒鳴られているのかわからない。
どうしようもない間抜けな自分に思わず苦笑してしまった。
それを親父が見逃すわけがなく…
「お前何笑ってるんだっ!」
鉄拳2発目、
さすがにこれには耐えられず
「なにすんだよっ?!」
いつも冷徹に振る舞っているのに、似合わず大声を出してしまった
それに負けじと親父も声を張り上げる
「いつまでフラフラしてるつもりなんだ!夜な夜なほっつき歩く余裕があるなら、いい加減身を固めたらどうなんだっ!」
…結婚しろ、と?
思わず固まる俺に親父はため息を漏らしながら呟いた
「何を考えてるのか知らんが…お前に誰か娶る気がないなら、私は父としてしなければならない事をする。それだけだ。」
そう言って親父は寝殿に戻っていった…
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