[29]
容姿がいいものは何をしていてもいい
笑っていても、泣いていても、、、怒っていても。
荒く、自然と早くなる足。
あそこは自分の逃げ場。
嫌なこと、頭にくること、そんなことがあるときは季節に構わず毎回釣殿に逃げていた。
そして今回も例外はない。
小半時も居れば…きっとこの怒りも静まるだろう。
…なのに
「…誰だ?」
強い風に乗って、嗅ぎ慣れない甘い香が鼻をくすぐった
釣殿に置かれた几帳の脇から人影が見える。影の形から言って女だろう。
影の主は震える声で言った
「申し訳ありません…すぐどきますので…」
泣いていた…のか
「いや、そのままでいい。」
「ですが…」
「…泣いている女を突き放すような無粋な真似は男としてできないだけだ。」
そういうと彼女は俺を律儀な人だと言って少し笑った
「では…私は女として、お怒りの公達を静めるために優しさをお分けしましょう。」
女は涙を拭って手際良く、顔が見えない程度に几帳をずらし、どちらにもちゃんと灯りがいきわたるように小さな手で灯台をずらした…
「御前はどこかの女房か?」
「……いいえ、こう見えても実は屋敷で姫と呼ばれております。」
「それは失敬。」
「大丈夫です。よく言われますので、もう気になりません。」
そういわれても…姫に向かって女房か?なんて無粋な質問をしてしまった自分が不甲斐ない。
あまりの申し訳なさに目を伏せると、おろしたての真新しい自分の衣の脇に長く着たのか擦れた衣が見えた。
それは春の色目
「柳桜。」
俺の声を聞いて、彼女は慌てて袖を隠した
「すみませんっ。」
「どうして謝る」
「長いこと着ているので…汚いですから。」
俺は几帳の土居を避けるように帷子の下に手を入れ、彼女が隠した衣の袖をわざわざ自分の方に引っ張り出した
「真新しくて味気ないものより、何度も何度も大切に着た物のほうが俺は好きだよ。そのほうが着ている人にしっくり馴染んで美しい。」
「…ありがとうございます。そう言ってくださる方がいて…嬉しいです。西対では…春が来ているというのに積雪の中に一人取り残された感じで……」
…西対…柳桜……って…俺が隠れているときに一番最初に来た姫か
そう言われれば、澄んだ声、少し後ろ向きな性格、、、どこか放っておけない雰囲気の守りたくなる姫
「…柳桜の君。そう呼んでもいいか?」
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