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魔王と勇者のやつ

邪悪なる魔道士から村を救った勇者たちと、宿泊料に関してまるで容赦しない宿屋のババア

作者:三村
「食らえ魔道士ゾロア! これが貴様の最期だ!」

 振り下ろした聖剣の一撃が邪悪な魔道士を両断した。
 鮮血がほとばしり、耳を覆いたくなるような断末魔が廃鉱山にこだまする。

「ぐ、ぐおお……なぜだ、なぜ貴様のような若造に……俺様が……」
「俺たちには守るべき人たちがいる。貴様の作り出したこの魔窟に怯えながらも、希望を捨てなかった人々の祈り、それが俺たちに力をくれるんだ!」
「ふ……フフ、守るべき者か……クク……」
「何がおかしい!」
「いずれ貴様も気づく、この世界の醜い真実にな……その時は貴様も……この俺様と同じように……クク……待っているぞ、勇者ルートよ! 貴様が来るのを、地獄の釜の底でな! クァーハハハハ!」

 甲高い哄笑を紅蓮の炎が包み込んだ。邪悪なる魔道士、その力の奔流の最期からは血も肉も灰も失せ、ただ静寂だけが残った。

「愚かな男だ。これだけの力を持ちながら、闇に魅せられてしまうなんて」
「ルート、行こう。村の人たちが待っている」
「ああ、帰ろう、皆のところへ」

 ルートは踵を返した。その足取りに迷いはなかった。

*

「ありがとうございます勇者様! あの魔道士のせいで作物は枯れるわ、村人はさらわれるわで、もうダメかと……あなたがたはこの村の恩人だ!」

 村に帰るなりルートたちは村人の笑顔に囲まれた。
 皆が口々にその勇敢さを讃え、言葉を尽くして感謝を述べた。

「そんな大げさな、俺は自分たちが為すべき事をしただけです。なあ? みんな」

 ルートは振り返り、彼の頼れる仲間を見た。
 賢者ジェンは満面の笑みでうなずいた。
 僧侶ゼロは桃色の唇に静かな笑みを浮かべ、慎ましげに頭を垂れた。
 戦士ピッツは緩んだ目元を隠すように、兜を目深に被り直した。

「我々は何かあなたがたにお礼がしたい。見ての通りさびれた村ですが、できる限りのことをさせていただきます!」
「お礼だなんて、俺たちは、別に……」
「いいじゃないかルート。今日ぐらいはご厚意に甘えよう」
「ジェン……まいったな。それじゃあ……一晩だけ、暖かい寝床と湯を浴びれる場所と、少しばかりの夕食を頂けませんか? 見ての通り廃鉱山の中は清潔とは言えなかったし、それにいささか――」

 ルートの言葉を遮って、ぐううう、とどこかで腹の虫が鳴いた。「やべっ」と呟いて、ピッツが腹を押さえた。それを見たゼロがくすくすと笑った。

「――腹も減ったようですし、ね?」
「宿をお探しでしたら、ちょうど、私のところが空いておりますじゃ」

 村長の後ろから老齢の女性が姿を現し、ぺこりと頭を下げた。

「私はこの村で小さな宿を営んでおる者ですじゃ。もし良ければ、ぜひ私のところでお休みになってくださいまし」
「それは願ってもない。ぜひお願いします。ひとり、人並み以上に食うやつがいますが、お代は多めにお支払いしますので」
「おいルート、その大食らいってのはもしかしてオレのことか?」

 ピッツが不満げに目を吊り上げた。四人はほがらかな笑いに包まれた。

「いえいえ、お代は結構……と言いたいところですが、なにぶん年寄りが一人でやっておる宿なもので、少しばかりのお慈悲を頂ければ、と」
「何を言ってるんですか、泊めていただくのだから当然です。おいくらですか?」
「ありがとうございます。お代は四名様で、五万ゴールドになりますじゃ」
「もちろんお支払いしますよ、五万ゴールドぐらい! 五万ね、ごま……ん? 失礼、女将。今おいくらと?」
「五万ゴールドですじゃ」
「……五百?」
「五万」
「いやーハハハハハ、こいつは一本取られました! 冗談と知らずついつい真に受けてしまうとは僕もまだまだ未熟ですね! えっと、それでお代は――」
「五万」
「ちょ、ちょ、ちょっと失礼! すぐ戻りますから、ハハハハハ!」

 *

「聞いた?」
「聞いた」「私も聞きました」「オレも」
「そうだよね。五万って言ったよね。絶対言ったよねあの人。……五万ってなに? 恩人だよ? 村を危機から救った恩人だよ俺たち? なあジェン、五万ってなんだよ?」
「いや、僕に言われても……」
「も、もしかしたら聞き間違えたんじゃないですか? 実は五万じゃなくて『ごめん』って言ったとか」
「何に対してのアイムソーリーだよ。それはそれでおかしいだろ」
「す、すいません」

 ゼロはしゅんとうなだれた。見かねたピッツが口を挟む。

「あーほら、物の値段が違うとかじゃねえか? ここあんまり他の村との交流もなさそうだしよ。全部テキトーに値段つけてるとかさ」
「だからって違いすぎるだろ。この村は芋の代わりに金塊がとれんのかよ。何だよそれ。肉じゃがどうすんだよ。金じゃがなのかよ。ダシが染みなさすぎるだろそんなもん」
「落ち着けルート。ピッツの仮説も一理ある。外界から隔絶された集落が、独自の物価をもつことはおかしいことじゃない。ためしに他のものの値段も聞いてみたらどうだ?」
「えぇ……俺? また俺が行くの?」
「あんなバアさんにビビるなんて、らしくねえな。そんじゃちょっくらオレが聞いてきてやるよ!」

 *

「女将よ、ちょっと聞くがあんたんとこの宿で道具は売ってんのかい?」
「少しならば……」
「そいつぁよかった、薬草はいくらだ?」
「五ゴールドになりますじゃ」
「……毒消しは?」
「十ゴールドですじゃ」
「ところで宿代はいくらだっけ」
「五万」
「……えっと、薬草は?」
「五ゴールドになりますじゃ」
「じゃあ宿の「五万」

 一歩も譲らぬ女将の様子に、しばらく腕組みをして考え込んでいたピッツが、ふいに何か思い出したように笑い出した。

「ガッハハハハ! そうか、そりゃそうだよな。いくら村の恩人だからってオレたちゃよそ者だし、いやあこいつはうっかりしてたぜ。――おい、女将! こいつを見な!」

 ピッツは腰に差していた剣を一振り、女将の前で抜いて見せた。

「こいつはサラマンダーの鱗から小量取れる火竜鋼を鍛えて作られた一品だ。鉄のゴーレムだってバターを斬るように真っ二つにできる業物だぜ、こいつをやるよ!」
「えっ、そんなすごいもの、とてもいただけませんじゃ……」
「かまわねえって、お近づきのシルシってやつさ!」
「あ、ありがとうございます、一生の家宝にいたしますじゃ!」
「大げさだなあ、まあ世話になる挨拶のかわりだと思ってくれよ。ところで、その、なんだ、これでオレたちも知らない仲じゃないわけだし、あの、あるだろ? こう、人情みたいなのがよ」
「はあ」
「だからさ、何回も聞いて悪いけどよ、あんたんとこの宿賃……いくらかな?」
「五万ですけど」

 *

「なあ、ルート、ピッツの様子はどんなだい」
「よく見えないが、何かひとつ武器を渡したようだ。いや……それだけじゃないな、もう一本の武器も抜いて……今度は渡さずに……その武器を……振りかぶって……?」
「やばい、ピッツのやつ力を溜めてるぞ! 止めろ止めろ止めろ!」

 女将に向かって全力の一撃を放とうとしたピッツを、すんでのところで引きずり戻した。

「ピッツお前、バカか!? なんで女将さんを必殺しようとしてんだよ!」
「だってムカつくんだもんよあのババア! こっちが頭下げて手土産まで渡したのにビタ一文負けようとしないんだぜ!? ありえねーだろ普通!」
「だからってお前……ああもう、ルートからも何とか言ってやってくれよ!」
「わかる」
「わかるなよ」
「とにかく、オレはこれ以上あのババアに頭下げるのなんざゴメンだぜ」
「あ……あの、みなさん」

 険悪な空気が流れる中、僧侶のゼロがおずおずと手をあげた。

「次は、私があの方とお話してみてもよいでしょうか?」
「いいけど、無駄だと思うよ。五万って言うときのババアから不退転の覚悟を感じるもん」
「いえ、もしかしたら私たちの中にも、村を救ってやったという驕りがあったのかもしれません。知らず知らずのうちに、助け合いの心を忘れてしまっていたのかも……真心を込めてお願いすれば、きっと彼らは助けてくださるはずです。私、行ってきますね」

 *

「あの……先ほどピッツが大変失礼いたしました。彼は少し、疲れが溜まっていたようで……どうかお許しください。それで、あの、改めてお願いがあるのですが、見ての通り私たちは心身共に消耗しておりまして……それで、何とか宿を一晩――」
「五万」

 ゼロは杖を握り直し、ぐっと奥歯を噛みしめた。
 ――大丈夫、人はわかり合える。神さまは見てくださっている。
 そう言い聞かせ、尚も食い下がろうとしたそのとき、年の頃四十前後の男が間に割り込んできた。

「ママ、そろそろ日が暮れるよ。そろそろウチに戻らないと――」男はゼロを見て目を丸くした。「あ、あなたは!」
「おや、お前こちらの僧侶様と知り合いかい?」
「知り合いもなにも、この人だよママ! 廃鉱山で倒れていた俺を助けてくれた人っていうのは!」

 ゼロは男の顔を見て慌てて頭を下げた。
 確かに、道中でガスにやられて倒れていたのをゼロが介抱した男だった。

「ところで僧侶様、うちのママと一体何の話を?」
「あ……いえ、その、一晩の宿をお借りできないかと思いまして……」
「宿を? あははっ、そういうことか。うちのママは村でも特別ケチだからね、おおかた大金ふっかけられて困ってたんじゃないですか?」

 ゼロはうつむき、そうなんです! と叫んで身を乗り出しそうになるのをぐっと堪えた。

「よければ離れにある僕の家に泊まったらどうかな? それならママも文句ないだろうしね」
「よ……よいのですか!?」
「もちろん」
「あ――ありがとうございます! 早速皆を呼んできます!」
「四万ね」
「あらやだお母さま似」

 ゼロは上目に男の顔を覗き込んだ。

「あの……せっかくのご厚意たいへん有り難いのですが……私たち、今あまり手持ちが……」
「なんだそうだったのか、だったらこうしよう」
「――ひっ!?」

 ゼロは素っ頓狂な声をあげた。男の手が法衣の上からゼロの尻をまさぐっていた。

「君が一人で僕の家に泊まってくれるというのなら、他の仲間の宿賃もタダにしよう。どうかな? ――……」

 *

「ルート、ゼロの様子はどうだい」
「遠くて何を喋ってるか聞き取れんが、なぜか人が増えてる。男だ。……ん? ゼロが杖をかかげて……呪文の詠唱を……邪気がどんどん膨らんで……?」
「まずい、あれは全体即死呪文だぞ! ストップストップストーップ!」

 物陰から飛び出したジェンが間一髪、ゼロを引きずり戻した。

「何をするのですかジェン、私はこの村を地図から消そうとしただけですよ」
「だからだよ! それがそのまま君を止めた理由だよ! いったいどうしたっていうんだゼロ、あれだけ殺生を嫌っていた君があんなことするなんて!」
「神の御意志です」
「神さま絶対君のこと二度見したと思うよ」
「ジェン、この世にはどうしようもない邪悪が存在するのです。奴らはたとえるなら、無理やりお見合い結婚させられた肥溜めと痰壺の間に生まれた子どもの飼ってる不細工な猫が殺したセミの抜け殻の内側についてる変な白いヒモです」
「その悪意しか伝わってこないたとえなんなのよ」
「わかる」「スッゲわかる」
「わかりどころあった?」

 ジェンはため息をつくと、お手上げというように天を仰いだ。

「どうするんだよ、せっかく村を救ったって、これじゃ僕らが悪者みたいじゃないか!」
「悪者……救う……そうか」ルートが何か思いついたように膝を打った。「そうだよ、村を救えばいいんだ。なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだ!」
「ルート? どういうこと?」
「ジェン、俺に名案がある。耳を貸せ」

 *

「――野宿されるのですか?」

 意外そうな顔の女将に、はい、とルートは頷いた。

「おやまあ、もう暗いし外にはまだ魔物が残っておりますし、五万さえ払えば自由に私の宿を使って頂いて構いませんのに……。もし何かお困りでしたら何なりと申しつけくださいな。できる限りのことはさせていただきますじゃ。五万で」
「いやーハハハハハハ……テメェクソババアやっぱり今すぐここで」
「わー! ルートもう行こうすぐ行こう! いやーすいませんお世話になりました失礼しまーす!」

 ルート一行が野宿のために村を出た、その数時間後。
 夜の帳はすっかり下り、村は闇と静寂に包まれた。
 その少し離れた場所に野営の火だけがぽつりと灯っていた。
 廃鉱山での激戦を経て、心身共に疲弊していた彼らは、しかし誰一人眠らなかった。
 ルートも、ピッツも、ゼロも、何かを待つように焚き火の炎を見つめた。ジェンの姿だけがなかった。

 ――ふいに、巨獣の咆吼が静寂を裂いた。
 ルートたちは互いに顔を見合わせた。
 それぞれの口元には、示し合わせたように薄い笑みが張りついていた。

「ゆ、勇者様、勇者様あああ!」

 村の若者が血相を変えてルートたちのキャンプを訪れた。

「た、大変なんです、私たちの村が、む、村に! 怪物が!」
「え~なになに~? おやおや~? どうしたんですか、まるで村に突然巨大なドラゴンが現れたような慌て方じゃないですか~?」
「すげー具体的なたとえですけどおおむねその通りです! と、とにかく来てください! お願いします!」

 若者に連れられて村に到着したルートたちが見たのは、天を衝くような巨大なドラゴンだった。逃げ惑う村の人々を睨めつけながら、威嚇するように炎を吐き出し夜空を焦がした。

「あれが突然現れたのです! いったいどうして……この辺はドラゴンの生息地からはかなり離れているはずなのに」
「あれは……宿屋食べ食べドラゴンだ!」
「宿屋食べ食べドラゴン!?」
「そうだ。人里に現れては宿屋を食べ食べするドラゴンだ! 奴が現れたらおとなしく宿屋をさしだすしかない。さもなくば人類すべてが根絶やしにされる!」
「そんなトレードオフある!?」

 ――ヒレ伏セ人間ドモ。我ハ、三界全テノ宿屋ヲ食ベ食ベスル者ナリ……。

「ホントだったーー!」
「とにかく村の人を避難させるんだ。宿屋を食べればやつはおとなしく帰るはずだ!」
「――お、お待ちください勇者様!」

 すがるような声をあげたのは宿屋の女将だった。

「あの宿屋は小さいながらも、私の大切な宿屋なのですじゃ! どうか、どうかお助けくださいまし!」

 ルートは口の端が吊り上がるのをすんでのところでこらえた。

「そう言われてもな~~野宿したせいで体力が完全に回復してないしな~~~! もし宿屋に泊まってたらあんなドラゴンなんか一発で追い払えるのにな~~~!」
「お願いしますじゃ! 奴を追い払ってくれれば、私の宿屋をいくらでも好きに使っていただいて構いませんじゃ! 五万で!」
「三つ子の鋼の意志百までかババア」

 ドラゴンは雄叫びをあげて、宿屋近くの物見櫓をその尾撃で薙ぎ払った。

「ひいいいぃいい! わ、私の宿屋がっ!」

 ――愚カナ人間ヨ……一泊五万ナドトイウ法外ナ金額デ宿屋ヲ経営スル人間ヨ……汝ラ欲深キ者ハ、地獄デ永遠ニ苦シムベキジャナイ?

「わかる」「わかります」「スッゲわかる」
「わかってないで助けてくだされ勇者様! 後生ですじゃ!」
「……よし、いいだろう。いくらぼったくられたとはいえ、目の前で困っている人を見捨ててはおけない! 正義感がすごいから、すごいといえば俺の正義感だから! ピッツ、ゼロ、行くぞ!」
「ぐわあああああああ!」
「ピッツ!? どうした急に倒れて!」
「ダメだ……廃鉱山での戦いで消耗しすぎて……力が出ない! なにかやる気の起こる出来事があれば……具体的には……五万の宿賃がタダになるような事があれば!」
「五万の宿賃がタダになるだって、そんなことあるわけないだろ! いや、ないのか? ないこともないか? どっちかっていうとある? もしかして? このピンチを見かねた女将が? 宿賃を? 五万から~~? 五万からの~~~~?」
「五万」
「きゃああああああ!」
「うわーゼロまでどうした! 大丈夫か!」
「私はもうダメです……神に見放された宿賃では……もはや指一本動かすことができません……」
「くそっ、俺一人では到底勝ち目はない! どうすればいいんだ!」

 ルートが天を仰いだ瞬間、闇夜が一瞬明るく染まった。
 ドラゴンが哮りと共に吐き出した巨大な火球が、離れにある民家を灰に変えた。

「わあああ、ママ、ママ! 僕の家が燃えてるよ、ママ!」
「っしゃ!」
「ん? 今僧侶様ガッツポーズ取った? 指一本動かせないって言ってたのに、めちゃくちゃガッツポーズ取ったよね?」
「違います教会に伝わる聖なる祈りの形です。聖なるガッツポーズです」
「ガッツポーズじゃん」
「それよりもう、宿屋が食われるのも時間の問題だ! いやー残念だ、救いたかったな~! あの宿屋救いたかったな~~マジでな~~!」
「……わかりました」女将が苦虫を噛みつぶしたような顔で呟いた。「宿賃を値下げいたしますじゃ。だから、私の宿をお救いください!」
「女将さん……ありがとう! じゃあこの戦いが終わったらタダで――」
「四万五千ゴールド」

 ……。

「……五十ゴールド」
「四万」
「百」
「三万八千」
「百五十!」
「四万五千!」
「二百!!」
「三万五千!!」
「三百ゥ!!!」
「五万六千とんで五十ァ!!!!」
「テメークソババアいい加減にしろ! なにどさくさに紛れて値上げしてんだよ! 元の値段より高くなってんじゃねーか下げろや!」
「イヤじゃイヤじゃ! たまにくる旅人から、雑草の根っこがご馳走に見えるぐらいまで金をむしりとって豪遊するのが老後の唯一の楽しみなんじゃ!」
「パンクな余生だなババア! もういい! おいドラゴン、その宿屋を跡形もなくぶっ壊しちまえ!」

 ルートのその言葉を合図に、再びドラゴンが火球を放とうとしたそのとき、突如放たれた光弾がドラゴンの顔面を直撃した。

 ――グオオオオォオオオオオ!?

 断末魔を残してゆっくり倒れるドラゴンを、ルートは唖然と見つめた。

「――村の皆さん、大丈夫ですか!?」

 村の入り口から男の声が聞こえた。見ると、重装備に身を包んだ四人組の男女が立っていた。

「な……なんだ、お前らは!」
「私たちは魔王を倒す旅の途中、偶然通りかかった者ですが……ドラゴンが村を襲っているのが見えました! 加勢いたします!」
「は……はあ!? いや聞いてねえ、そんなの予定になかったぞ!」
「――おい見ろ、ドラゴンの姿がどんどん縮んでいくぞ!」

 村人が倒れたドラゴンを指さした。ドラゴンの身体はみるみる縮み、やがて跡形もなく消え、あとには気絶した一人の男の姿が残った。

「おい……こりゃあ……賢者様だ! さっきの勇者様の仲間だぞ!」
「や、やっべえ……さっきの攻撃でジェンの変身が解けちまった……」
「勇者様、これはどういうことですか! いったいなぜ我々の村を襲ったのですか!」
「いや、それは、その、なんつーか、えっと……おい、ゼロ!」

 ルートが叫ぶや否や、ゼロが杖を掲げた。まばゆい光が迸り村人たちの目を眩ました。

「ピッツ、ジェンを抱えてもってこい! 今のうちに逃げるぞ!」
「そうはさせるか、偽勇者ども!」

 村の入り口にさっきの四人組が立ちはだかった。

「くそ、邪魔するな! 正義かよお前ら! 裏から逃げるぞ!」
「そうはさせませんじゃ!」

 農具を携えた村人たちが、裏口にも立ちふさがった。

「勇者様、納得のいく説明をしてもらいます!」
「いや、だからちげーんだって! あのババアが……」
「私の宿賃を値切ろうとした罪、償ってもらいますじゃ!」
「どう考えても無罪だろクソババア! ちくしょう、ピッツ、ゼロ! こうなりゃ廃鉱山だ、廃鉱山へ逃げ込むぞ!」
「あ、おい待て!」

 追いすがる四人組を魔法で牽制しながらルートら一行は廃鉱山へ走った。

「逃げても無駄だぞ偽勇者ども! 貴様らのような邪悪な者を、天は決して許しはしないからな!」
「うるせー! テメーらもいずれ気づくだろうよ、この世界の醜い真実にな! そのときにテメーらも俺たちの仲間入りだ、ガーハハハハ! あばよ!」

 割れんばかりの哄笑を残し、ルート一行は廃鉱山の闇の中へ身を隠した。

 *

「あ――ありがとうございます旅の御方! まったく、なんとお礼を申してよいか!」

 ドラゴンから村を救った四人組に村人が駆け寄り、口々にその勇敢さを讃え、言葉を尽くして感謝を述べた。

「そんな大げさな、私は自分たちがなすべき事をしただけですよ」
「我々は何かあなたがたにお礼がしたい、なんでも言ってくだされ。見ての通りさびれた村ですが、できる限りのことをさせていただきます!」
「お礼だなんて、そんな――」

 旅の勇者は、何か思いついたように手を叩いて言った。

「――それなら、一晩の宿を頂けますか?」

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