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異世界に来たけど戦いません。 作者:カッパ永久寺

真・北の荒城編

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41.摩天閣にて 其の参

 テラスさんが言うには、俺たちはなんとこの荒城の手前にある森のなかで倒れていたそうだ。
 ただ倒れていたのではなく、俺とユーカは見るも無残な怪我だらけの姿で倒れていたそうだ。
「私はその日、ナナカマドの木の枝を採取するために森に入っていったんだけどぉ、偶然、あなたたち二人を見つけたのよぉ。森のなかの草地の上に、二人が気絶して並んで倒れていたわぁ。私は、誰か人間が森に迷い込んで、オオカミにでもやられたんじゃないかって思ったんだけどぉ、どうも怪我の出来具合が不自然でねぇ。それに……」
「それに……」
「少年くんの足の膝から下が、ぷっつりと切断されていたのよ。まるでノコギリで丸太を斬ったみたいにきれいに切れていたわぁ。ああいう切れ方は、オオカミが噛みついて出来るものではないしねぇ。まぁ、なんにせよ、二人が大変なことになっているから、私はすぐさま二人の治療を始めたのよぉ」
「俺の足が……斬られていた」
 俺は自分の足を検分するように触ってみる。
 膝から足の先まで、ちゃんと存在しているが――テラスさんが森で見つけたときは、なくなっていたのか。
 わからない。さっぱりわからない。
「うーん……」
 頭を抱えているのは俺だけでなく、ユーカもだった。
「先輩の足がセツダンされていたって……。それに私もキゼツしていた……。これはいったいどういうことなんでしょーか」
「状況的に考えるに、犯人はお前だな」
「え? どういうことなんですか?」
「推理小説風に考えるとだ――犯人であるお前が俺の足を斬ろうと斧的なものを振りかぶる。それを俺が抵抗し、二人は殴り合い――その果てに、俺の足が切断されて、双方満身創痍となり倒れた。と考えられるが」
「な、なにを言ってるんですか先輩! 私が先輩の足を斬ろうなんて考えませんよ! わ、私はそのー、先輩のことは、その、好きですけどー……先輩の足を切断してマクラにしようなんて発想をするほど病んじゃいませんよ!」
「たしかにそうだな。お前みたいな脳味噌のないやつが犯人なんて、お話にならないしなぁ」
「もー先輩は私をまたバカにしてぇ!」
 そんなくだらない考察はいいとして。
 いったいどうして俺は足を切断されていたんだろう。テラスさんいわく、俺の足はオオカミに噛まれたようなものではなく、何かでスパッと切断されたものだという。ならば何者か、人間か魔女かはわからないかが、知能を持ったやつにやられたということになる。
「テラスさん、そこには、俺とユーカ以外にはだれもいなかったんですか」
「誰もいなかったと思うわぁ。いたとしたなら、小鳥やウサギぐらいだわねぇ」
 俺の足を切断した人間はその場にはいなくなっていた。
 ならばどこに消えたのか。どこか森の茂みに隠れたのか。それとももっと遠くにか。北の荒城、いや、もっと遠くの街や森に隠れたのか。
 もしかしたら、前提条件が間違っているのかもしれない。
 俺は“この世界”で足を切られたのではなく、“元の世界”で足を切られたのかもしれない。
 そして――俺たちはこの世界に落とされた。のだろうか。
「私は少年くんと剣士ちゃんをすぐさま治療したわぁ。まずは大けがをしていた少年くんの“足”の治療に取りかかったのぉ。足に再生體【プラナリア】の魔法をかけて、少年くんの足を再生したのよぉ。どうも、少年くんの斬られた足の先がそこにはなくてねぇ、だから少年くんの膝から先の足はぁ、少年くんの細胞から再製され再生された新しい足になっているのよねぇ」
 どうやらこの世界の魔法というものは、欠損した身体のパーツを再生できるようだ。
 俺の元いた世界でも、再生医療というのは存在して、iPS細胞で体の器官を再生することができるようになるまで研究されていたが。それを魔法を使って一瞬にして、手術を行わず成し遂げてしまうとは、凄さの反面、恐ろしさもあるものだ。
「へ、へぇ……。先輩の足が……そんなセルみたいににょきっと再生したんですか」
 ユーカが物珍しそうに俺の足を眺め触っていた。
 そう言えば、俺の足のスネには毛があまり生えていなかった。少しは生えているが、それは小学生レベルの濃さのスネ毛だ。いつの間に俺はスネゲを脱毛していたんだと思ったが、どうやら足を再生した際、スネ毛までは再生していなかったようだ。
 男のみならず、人間のスネ毛というのは一体何の役に立つんだろうと哲学的に思うものだが……。なんだか話が脱線しているようだな。
 脱線した話を戻すように、テラスさんが話を続ける。
「そうして少年くんの足を再生したあと、少年くんの怪我と、剣士ちゃんの怪我を治療したのよぉ。二人とも、ずいぶんひどい怪我をしていたようだけど、なにかと戦っていたの?」
 そうテラスさんが問うが、俺たちは答えられない。
「俺たちも分からないんですよ……。そもそも、俺たちがどうしてこの世界に来たのか分からなくて……」
「この世界って……。まさか二人とも、別の世界からやってきた人たちなの?」
「はいそうです! 私たちは別の世界からここにやってきたんです!」ユーカが自信満々に言った。
「へぇぇ。別の世界ねぇ。たしかに二人とも、服装とかがどこか浮世離れしていたからねぇ。そんな感じはしていたんだけどぉ、まさか異世界から人間がやってくるなんて、おとぎ話の話みたいねぇ」
「でも、俺たちはどうしてこの世界に落とされたのか分からないんです。だからその理由と、そして元の世界に戻る方法を探るためにもこの北の荒城に来たんです」
「なるほどねぇ。二人がここにやってきたのも、そういう理由があったからなのねぇ」
 納得したのか、テラスさんはうんうんとうなづく。
「もしかしたらとは思うだけどねぇ、二人ともぉ、なにか大切な“記憶”を忘れているんじゃないかしらぁ」
 とおもむろにテラスさんが言った。
「大切なキオク……」
「少年くんは足を切断されて、剣士ちゃんは大けがをしていた。二人とも、たぶんとっても壮絶な出来事に出くわしていたと思われるわぁ。そんな壮絶な出来事で、死にかけてしまったら、“記憶”というものが抜け落ちてしまっても仕方ないと思うのよぉ」
「そうか……。たしかに俺は……なにかを忘れているような感じがする……」
 何せ俺は足を切断されたんだ。そんな壮絶な出来事に直面すれば、頭のニューロン回路がいくらかイカれてもおかしくはない。
 俺がこの世界に落とされる前の記憶――
 たしか俺はユーカに学校の3階から突き落とされて異世界へ飛ばされたんだったが……
「そういえばぁ、少年くんと剣士ちゃんはとっても気持ちよさそうに眠っていたわねぇ」
 ふと思い出したように、テラスさんが言った。
「どうも、『というわけで付き合えゴラァ先輩!』とか『俺と寄り添っていいのは、金づるな社長令嬢か、金づるな死に掛けの大地主さんの親族(遺産目当て)だけだ!』とか……二人とも、まるで同じ夢を見ていたみたいに、寝言で言い合っていたわぁ」
「…………」
 そのテラスさんが告げたセリフに聞き覚え、いや言い覚えがある。
 それはこの世界に落ちる前の学校での会話――ユーカとの謎の告白タイムだったのだが。
 やはりあれは夢だったのか。
 まぁそりゃそうだろうな。ユーカに突き落とされて異世界に飛ばされるなんて……そんなバカな話があるわけないんだ。
「わぁあああああああ! テラスさん私の恥ずかしい夢を話しちゃだめですよ!」
「安心しろユーカ。どういうわけか、俺も同じ夢を見ていたんだ」
「ええ!? 先輩も同じ夢って! あの学校で私がそのー……先輩に愛の告白をするという……」
「そして怒り狂ったお前が俺を窓から突き落として、この世界に落とされた――って夢だろう」
「そそそそそそーですよ! まさか先輩とほんとうに同じ夢を見ていたなんて! これってデステニーというやつですか」
「んなわけあるか」ユーカの頭を叩く。
「あいた!」
 しかし二人が同じ夢を見ると言うのは、どういうことなんだろうか。
 いわゆる『シンクロ』というやつなんだろうか。偶然の一致、因果の一致――俺とユーカは、どうもこの世界に降りたつ前に、何者かによって危害をくわえられ瀕死状態になっていたみたいだが、そんな極限状態の中、俺とユーカは共振回路のごとく、心が共振したと言うんだろうか。
 心理学にはあまり明るくないので、突っ込んだことは言えないが……
「二人はそんなふうにして、森の草地で気持ちよさそうに眠っていたんだけどぉ、でも、ずっと草地で眠らせておくわけにもいかないから……私は二人を運ぶために、荷車を持ってこようと思ったのよぉ。でもぉ、私がぁ、荷車を持って行っている間にぃ、二人が忽然といなくなっちゃっていてねぇ」
「いなくなっていたって……」
 まさかの、二度目の“消滅”である。
 別の世界から消滅し、この世界へ降り立った俺たちは、またも消滅して別のどこかへ飛ばされたのか?
「いなくなったといっても、霧のように消えたというわけじゃなくて、二人ともぉ、どうやらロック鳥につままれて飛ばされていったみたいなのよねぇ」
「ロック鳥だって……」
 ロック鳥とは、巨大なワシのような怪鳥のことだ。魔物の一種であるが、危害を加えない限り襲ってくることはないとのこと。(出展:魔物図鑑より)
 俺たちはその巨大な怪鳥につままれたようだ。エサとしてつまんでいったんだろうか、よくわからないが俺たちはそうして怪鳥につままれて空の旅に連れられて行ったんだ。
 そしておそらく、あのカールの街より少し離れた平原に落とされたんだろう。
「なるほどな……」
「せ、先輩! つまり私たちはどういうふうにしてこの世界に落とされたんですか!」
「どういう因果で俺たちがこの世界に落とされたか分からんが、今までの話をまとめると、どうやら『3階から突き落とされて異世界にー』って言う話は、俺たちがテラスさんに治療されたときの夢だったようだ。俺たちは元の世界で何者かによって瀕死状態にさせられて、その挙句この世界へ落とされて、そこを運よく通りかかってくれたテラスさんに解放されたはいいが、ロック鳥につままれて、カールの街より離れた平原に落とされた……というわけなんだよ」
「な、なんだかえらくややこしー話になってますねぇ。いろんなラッキーとアンラッキーのおかげで、私たちはなんとか生きのびたというわけですか」
「ああ。そのようだな」
「でも、私をズタボロにした挙句、先輩の足をちょん切った野郎が居たなんて! どういうことなんでしょうねぇ!」
「そうだな……。さっぱり、どういう因果かわからないが、ユーカはなにか思い出せないか」
「うーん……。私も思い出せませんねぇ」
 ユーカは頭を抱えて唸っている。
「そうか。やはり俺たち二人、忘れてしまっているのか」
 いったい俺たちはどんな凄惨な事件に巻き込まれていたのか。
 『戦わない』俺が、果たしてそんな事件に首を突っ込むものだろうか。いや、俺が突っ込まなくともユーカが突っ込んでいた場合もあるし、相手のほうから突っ込んできた可能性もあるんだ。
 どうにかして、俺たちは記憶をとりもどさなければならない。
「私はぁ、あなたたち二人と再会したとき、内心びっくりしたのよねぇ。あなたたち二人に怪我のことを話そうかと思ったんだけどぉ、でも、二人はどうも『魔王復活』のことについて頭がいっぱいのようで、私もその話を進めていたらすっかり言いそびれちゃってねぇ。なんにせよ、二人が生きのびていて安心したわぁ。あなたたちが生きのびているなら、きっといつか忘れた『記憶』も取り戻せると思うわぁ」
 テラスさんは笑顔を浮かべる。
「その記憶は、もしかしたら思い出したくもない、凄惨なものかもしれない。でも、あなたたちはきっと前に向かって進んでいくんでしょう。あなたたち二人は、サバトちゃんの魔王復活を阻止した立派な勇者だもの。あなたたちはきっと、元の世界に戻ることができると思うわぁ」
 そんなふうにテラスさんは激励の言葉を俺たちに与えた。
 俺たちは過去を思い出さなければならない。
 俺の封印された凄惨な過去――果たして、それはどんなものなのか皆目見当がつかないが、俺はもう逃げるわけにはいかないんだ。
 もうコロビのような後悔はしたくないから。
「テラスさん、俺たちは元の世界に戻ってやりますよ。俺には元の世界に戻る使命があるんです。だから俺は、どんな凄惨な過去でも立ち向かってやります」
「うふふふ、少年くん、なかなかかっこいいこと言うじゃないのぉ。よしよし」
 テラスさんが股も俺を抱き留め、今度は俺をなでなでした。
「わわわわっ! 先輩またテラスさんの胸の中にぃ! わ、私の胸は……物足りないというんですかぁ!」
 ユーカがない胸を張って叫んでいた。
 はたして、俺たちは元の世界に戻ることができるのか。それは神のみぞ知ることだ。
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