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異世界に来たけど戦いません。 作者:カッパ永久寺

真・北の荒城編

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39.摩天閣にて 其の壱

 俺たち魔王復活を阻止する者たちは、傷痕だらけの部屋の真ん中に寄せ集まっていた。
 上を見ると穴の開いた天井から満天の星が映し出される。なかなかいい眺めである反面、少し肌寒く感じるものだ。
「さてと」
 こうして魔王復活を阻止したものだが、このまま帰ってもいいものだろうか。
「先輩! やることやったんですし帰りましょうよ!」ユーカがハイテンションで言う。
「待てユーカ。俺たちはまだ魔王復活のことについてさして情報をつかんでいないんだ。あのサバトから情報を吐いてもらわないといけない。それに、テラスさんから報酬をもらわないといけないし……」
 そう俺がいろんなものを頭の中で勘定していると、
「さばとちゃぁああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああぁぁぁぁぁぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁあああああああん!」
 ドップラー効果のような、波打つ叫び声が部屋の入口より聞こえた。
 あの口調は、言うまでもなくテラスさんのものだ。後ろを振り返ると、お嬢様風の出で立ちの、生命レーベンの魔女、テラスさんが慌てた風な感じで駆けてくる。
 もはやまとわりつくスカートもつまみ上げて、なりふり構わず部屋を風のように通り過ぎていく。俺たちに目もくれず駆けていく。
 そして――部屋の奥に瓦礫を背もたれにして倒れ込む、サバトの前に到着する。
「サバトちゃんのバカァ――!」
 パチィーン、と渇いた音が部屋中に響く。
「バカバカバカバカバカァ!」
 パチパチパチパチパチパチ……と、なかなか張りのある音が続いて響いていく。それはテラスさんがサバトの頬を打つ音なのだが、あのテラスさんがああも激高し、サバトに鞭打つように平手打ちを食らわすとは……異様な光景だ。
 しかもサバトは今は大けがをしているのだ。そんな状態のサバトにトドメを刺すように平手打ちを食らわすなんてのは、サバトと敵対していた俺たちでさえ引いてしまうものだ。
「…………」
「せ、先輩……あれは止めた方がいーんでしょうか……」
 俺たちはただ茫然とテラスさんの平手打ちを眺めていた。なにせ、俺たちのほうも満身創痍だし、そっちに割って入る気力もすっかり喪失しているのだ。というわけで俺たちは傍観者を気取ることにする。
 サバトは涙をこぼしていた。
 それはビンタ攻撃を受けての痛みのせいなのか。
 はたまた、己の願望たる『魔王復活』が阻止され、挙句の果てに敗北してしまった悲しみからなのか。
 もしくは――己の犯した罪に気付いたからなのか。
「こんな、めちゃくちゃなことしてぇ! みんなに迷惑かけてぇ! 私もすごぉおおおおく心配したんだからぁ! サバトちゃん、今のあなたなら自分のした罪がわかるでしょう? あなたはこんなにボロボロになって、心も悲しい思いでいっぱいでしょう。サバトちゃん、その気持ちをあなたは忘れちゃいけないわぁ! あなたのせいで、そんな気持ちになってしまった人たちがたくさんいたのよぉ! そしてもし魔王復活が成功していたら、世界中のみんながそんな気持ちになってしまったのよ! 考えてみなさい。今のあなたなら分かるでしょう。それがどれほどの苦しいことなのかぁ!」
 テラスさんのお説教をサバトはうつむきながら聞いていた。
『どうか剣士ちゃん、少年くん、二人がサバトちゃんを助けてあげてね。私にはどうすることもできなかったけど、あなたたちならなんとかできると思うわぁ』
 前にテラスさんはそんなことを言っていたような気がする。たしかに、サバトをただ倒すだけでなく、改心させるためにはただ戦うだけではいけなかったんだろう。苦しい思いや悲しい思いを知らしめなければならなかったんだろう。
 非力な俺たちの、非力なりの思いを知らしめなければ、わからない。
 だからテラスさんは俺たちに魔王復活の阻止を託したのか――それはよくわからないけど、この一件に懲りて、サバトが二度と悪行をしでかさないことを願うまでだ。
「サバトちゃん……。あなたも苦しかったのね」
 そう言ってテラスさんは傷ついたサバトを抱きしめた。すると、テラスさんの大きな胸の中に埋もれていたサバトから光が発せられた。それはやさしさの光だった。
「再生【リピート】――。どう、サバトちゃん。傷は癒えたかしら」
 サバトの傷はすべてなかったことのように消え失せていた。
 しかし、心に負った傷は簡単に癒えない。
 それはもちろん、サバトに散々な目に遭わされた俺たちも同じで、その傷は時間をかけて、誰かと共に癒していかなければならない。
「サバト……」
 おもむろにイージスがサバトの前に現れた。
「私はあなたを許さない」
 と残酷に言葉を告げる。しかし、サバトに操られていたイージスがその言葉を告げるのは当然の権利があるだろう。
 その言葉を突き付けられてサバトは途方に暮れていたようだった。そこに、祝福の天使のように顔を向けるのはテラスさんだった。
「サバトちゃん、謝りなさい。みんなに。謝っても許されないかもしれないけどぉ、それでも謝りなさい。そうしたらぁ、たとえみんなから許されなくても、あなたは少しだけ変わることができると思うわぁ」
 しばしサバトは沈黙した。そして口をゆっくりとあけて、
「ごめん……なさい」
 と、蚊の鳴くような声でつぶやいた。俺たちに謝罪の意を示した。
 それを聞いてイージスは。
「……もういい」と。いつもの無表情でつぶやく。
 サバトの犯した罪は許されざる罪で、俺たちはそれのせいで傷つき、命を失いかけたこともあった。でも、それは過ぎたことだ。
 今は勝ち得た平和を謳歌しよう。俺たちのなし得た願望を胸に。希望を胸に。
「とにかく――これで魔王復活は阻止されたぁ! 私たちの悲願は達成されたんですよ!」
「そうだな。これで見事報酬を獲得して……」
「先輩はまだそんなことを言っているんですか!」
 ユーカが愚者の剣をハリセン代わりに、俺に突っ込みを入れようとする。それで殴られたらシャレにならないので俺はそれを必死に避けるしかない。
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