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異世界に来たけど戦いません。 作者:カッパ永久寺

真・北の荒城編

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25.氷寒(アイス)の魔女との戦い 其の肆

「先輩! 私に一体何をかけたんですか! こ、これは新手のイジメですか!」
 ドボドボ状態のユーカが俺に掴みかかって来ようとするが、俺はその手から離れる。
「ユーカ、これは魔法の液体だ」
「ま、魔法の液体ですか」
「ああ。これを被っていればあのウラノの攻撃を受けても凍らないはずだ」
「ええ! そんな魔法の液体があったんですか」
「ああ。ウルスラグナの街の市場で買ってきたものだ。これであのウラノの魔法をかいくぐって、ウラノを拘束してくれ」
「わっかりました先輩! 先輩がおっしゃることなら、たぶんなんとかなるんでしょう! がんばってきますよ先輩!」
「おう」
 ユーカは颯爽とウラノのもとへと駆けていく。
「お、おい……。お兄さん、あのちびっ子が行ってしまったが……。大丈夫なのか」
 不安げな顔を浮かべてマルスがつぶやく。
「大丈夫だ。ユーカのあの奇ポーズはもう拝めないから安心しろ」
「で、でも! ウラノの『冷凍室【フリーザー】』を無効化する液体なんて、そんなものあるわけ……」
「あるんだよ。お前たち魔女は魔法しか知らないようだが、世の中にはいろいろな摂理があるんだ。それをしかと見ておくんだ」
 俺の言葉のあと、マルスもユーカの方へと顔を向ける。
 ユーカはウラノのほうへ猪突猛進していた。
「とりゃぁあ――!」
「あーここ通るのー? 通りたかったら100おくまんシェールはらってねー」
「そんなお金、あいにく持ち合わせていませんよー!」
「じゃあ止めるねー。つーこーどめー。冷凍室【フリーザー】」
「はぎゃっ――」
 ユーカの元にまた冷気が放たれる。それに生身のカラダが当たればユーカは氷漬けになっただろう。
 しかし、いまのユーカはさっきまでのユーカとは違う。
 ユーカの身体は冷気に触れても凍ることなく、そのまま冷気を放つウラノの元へ直撃していく。
「あれー? おっかしいなぁ。魔法効かないわー」
 ちっとも動揺することなくウラノは言った。内心動揺しているのかもしれないが。
 そんなウラノを見据えつつ、ユーカはウラノへと直進していた体を、素早い足さばきでくるりと回転、そのまま流れるようにウラノの背後に回り込み――
 ウラノの背中から、ウラノの首へと右腕を回し、ウラノの首を絞めた。
「がうっ……」
「裸締めだぁ!」
 ウラノは首が絞められ、身動きが取れなくなる。マルスみたいな例外がいれど、魔女は魔法が使えても基本的な体力が強いというわけではない。魔法さえ無効化されれば霊長類最強のユーカの敵ではないのだ。
「な、なんでだ……。ウラノの冷凍室【フリーザー】を受けたのに、あのちびっ子はちっとも凍り付いていないぞ」
「ああ。あいつは身体に『エタノール』をかぶっていたからな」
「え、えたのーる?」
「エタノールというか、まぁ、ウルスラグナの街の酒屋にあった濃度の高い酒を被っているんだよ。酒、つまりアルコールの主成分はエタノールで、そのエタノールってのは凍結温度が非常に低いんだ。たとえ南極大陸にあろうが凍りつかない。ガソリンが冬に凍りつかないのと同じ話だ。凍結温度が低いから凍らない。ユーカの全身にかぶったそのエタノールが壁となり、ウラノの冷凍室【フリーザー】を受けてもユーカは凍りつかなかったんだ」
「酒を頭にかぶっていたのか……。まさか、そんな簡単なことでウラノの魔法を防げたなんて」
 まぁこれは、イチかバチかの賭けだったがなんとかなったようだ。
 ウラノはユーカに拘束され成すがままとなっている。
「うわー、たすけてー」
 ほんとうに助けてほしいのかよくわからない、そんな覇気のない声が聞こえてくる。
「さぁマルス、あいつにトドメを刺そうか」
「トドメって、まさか私の焔蜥蜴【サラマンダー】をか……」
「あのウラノは無表情でなにを考えているかまるでわからんやつだ。だから、徹底的に倒しておかないと後で足元をすくわれることになりかねない。だからマルス、一発やっちゃってくれ」
「ウラノを燃やせと言うのか……。ウラノは友達だから、気が進まないが……」
「サバトに打ち首にされたいのか?」
「やりますやります! やってやりますとも!」
 マルスは声を上げて、そしてウラノの方へと手を伸ばす。
「ウラノ、すまんな……。こっちも背に腹は代えられんから覚悟してくれ」
「マルスさーん、そんなごむたいなー」
 マルスは意を決して言葉を放つ。
「焔蜥蜴【サラマンダー】」
 マルスの手から炎の柱が放たれる。その炎の柱は見る限り威力が半分ほどになっていたが、ウラノが拘束されているため狙いが外れることなく一直線にウラノに届いていく。
「ちょ、ちょーと、なんなのよこれー」
 とさすがに慌てるウラノ。そのウラノの身体に炎の柱がぶつかる――
「ぐぇほ……」
 ウラノは炎の柱の勢いでぶっとばされる。そして申し合わせたように――爆発した。
 あれ、爆発って……
「あっ」
 そこで俺は思い出した。ウラノを現在拘束している、功労者のことを。
 ユーカは身体に酒をかぶっていたんだ。酒っていうのは燃えやすいもので、引火でもしてしまえば爆発の恐れだってあるんだ……
 つまりさっきの爆発はユーカの身体にまとわれていた酒に引火したものなのか。
「「ぎぇえええええええええええ!」」
 正面を見ると火だるまになっているユーカとウラノの姿があった。
「う、ウラノ!」
「ゆ、ユーカ!」
 俺とマルスは駆けだす。すべては俺とマルスの共同作業によるものなのだが、俺たちはその二人の火消しに向かうことに。とんだマッチポンプだ。

「ぐへー……」
 なんとか二人を纏っていた炎を取り除くことができた。
 ウラノの氷の魔法により炎を消すことに成功した。しかしウラノとユーカはその炎によりすっかり疲弊していた。
「ユーカ、大丈夫か」
「先輩ぃ……。どうして私を火だるまにしたんですか!」
「すまん、すっかり忘れていた。まぁしかし、結果オーライじゃないか」
「どこが結果オーライなんですか!」
 ユーカはズタボロ状態のまま怒っている。
 その隣のウラノは呆然とした顔で座り込んでいる。
「ああー! ウラノ! すまなかったな! 私のせいでこんなことになってしまってぇ!」
「マルスさーん、別にいいっすよー。昨日の敵は今日の友っていうしー」
「おう! 私たちは永遠の友達だな!」
「そうですねー。私もすっかりあのニンゲン二人に、痛い目見られちゃいましたしー。これでマルスさんと同じ負け犬ってわけですねー」
「ウラノ! お前の仇は取ってやるぞ! そこの二人を今からクロコゲの消し炭にしてやる!」
「おおさっすがマルスさん、頑張ってくださいねー」
 そんな感じで、マルスは俺たちに対する怒りに燃えていた。
「なんだマルス、お前は俺たちの仲間となることをやめるのか?」
「仲間だと! 私はお前たちと仲間になった覚えはないさ! 私は十人十色の魔女デカラフルウィッチ! 一度負けたぐらいであきらめる魔女じゃなーい!」
 そう言ってマルスは正面に手を突きだす。
「食らえ! 焔蜥蜴【サラマンダー】」
 俺たちの元に一直線に炎の柱が放たれる――
 ということはなく。
 魔力量のすっかり切れてしまったマルスの手からは、百円ライターの炎のような心もとない炎しか現れなかった。
「ユーカ、とにかくこんな寒い所去ろうぜ。魔王復活は俺たち二人だけで食い止めよう」
「そーですね! 目指せ次の階!」
 俺たちは氷と炎、二人の魔女を背にして次の階へ続く階段を上っていく。
「待て! 待つんだ貴様ら! 覚えてやがれぇ!」
 俺たちはすたこらさっさと階段を上っていく。
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