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異世界に来たけど戦いません。 作者:カッパ永久寺

真・北の荒城編

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15.キメラとの戦い 其の参

「どっこいしょー」
 鉛像をユーカが運び、32階へと舞い戻る。
 そこには抉られた部屋があり、その中央にエキドナと言う魔女と『マカロン』ちゃんというキメラがいる。
「なんだお前たち、無謀にも私と再び戦おうと言うのか? そーんなおおきな鉛像を掲げて、いったい何をしようというんだぁ」
「ガォオオオオオオオオオオオ!」
「メェエエエエエエエエエエエ!」
「シャァアアアアー!」
 あいもかわらずキメラのマカロンちゃんは三重奏を奏でている。
「先輩! それでこの鉛像を使ってなにをしようというんですか?」
「ユーカ、お前は球技が得意か?」とおもむろに尋ねてみる。
「きゅ、きゅーぎですか? うーん、私、武道は得意なんですけど、球技に関しては飛び抜けて得意ってわけじゃないんですねぇー」
「それは意外だな。霊長類最強のお前なら、なんでもこなせると思ったのに」
「いやーだって、球技ってルールがややこしいじゃないですか。トラベリングやオフサイドとか! それに私、チームプレーとか苦手ですしー」
 なるほど。脳のスペックがファミコンレベル、下手すればアタリ800レベルのユーカには球技のルールは呑み込めないというわけか。それにもまして球技はチームプレイである。ユーカはパワーがあり過ぎて、だれも合わせられないのだ。もしかしたらユーカと相性のいい人でもいれば意外とうまいこと行くかもしれないが、しかしユーカはいろいろ規格外である。
「まぁユーカ、お前はルールのある球技ができなくとも、お前にはパワーがある。ユーカ、お前には一つ、バスケットのシュートをやってもらうぞ」
「バスケットのシュートですか?」
「そうだ。あのキメラに向かってその鉛像を投げ入れてくれ。それだけでいいんだ」
「ほんとうにそれだけでいいんですか! それならやってやりますよ先輩!」
 ユーカはそう言って意気揚々と鉛像を構える。ちょうどバスケットゴールに向けてシュートを放つように。
「えーと、左手は添えるだけ……っと」
「いけぇ! マカロンちゃん!」
「ガォオオオオオオオオオオオ!」
 狙いを定めていたユーカを睨み付け、マカロンちゃんが口から炎の柱を放った。
「ぎゃ、ぎゃああああああ!」
 ユーカは鉛像を掲げたまま反射的に横へ移動した。
「はっはっは! お前たちはすっかり忘れてしまったのかぁ? マカロンちゃんの放つ炎は金属さえも溶かしてしまうものなんだぞ! そんな鉛像、一瞬にしてドロドロにしてやる!」
 ユーカに向かってマカロンちゃんが顔を旋回させる。
「こ、このぉ! これじゃあ像が投げられないじゃないですかぁー!」
 ユーカは叫びながら走り回る。ちょこまかと移動し、マカロンちゃんをかく乱させる。
「ガォオオオオオオオオオオオ!」
 マカロンちゃんは痺れを切らしたのかそのユーカに向かって炎の柱を放った。しかし、ユーカはそれをすぐさまかわし、そしてなんとその炎の柱に沿うようにして正面へと直進した。
「なっ――」
 そのユーカの行動に驚いたのはエキドナだけでない。マカロンちゃんも動揺したのか炎を吐くのを一瞬やめてしまった。
 その一瞬のうちにユーカはマカロンちゃんのすぐ傍へと、鉛像を掲げて近づいた。
 そしてそのマカロンちゃんのぽかんと開いた口へと、ユーカは跳躍し、鉛像を乱暴に投げ入れた。
「スラム――ダンクだぁ!」
 ごろん、と鉛像がマカロンちゃんの口へと放り込まれそうなとき――
「ガォオオオオオオオオオオオ!」
 マカロンちゃんがユーカの姿をとらえ、炎を吐こうとした。
「ユーカ、避けろ!」
「てやぁ――!」
 鉛像を放り込んだユーカはすぐさま床へと落下し体を丸めてしゃがんだ。
「ガォオオオオオオオオオオオ!」
 炎の柱が放たれる――
 と思ったが、あのマカロンちゃんの口からは炎の柱がさっぱり出てきていなかった。
「オオオォォォォ――……」
「ま、マカロンちゃん!」
 マカロンちゃんは目を閉じてぐったりと倒れた。背中のヤギも、下半身のヘビもぐったりと目をつぶって眠るように倒れていた。
「や、やりましたよ先輩! あのマカロンちゃんを倒してやりましたよ」
「ああ。予想通りの結末だ」
「でも先輩、どうしてキメラがとつぜん倒れてしまったんですか? あの鉛を、間違って飲み込んでしまったんですか?」
「まぁ、簡単に言えばそう言うことなんだがな。あのキメラが吐く炎は金属を溶かすほどのものだが、あくまで金属を融解させるまでだ。お前の投げ入れた鉛像は、あのキメラの炎によって溶かされた。つまりいまあのキメラの腔内は解けた鉛で満たされているというわけだ。そうなった場合、あのキメラはどうなると思う?」
「え、ええと……。すんごく苦しくなるんじゃないですか?」
「そうだ。正確には“窒息死”するだろうな」
 粘度のある溶けた鉛を口に満たすと喉がふさがる。鉛が冷え切ってしまえば完全に遮断され、もはや空気を肺に送るすべがなくなるのだ。
 酸素がないと生きられない。それはあのキメラも同じことなのだ。
「ま、マカロンちゃぁああああああああああん!」
 あのエキドナという魔女が絶叫している。たしかにあのマカロンちゃんは俺たちの敵であったが、愛らしくも……あったのか? しかし俺たちはエキドナの愛犬ならぬ愛獣を倒してしまったのだ。
「グルォォ……」
「ま、マカロンちゃん! まだ息はあるのか!」
 どうやら、あのマカロンちゃんは奇跡的に息をしていたようだ。
 俺たちの投げ入れた鉛が、ぎりぎり喉の栓とならず息をしているようだ。しかし、マカロンちゃんは倒れたままで息が荒い。とても俺たちと戦える状況じゃない。
「おい、そこの魔女」
「なっ……お前たちはマカロンちゃんをひどい目に遭わせやがってぇ!」
 エキドナはきつい目でこちらを睨んでいた。
「まぁ待てよエキドナ。お前のマカロンちゃんは今は危篤状態だ。こんな状態じゃお前も戦えないだろう。俺たちはべつにそこのキメラにトドメを刺そうなんか思っていない。ただここを通してくれたら、キメラには手を出さない。だから俺たちのことは見逃してくれないか」
「お、お前たち……! 私はサバト会の魔女なんだぞ! そうやすやすと道を譲るわけにはいかないんだ!」
「サバトとか言う魔女と、そこの愛獣マカロンちゃんの命と天秤にかけてみることだな。お前はキメラのために200年も費やしたんだろう」
「くっ……」
 エキドナは奥歯をかみしめ悔しそうな表情を浮かべた。
「わかった。お前たちを通そう。私はいますぐマカロンちゃんを助けないといけないから忙しいんだよ! さっさとこの場から立ち去れ」
「いや、そういうわけにはいかないんだ」
「な、なんだと! まだ私になにか文句があるのか!」
「マカロンちゃんの手当てをしながらでいいから教えてほしい。あのサバトという魔女について、なにか教えてくれないか」
「さ、サバト様のことか……」
「答えなかったらユーカがマカロンちゃんを三枚におろすぞ」
「とりゃあああああ!」
 ユーカが木刀片手に凄みをかける。
「わ、わかった話す話す! サバト様のことだな! 頭の先からしっぽの先まで全部話すからぁ!」
 エキドナがサバトのことについて話を始めた。
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