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異世界に来たけど戦いません。 作者:カッパ永久寺

真・北の荒城編

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7.魔女協会都市(ウィザードコミューン) 其の弐

 俺とユーカは荒城の一階の奥に位置するテラスさんの家に上がった。
 テラスさんの部屋の中は魔女の部屋っぽくなく、アンティークな喫茶店のような感じの部屋だった。渋い趣のある木製の家具が部屋に並び、部屋の中央には木目の文様が描かれた艶やかなテーブルがある。そのテーブルの上にはティーポットとティーカップ。そしてその隣にお菓子の積まれたバスケットがあった。
「じゃ。お茶を入れるわね」
 そう言うとパチンと指を鳴らすテラスさん。その音に反応してなのか、ティーポットがぷかんと宙に浮かんだ。
「ぬわわっ」ユーカが驚く。俺も内心驚いた。
 ティーポットはひとりでにふたが開き、そこに宙に浮かんで飛んできたテーバックが放り込まれる。その次に水差しが宙に浮かんで飛んできてポットに水を注いだ。ポットのふたがまたひとりでに閉じられて、その後ポットはくるくるとダンスするように回る。数秒するとポットから湯気が立ち、ポットは回転を止め宙に静止した。しばらくするとポットはティーカップに近づいてだばだばだば……と赤い色のお湯――そう、紅茶を注いだ。
「はい、召し上がれ。お菓子もたべていいわよぉ」
 俺たちの前に紅茶の入ったティーカップが飛んできた。
 俺とユーカは呆然としていた。
「これが魔法と言うやつですか……」
「なんかすごいな。電気ポットなしでこんなすぐに紅茶ができるなんて」
 俺はいただきますとつぶやいて紅茶をすする。うん、おいしい紅茶だ。
 しかしなんだろう。俺たちは一応敵地である荒城の内部に潜入したのに、その荒城の中で紅茶とお菓子を召し上がることになるなんてどうなっているんだ……。
「んーと、さっそくだけどぉ、サバトちゃんの話の続きをしてもいいかしらぁ」
「はい、お願いします」
 隣のユーカは熱い紅茶に舌をやられて、舌をべぇーっと出して悶えている。緊張感がかけらもない。
「サバトちゃんはねぇ、昔からそうだったんだけど、真面目な子なのよねぇ」
 とテラスさんが言った。ユーカは舌を収めてテラスさんの方に顔を向ける。
「魔女の世界ではね、魔の力こそが絶対の価値観なのよね。それゆえに魔女は『魔の力』というものを追求し続けているのよねぇ。それだから、真面目なサバトちゃんは、いつもここの10階のダンダリオン図書館にこもったり、家の工房(アトリエ)にこもったりして魔法の研究をしていたのよね。サバトちゃんはいつも口癖のように『私は最強の魔女になってやる!』て言っていたわ」
 最強。そういえば俺の隣には『霊長類最強』がいるのだが。人間は、そして魔女は最強というものをどうしようもなく求めたがるものなんだろうか。
「サバトちゃんは研究の末、魔王の力を手にしようとしたみたいなのよ。魔王には限りのない、無限の力があったそうだから、その力さえあれば最強の魔女になれるんじゃないかとサバトちゃんは思ってね。そして魔王復活の計画を立てて、それに協力してくれる魔女を呼びかけて『サバト会』なるものを作ったのよ」
 サバト会、そんな珍妙な会が知らぬ間にできていたのか。
「サバト会なる会があるってことは……。サバトに賛同する魔女が何人かいたんですか?」
「何人かというか、この都市の3割ぐらいの魔女がサバト会に入っているわ。といっても、魔女というのは現在は少数だから、現在この都市にいる魔女は全員で100人程度、その3割だからせいぜい30人くらいの小さな集まりなんだけどねぇ。まぁ、たった30人だけど、魔女が30人も集まったら怖いものなしだからねぇ。それにその30人のうち何人かは魔力の高い精鋭の魔女が入っているから……サバト会は結構強力な組織なのよね。サバトちゃんの実力か人脈のおかげかどうかは分からないけどねぇ。まぁなにせ魔王を復活させたら最強の魔女になれるっていうもんだから、サバトちゃんみたいな真面目な魔女たちが食いついちゃったんでしょうねぇ」
「なるほど。魔女たちにはどうか分からないけど、普通の人間にとっては魔王復活なんて迷惑なだけの話なのになぁ」
「そーですそーですよ! 魔王復活しちゃったら世界が大変なことになっちゃいますよ!」
「そうなのよねぇ。魔女たちもみんながみんなサバトちゃんみたいな考えを持っていないから、魔王復活なんて御免こうむると思っている人もたくさんいるのよ。かくいう私も、魔王復活には反対だわ。いくらお友達のサバトちゃんの考えたことでも、こればっかりは賛同できないわぁ」
「テラスさんみたいに、サバトのやり方に反対している人は結構いるんですか?」
「うーん、サバト会に所属していないのはここの7割の魔女たちだけど、でも、今の魔女っていうのは基本内向的な人が多くて、みんなサバト会に反対というよりか、『そんなの興味ない』って感じで無関心な人が多いと思うのよねぇ。何人か魔王復活に反対する人はいるでしょうけど、みんなそんな活動的じゃないから……実態はよくわからないのよ。それに第一ね、魔女にとって魔王が復活しようがしないがどうでもいいことだったりするのよね。魔物が復活しても、みんな魔法で魔物をねじ伏せちゃうから問題ないのよね。むしろ魔物が増えたほうが刺激があって楽しいなんて思っている魔女もいるくらいだからねぇ」
「た、楽しいって……。私たち普通の人間とは根本的に考え方が違うんでしょうか……」
「考え方と言うより――魔の力があるかないかかもね。魔女には、魔女にしかわからない世界観があるモノだからねぇ」
 なるほどなぁと納得しながら俺はバスケットの中のクッキーを口に放り込み咀嚼する。
 価値観は人それぞれ。考え方も、好きなものも嫌いなものもみんな違う。
 だからといってそれで人を傷つけてはいけないものだ。それは聖地を奪還しようとする傍若無人な十字軍のようなものだ。
「テラスさん、俺はよくわからないんだが、魔王が復活したら……100年前の、人々が苦しむ世界に逆戻りになってしまうのか」
「そうね。魔王の力によって魔物が次々に発生して、この世界は暗黒の世に逆戻りね」
 俺は図書館でその100年前の時代のことが書かれた本を読んだが、その世界というのはまるで地獄絵図のようなものだった。
 家が焼かれ、村が焼かれ、さまざまな機能が麻痺し、世界は衰退する……。勇者が現れない限り、どうしようもないような時代だった……ようだ。
 俺は実のところこの世界がどうなろうと知ったこっちゃない。俺が救うのはユーカ一匹だけだ。ただ、この世界から出られればいいんだ。
「そんなことになったら大変ですよ! 先輩! 私たちでその魔王復活を阻止してやりましょうよ!」
「ユーカ、お前はあくまで魔王復活を阻止しようと言うのか」
「あーたり前じゃないですか先輩! 人類の危機に立ち向かわないでどうするんですか」
「そんなことしたって、俺たちには何の利もないんだぞ。ユーカ、前にも言ったが俺たちが救える世界ってのは猫の額ぐらいの小さなものだって……」
「あーもぉ! 先輩はなにを言い訳しているんですか! 先輩は『正義の味方』になって、みんなを救うんじゃなかったんですか!」
「お前は何を言って……」
「そんなんじゃ、コロビちゃんが悲しみますよー!」
 その言葉を受けて、俺はふとあの館で聞いた、コロビの幻想の言葉を思い出した。
『正義の味方になるんでしょう? 兎毬木くんは』
 あのコロビの幻想の人形はそう言っていた。
 それが俺の進むべき道なのか。やはり俺は正義の味方となって、世界を救うべきなのか。
「……俺は、昔の自分じゃないんだぞ。正義の味方なんて、こっぱずかしい動機で俺は動かないぞ」
「せ、先輩!」
「こんな世界滅べばいい。俺たちは勇者でもなんでもない上にこの世界の人間でもないんだ。だから――」
 そのとき、
 俺の身体がやわらかいものに包まれた。
「えっ――」
 と思ったときには、そこにあのテラスさんの豊満な胸があった。俺はどうやらテラスさんに抱き留められたようだ。
「わわわっ! 先輩! やっぱり先輩はそーゆーおっきな胸のほうがよろしかったりするんですか!」
 なぜかユーカが抗議を申し立てているが、俺はなにもしていない。
「テラスさん……」
「少年くん、あなたは、楽になればいいのよぉ」
「楽にって……」
 こんな状況で楽になれとはいったいどういうことなのか。
「あなたのココロの中にある気持ち、それはあなたがよく知っているんでしょう? その気持ちに嘘をついちゃきっと後悔するわ」
「俺の気持ちは……。俺は、ただ、成功者になりたいだけで……」
「あなたは、どうしようもなく誰かを助けたいんでしょう。たしかにあなたが救える世界は小さなものかもしれないけど、あなたは、一人だけじゃないんでしょう?」
「それは……」
「先輩! 私もついていますよ!」
 俺にはユーカがいる。
 でも俺はユーカを頼るわけにもいかない。俺は俺自身で俺の力で事を成さないといけない。
「俺は、誰かのためにとか、そんな思いは微塵もないんです。俺はたしかに昔正義の味方になろうとした。でもそれは昔のことです。魔王が復活しようが、この世界がどうなろうがどうでもいいんです」
「少年くん……」
 俺は非情にならなければならない。そうでなければ救うべきものさえも救えないくなるんだ。
 でも、コロビは――。昔の俺を思い出せと言っていた。
 俺はどうすればいいんだろうか。俺の進むべき道は……俺自身が決めなければならない。
「テラスさん、あなたは、魔王復活をもくろむサバトというやつの友達だったみたいですね」
「ええ、そうですけど」
「テラスさん、俺は世界なんか救うおうとは思いません。でも、報酬のある、あくまで、報酬のある“人助け”なら、やってやらなくもないですよ。あなたの友達のサバトさんの横暴を止めたい――という依頼があれば、俺は二つ返事で請け負ってやりますよ」
「ええええ!? 先輩なんなんですかその手のひら返しは! 先輩はいったい正義の味方になりたいんですか、それとも悪代官になりたいんですか!」
「テラスさん、報酬はそうだな……。そこの棚の中にあったルビーでいいでしょう」
 俺はあらかじめテラスさんの棚からくすねていたルビーを突き出した。
「先輩なに人の家のものをくすねているんですか! そんなの主人公失格じゃないですか」
「なにを言うか。RPGの主人公は家探しするのが基本だろう」
「たしかにそうですけど! 先輩はどこまでナンキンな人なんですか!」
「ナンキンって、俺のことをかぼちゃ野郎だといいたいのか。いいかユーカ。冒険というのは金が要るんだ。交通費に食糧費に宿代、武器代防具代……もろもろ必要だ。俺たちはこの世界に戸籍もない身分だから働くわけにもいかないから、金を調達するのも手が限られるんだ。だからな、ここらで一攫千金と行こうというわけだ。このルビーを換金したらしばらく金にこまらなくなるぞ」
「そ、そんなぁ! お金のために世界を救おうだなんて! わっけがわかりませんよぉ!」
「世界の危機は金儲けのチャンスだ。ユーカ、とにかくあのサバトとかいうやつをねじ伏せてやって見事このルビーを手にしてやろうぜ。さぁ行こうぜユーカ。ルビーを救うため、金のため戦うぞ!」
「ふふふふっ……。少年くん、やっぱりあなたは、世界のために戦おうとするのね」
 そう後ろからテラスさんがつぶやいた。
「いいえテラスさん。俺は世界のためになんか戦いませんよ。俺は不戦勝の男です。だから、戦わずして勝ってやるんです。あなたの友達のサバトさんを改心させたあかつきには、ぜひこのルビーを下さいね」
「はいはい。少年くん、剣士ちゃん、二人とも頑張ってね」
「おう、頑張りますよ!」
 テラスさんの激励を受け、俺たちは魔王復活を企てるサバトの元へと向かう。
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