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異世界に来たけど戦いません。 作者:カッパ永久寺

真・北の荒城編

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6.魔女協会都市(ウィザードコミューン) 其の壱

「ここが、えーと、うぃざーどこみゅーんってところですか」
 俺たちは荒城の中に入った。
 しかしここは魔女の住むところである。そんなところに俺たちがそのまま入るなんて――ヤクザの事務所にカタギがのこのこ入るのと同じようなことだ。袋叩きに遭うのがオチだ。
 というわけで俺たちは変装をした。変装と言っても大した衣装道具を持っていないので、ウルスラグナの街の市で買ったいた黒い布地を頭からかぶり、ローブのようにして着込み、遠目で見たら「あれ魔女っぽくね」て思えるぐらいの格好になった……はずなのだが。
 せっかく変装したというのに――居住区(コミュターフロア)と書かれた一階の通りには人が見えない。
 人がいないのではないと思う。あたりにはマンションのような感じに部屋が並んでいて、人のいる気配がする。でも誰も外に出てこない。まるで全員引きこもりになったみたいに出てこない。
「そういえば魔女っていうのはあまり社交的でなくて、部屋や家にこもって魔法の研究していたりしているみたいだな」
「へぇ。だからこんな廃墟っぽい感じになっているんですか」
「まー荒城だからさびれているのは普通だろうけどな」
 しかし本当に誰も外にいない。俺はもっと魔女の都市というのはハリーポッター的な愉快なものを想像していたんだが、こんなところだったとは思いもよらなかった。
「しかしここ薄暗いうえに入り組んでいるから、ダンジョンみたいに見えるなぁ。どこかの物陰から魔物が出てきたりとかしないものかな」
 こつんこつん。曲がり角の向こうから乾いた足音が聞こえた。何かが迫ってくる気配がする。
「せ、先輩! 何かが接近中ですよ!」
「もしかしたら魔女の誰かかもしれないな」
「魔女ですか……。私たち、普通の人間とバレないでしょうかねぇ……」
「大丈夫だ。人間だって童貞のまま30歳になれば魔法使いになれるっていうし……」
「私たちはまだ十代ティーンじゃないですか!」
 そうこう言い合っているうちに足音の主が曲がり角からこちらに顔を見せた。
「ぎゃー魔女だぁ! 魔女に喰われる料理にされるぅー!」
 ユーカの叫び声を受けるのは、目の前の魔女。
「あらぁ、あなたたちは?」と朗らかにこやかな声で現れる。
 背の高い、肉付きの程よい、出るとこ出てるおねーさん風の女の人。髪は長いベージュ色でゆるふわウェーブがかかっている。その頭には三角帽ではなく、カチューシャが付いている。
 服装も白を基調としたお嬢様が着るドレス風のもの。とても魔女っぽくは見えない。どこかの世間知らずのお嬢様って感じの人に見える。
 しばらく俺たちはその美しい女の人に見惚れていたが。
「って、そうだ魔女ですよ! 先輩どうしましょう! 倒してやりますか!」
 ユーカはすぐさま木刀を構える。
「ユーカ落ち着けよ。何でもかんでも暴力で解決しようなんてどこかの社会主義国みたいじゃないか。それに、俺たちは一応魔女と言うことになっているんだからそんなことする必要ないんだぞ」
 そうだ。俺たちは一応魔女に変装しているんだ。今は魔女の格好してやり過ごすのが得策だ。
「んー。あなたたち、見かけない顔ねぇ」
「ぎくぅ! あ、私たちはそのーさいきん『僕と契約して魔女になってよ』って感じで魔女になった感じなんですけどー」
 ユーカはすごくギクシャクした上に苦し紛れな返答をする。ユーカが滝のように冷や汗を流している。
「くんくん」
 突然魔女の人がこちらにゆっくり寄ってきて顔を近づけてきた。
 俺たちの足の下から顔までなめまわすように臭いを嗅いでいく。ふつうそんなことをされたら不快な気分になるものだが、目の前の魔女さんが美人さんなのであまりそんな気分にならない、むしろいい感じがするのは男の性というものなのか。視線が自然とその美女の胸元に行ってしまうのも生物的な性なのでしょうがないといいたい。
「うぎゃああ! 私たちをくんかくんかして何をしようというんだぁ!」
「ふむふむ」
 と魔女さんは俺たちに指一本触れることなく後ろへ下がる。なにか考えているのかしばらく目をつぶって「うーん」とうなっている。
「君たち、どうやら普通の人間のようねぇ」
 魔女さんはそんなドストライクな指摘をした。
「わ、私たちは魔女ですよ! ね、ねぇ先輩!」
「そうだ俺たちは……魔女、なんだわよ。えへっ☆」
「せ、先輩がめちゃくちゃ気持ち悪くなっている……ウォェ……」
 やはり男が魔女の振りをするのは無理があり過ぎたか。せっかくなら魔法使いのふりにしておけばよかったろうに。しくじった。
「ふふふ、ふたりともぉ、別にそんなに慌てなくていいんだよぉ」
 と優しく語りかける魔女さん。
「わたしの名まえはテラス・コーネリアでぇす。見てのとぉりの魔女なんだけど、別に私は普通の人間を取って食ったりしないから安心していいわよぉ」
 波のようなくねくねした口調でテラスさんは言った。見た感じそんな怖そうには見えない人だから、この人の言うことを信用しよう。美人のいうことに嘘はないはずだ。
「ま、でも、普通の人間がこんなところに居たら危ないからちゅういしなくちゃぁねぇ。魔女の中には魔女じゃない普通の人間を家畜のように見ている人もいるからねぇ。研究材料にされて合成獣(キメラ)にでもさせられたりするかもしれないわよぉ」
「き、キメラですってぇ! なんておどろおどろしいことを考えている人がいるんですか……」
「まぁ、魔女もジュウニントイロってことだからねぇ。私のように普通の人間を嫌わない人、人間を軽蔑視、もしくは敵対視する人とかいろいろいるのよね」
「まぁ、なにはともあれ、テラスさんのような友好的な人に初めに出会えて幸運だったな」
「まぁねぇ。特に今はこの魔女協会都市はややこしいことになっているから、気を付けた方がいいわよぉ」
「ややこしいことってまさか魔王復活のことですか!」
 ユーカはそう言ってテラスさんに詰め寄る。
「テラスさん、俺たちは魔王復活について調査するためここに来たんだ。その魔王復活というのはサバトとかいう魔女が画策しているみたいだが、あなたは何か知りませんか?」
「あらあらぁ、サバトちゃん、また派手にやらかしちゃってるわねぇ。ふふふぅ」
 とテラスさんはにこやかに言った。
「サバトちゃんって、テラスさんまさかサバトと知り合いなんですか?」
「うん。私とサバトちゃんは80年ものながぁいおつきあいがあるからねぇ」
「ひゃ、はちじゅうねんですって!」
「魔女は長生きするからねぇ。ちなみに私の年は80歳よ」
「は、はちじゅう――!」
 俺とユーカは声をそろえて叫んだ。目の前のテラスさんはお美しい。そして若々しい。とても80代には見えない。
 魔女は俺たちみたいな普通の人間と違う。だから年をとっても若いのか。普通の人間とそもそも寿命が違うんだろう。
「いやー、私も魔女は長寿だって聞いたことはあったんですけど……。はちじゅーなんてそんな……気の遠くなるような年をとるとは……」
「うふふぅ、ふたりともぉ、私をそんなにじろじろ見ちゃ恥ずかしいじゃないのぉ。まぁ、話がそれちゃったみたいだけどぉ、私のサバトちゃんのことだけどね、あの子、あなたたちの言った通り魔王復活の計画を企ているみたいなのよねぇ。それで今はいろいろややこしいことになっているのよぉ」
「ややこしいことって、この城でいったい何が起きているんですか?」
「うーん、そこらへんの話は長くなるからぁ、ちょっとお二人とも、私の家に寄っていかないかしら? おいしい紅茶を入れてあげるからぁ」
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