挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界に来たけど戦いません。 作者:カッパ永久寺

真・北の荒城編

61/102

3.オオカミとの戦い 其の弐

「ぬわっ――!」
 ケモノの犬歯がユーカの首をかみ切る直前、ユーカは風のごとく移動した。
 瞬時に俺の隣にやってくるユーカ。
「せ、先輩! あ、あれはオオカミ!」
「そのようだな」
 目の前にはもののけ姫を彷彿とさせる巨大なオオカミが二体いた。
「森の中にオオカミとは、いかにもファンタジーって感じだな」
「とにかく先輩! あのオオカミをやっつけてやりましょうよ! そして今日のお昼はオオカミ鍋ですよ!」
「そんなゲテモノ鍋、俺は食いたかないぞ。それにむやみにオオカミを倒そうとするな。オオカミは森の守り神なんだぞ。日本では絶滅危惧種なんだぞ。人に害成す生物だからといって絶滅させてしまったら生態系が崩れて草食動物が大量発生して森林が消滅して、結局は人間にしっぺ返しが来るってこともあるんだ。だからユーカ。オオカミを虐めるんじゃない」
「な、なにを言うんですか先輩! 童話の中ではオオカミはワルモノでしょう! じゃあ倒すほうがいいじゃないですか!」
「それは人間のただのエゴな考えだ。とにかくユーカ、あのオオカミを倒そうとするな」
 そう俺たちが言い合っている間もオオカミたちはこちらをぎらりと睨んでいる。
「ガルルルルルル!」
 そうして俺たちに牙を剥けて噛みつこうとしてきた。こちらへと飛びかかってくる。
「うぎゃああああああああ!」
 その噛みつこうとしてくる二体のオオカミの鼻を押さえてユーカが俺を守っている。
「せ、先輩! エゴとか言ってないで何とかしてくださいよ! もうこのオオカミぶっとばしちゃっていいですか!」
「待てユーカ、俺の目が黒いうちはそんな乱暴はよせ」
「なんで先輩は今日に限ってそんなに平和主義者になってるんですか!」
「まぁ待てユーカ。今回も俺がなんとかしてやるぜ」
 俺は革袋から一つの果物を取り出した。
「え、先輩それは」
「レモンだ」
「れ、レモンを取り出していったい何をするんですか……。雑誌の表紙にでも載るおつもりですか」
「ユーカ、レモンってのは柑橘類で、酸味の強い果実なんだ」
「たしかに、ここからでもかすかに鼻を突くようなすっぱいにおいを感じますねー」
「それとユーカ、目の前にいるオオカミっていうのは嗅覚がいい生物でな。人間の数百倍も嗅覚が優れているという。そんなオオカミが、こんな鼻を突き抜けるようなにおいを嗅いでしまったらどうなると思う?」
「え、ええとまさか先輩!」
 俺は手にしていたレモンを力の限り握りしめる。ちょうど、向こうのユーカが抑えるオオカミに向かって。
 レモンより果汁が噴出する。それと同時に鼻を突くようなにおいがあたりに放たれる。
「ふぎゃ、なんてきっつい臭い!」
 人間の、一応霊長類のユーカでさえも鼻を背けたくなるようなにおいだ。
 それが数百倍の嗅覚をもつ“オオカミ”が嗅げば……無間地獄だなぁ。
「ガルルルルルル!」
「ガルルルルルル!」
 二体の巨体のオオカミが鼻を押さえて悶えていた。ユーカの手から離れて、そして逃げるように、シッポを巻いて去っていく。
 こうしてオオカミを傷つけることなく俺はオオカミとの戦いに勝利……いや、不戦勝となったのだ。
「さ、さーすが先輩! オオカミをただレモンを絞るだけで倒すなんて! まさにひとひねりって感じでしたね!」
「じゃあユーカ、そんな俺におひねりをくれないか」
「え? おひねりってなんですか?」国語の成績2のユーカには分からなかったようだ。
「つまり金だ。お前を助けた礼金を要求する」
「どこの世界に人助けをしてお金を要求するゲスな主人公がいるんですかぁ!」
「俺は人なんか助けてないぞ。ユーカという地球外生命体を助けたまでだ」
「私は地球外生命体でもサイヤ人でもなーい!」
 まぁとにかく。これで一難去ったわけだ。腹が減ったし、戻るとするか。

 俺は先ほど寄りかかっていた大木へと戻った。
 ユーカは戻っていない。ユーカはさっき出会ったオオカミのことなんか危惧せずまた森の中へと入っていき食料を調達してくるとのこと。
 はたして、ユーカはどんな食料を調達してくるんだろうか。
「せんぱーい! 食料調達してきましたよー」
「おおそうか」
 ユーカの手には白いウサギが握られていた。
 ウサギはまだ息があるようで、さかんにじたばたとしている。
「一つ訊くがユーカ、お前はそのウサギを食べるのか」
「そーですよ先輩! なにか問題でも?」
「いや、人の食べるものにちょっかいを出すものじゃないよな。お前の好きなようにしろ」
「はーい、じゃあウサギを捌きますよ」
 そう言ってユーカはウサギを素手で捌いていく。そう素手で皮をはいで、ピンク色のカラダを露わにして血抜きして……これ以上の描写は控えておこう。
 ユーカは手際の良い動作でウサギを捌いていた。
「ユーカ、お前はそんなふうに、動物を捌いたことがあったのか」
「はい! 私これでもサバイバル生活を経験したことがあるんですからー」
 たしか……ユーカは昔、大台ケ原の樹海で遭難したことがあったみたいで、そのとき1か月間も森の中で過ごしていたという。それ以外にもいろいろサバイバル的な経験があり、ユーカはその過程を経て石器時代の人間もびっくりなサバイバル能力を身に着けて行ったそうな。
 そんな間にもユーカはウサギを捌いている。ウサギはすっかり精肉されている。
「さーて、お肉の処理も終わりましたから、火を付けましょうか!」
 ユーカは薪を集めてきて、それで焚き火をすることに。
「ユーカ、マッチを貸してやろうか」
「いえいえ先輩! 先輩の手は煩わせませんよ!」
 そう言ってユーカは木をこすりあわせそれにより発生する摩擦熱によって火を起こした。おもいっきり原始的な発火方法だ。しかも短時間で火が起きている。こんな凄業ユーカにしかできないだろう。
「じゃー火が尽きましたんでさっそくお肉を焼いていきましょー」
 ユーカは焚き火のまわりに木の枝に突き刺した肉を並べていく。肉は焚き火の炎によってじっくりと焼かれていく。
「う~さ~ぎ~お~い~し~か~の~や~ま~」
 とユーカがウサギの肉を眺めながら歌っていた。その歌詞は決して『ウサギがおいしい』ことを歌っているわけではない。『ウサギ』を『追って』いたという意味なのに、アホのユーカは素知らぬ顔で歌い続けている。
「おお! こんがりおいしく焼けました! さぁ、さっそくいただきましょう先輩!」
「俺も食べるのかよ……」
「先輩もこれから魔女を倒しに行くんでしょう! 体力つけておかないとダメですよ!」
 たしかに体力をつけておかないといけないな。
「じゃあユーカ、肉を一ついただくぞ」
「どうぞお召し上がれ!」
 俺はユーカからもらったウサギの肉をいただく。肉というのは腐ったり寄生虫があったりすることもあるが、この肉は今さっきユーカが捌いた新鮮な肉だ。生で食っても安全だろう。さすがに生で食う勇気はないが。
「いただきまーす」
 俺はウサギの肉にかぶりつく。なかなか蛋白な味だが、やはり塩とかかけてないと味気ないものだ。
 俺はさきほどのレモン汁と、革袋にあった塩を肉に振りかけた。
「ああ先輩! 塩があるなら私にも分けてくださいよ!」
「ほらよ」
 ユーカにも塩をやる。ユーカはウサギの肉をぽいぽいと胃に放り込んでいく。肉食系女子だ。
「ぐふー、食った食ったー」
 ウサギの肉をものの数分で平らげたあとユーカは草地に寝転がる。
「ユーカ、少し休憩した後、北の荒城に向かうぞ。もう北の荒城は目と鼻の先だからな」
「はーい。せんぱーい」
 そんなふうに俺たちはのんびりと昼を過ごした。迫りくる魔女との戦いの前のやすらかなひとときだった。
 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ