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異世界に来たけど戦いません。 作者:カッパ永久寺

北の荒城編

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6.街の人形劇 終幕

 勇者の仲間たちのその後のストーリー(大した話じゃない)ののち、勇者の墓に仲間の魔女が花束を置いて物語はENDとなった。
 勇者が犠牲となり、世界が平和になったという――以外にもバッドエンドなお伽噺であった。子供たちはポカーンと口を開けてステージを眺めている。そのステージからお話し上いなくなったはずの勇者が現れてお辞儀をする。なにはともあれ、子供たちは劇に満足して盛大な拍手を送る。
「うぉおおおおお! 正義のために身を投げうった勇者ウルスラさん! なんてすばらしい人なんだ! ぜひ会ってみたいですよ! サインとか欲しいですよ!」直情的なユーカはこの『ブレイブマンテイル』に感動を覚えたようだ。
「架空の人物に熱を上げてどうする。これはあくまで昔話なんだぞ」
「え、これって“この物語はフィクションです”なの!」
「そりゃそうだろう。よくある言い伝えってやつだ。なんらかの宗教的、政治的、もしくはただ単に娯楽の目的でつくられたものなんだろう。この物語の主人公のようにみなさんまっとうに生きてください――っていう、ただの教訓だろう」
「先輩はいっつも夢をくしゃくしゃにしちゃうようなこと言ってぇ! 少しはあの勇者ウルスラさんに感銘を受けないんですか!」
「俺はあんまり好きになれないな。あの勇者ウルスラってのは」
「で、でもー、先輩って昔は正義の味方を目指していたじゃないですか! 私覚えてるんですよ! 小学3年のころの文集にちゃんと書いてありましたよ!」
「……そんな昔のことは忘れたさ」
 あの事件以前の自分についてはもう決別している。今の俺は、正義の味方なんか目指さない。ただ、成功者になるだけだ。そして自分の身の回りの平和を守るだけだ。
 そういうと、ユーカはいぶかしい顔となる。なにか苦いものでも口にしたような顔だ。
「あ! 先輩! 向こうになんか人だかりがありますよ!」
 ユーカは気持ちを切り替えて、劇を行っていたところの横の屋台へと指さした。
『勇者ウルスラが立ち寄ったと言われるウルスラグナの街!』
『ウルスラグナの街の“ウルスラ”は勇者ウルスラから来ている!?』
『ウルスラグナの街特産品勇者まんじゅう』『勇者パン』『勇者が使っていたと思われる銅の剣』『勇者の木刀【6シェール】』
 ……という、勇者ウルスラにあやかった文句が並んでいる。
 屋台は勇者ウルスラ、もしくはウルスラグナの街にあやかった物品が並ぶお土産屋さんみたいな感じだった。おそらく、さきほどの劇も、勇者ウルスラにあやかって、地元PRのために行われたものなんだろう。なんだろう、元の世界で昨今話題になっていた“町おこし”みたいな雰囲気がするが……。
「先輩! この勇者ウルスラちゃん人形かわいいですよ!」
 ちゃっかりフィギュア化されているし……。勇者が本当に居たのか分からないが、勇者にとっちゃ迷惑な話だろう。
「ユーカ、あんまり無駄遣いするなよ。そんな腹の足しにもならない人形やポスターなんか買うな」
「じゃ、じゃー先輩! この木刀ならいいでしょう! 実用性もあるし!」
 ユーカは“URSULA OF BRAVE MAN”と文字が刻まれた木刀を見せる。
「木刀って……修学旅行じゃあるまいし……。こんなの地元の奈良の土産屋にもあるだろうに」
 しかし今現在ユーカには武器がない。ドラゴン(ファナさん)を倒したときの木刀は駄目になってしまったため、新たな武器が必要だ。というわけで。
「木刀なら買ってもいいぞ」
「やたー! あとこの漫画も買っていいですか! えーと、ぶらべーまん? キン肉マンに出てくる超人の名前?」
「お前はもう少し英語を勉強しろ。ブレイブマン、つまり勇者、勇者の物語の漫画本なんだろう」
「おおお! 先輩! ぜひ買いましょうよ! いっそのこと観賞用と布教用を買いましょうよ!」
「同じ本を3冊も持ってどうする。第一、この漫画本はおそらくさっきの劇と同じ内容のものなんだろう。それなら読む必要はないだろう」
「で、でもー! 勇者と魔王の物語なんですよ! あ! それに勇者と魔王はヒガンノセカイとかいうところに飛ばされたというじゃないですか! これってもしかして私たちがこの世界に飛ばされたことと何か関係が……」
「……なんだと」
 ユーカに指摘されて、俺は思考を開始する。
 あの劇の勇者は……最後にホワイトホールを、そして魔王の方はブラックホールを出していた……これはもしかして、俺たちがこの世界に飛ばされたことと関係があるのか。
 ブラックホール……それが生成されたのなら、別の世界へと行けることができるかもしれない。通常の状態でブラックホールを通れば人体に甚大な影響を及ぼす(というか死ぬ)が、その影響をひとまず無視すれば、とにかく別の世界へと行くことができるんだ。
 勇者、もしくは魔王が開いたワームホールを通って、俺たちはこの世界にやって来たのか?
 ブラックホールなんてものは容易に生成できるものじゃない。CERNがブラックホールの生成実験を行ったとか聞いたことがあるが、実際にブラックホールが生成されたという話はない。ブラックホールはその存在を観測するのも難しいものだ。なにせ、光をも吸い込むものだし。
 そんなものが、例え勇者であろうと、魔王であろうと生成できるものなのか。いや、ブラックホールやホワイトホールと言われているが、それらを直訳すると白と黒の“穴”……俺たちの居た世界で定義されていた、『超新星爆発を起こして収縮してできた高密度で大質量の光をも吸い込む天体』と必ずしも意味が合致するわけではないんだ。この世界には、この世界独自の法則があるのかもしれない。
 軽い気持ちで聞いていた『勇者の物語』が、こうも重大な真実を持っていたとは……。
「ユーカ、アホのお前でもたまには頭が冴えるんだな」
「え! 先輩! がらにもなく私をほめてくれてるんですか! しかも頭が冴えてるなんて!」
「お前の頭の冴えに敬意を示して、この漫画本も買ってやる」
「うぉおおおお! 先輩太っ腹です!」
「それと俺もこの『勇者物語』の小説を買う」
「おおおお! 先輩もこの物語に興味を持ってくれたんですか!」
「ああ。なにせ俺たちのこれからについての指南が書かれているかもしれないからな」
 とりあえず俺は、木刀と、漫画本と、文庫本をまとめて持って行って勘定してもらう。そこそこ値が張ったが背に腹は代えられない。
 俺たちはこの『勇者物語』を理解しなければならない。神話や物語は世界にあらゆる影響を及ぼしていたりする。外国の文学では聖書の考えが前提としてあるように、この世界ではこの『勇者物語』が世界の前提となっているのかもしれない。そういう意味でも、この物語を紐解くことは意味があることだ。
「ユーカ、そろそろ祭りも終る頃だから、もう宿屋に戻るぞ」
「はーい、じゃあ戻りましょうか!」
 宿屋に戻ったらさっそくこの『勇者物語』を精読しよう。今はわらをもつかむ思いで、必死になって元の世界へ戻る方法を模索しなければならないのだから。
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