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異世界に来たけど戦いません。 作者:カッパ永久寺

北の荒城編

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プロローグ:ウラシマ効果

 “おれ”は舟の上にいた。
 遠くに見えるコンクリート造りの港の上には、いつもは年寄りばかりの漁師がたたずんでいるだろうが、今は打って変って、白黒のパトカーと、青い制服の警官。そしてカメラとマイクを手にしたマスコミが押し寄せていた。
 ははっ、俺たち一躍有名人かよ――ッ! と自嘲気味に後ろの誰かが言った。
 俺ともう一人はその言葉に反応しない。言葉を発したヤツもそのあと何も言わない。
 三人全員が意気消沈していた。
 まるで、魂を抜かれたみたいに。もぬけの殻となったみたいに。
 まだ思春期に差し掛かったばかりの若い俺たちは、年老いた老人のようになって、“世界”というものを悲観し、挙句、諦観した。
 舟が港へと着いた。俺たちがゆっくりとコンクリートの地面に足を付けようとしていると、警察とマスコミが駆けつけてくる。
 そんな状況でさえ、俺たちはただぼうっとため息をついていた。
 俺たちは、あまりにも壮絶な経験をしてしまった。それはパンドラの箱を空けたぐらいの壮絶なことだった。
 そして、大切なヒトをなくしてしまったんだ。
 もう、俺たちはこの世界で笑うことは――
「トマルくぅううううううううん!」
 警察とマスコミの間を通り抜けて弾丸のごとく向かってきたのは、あのユーカの姿だった。
 俺はすっかり変わり果ててしまったが、あいつは、全然変わっていなかった。まるで、あいつだけ時間が止まっているみたいだ。
「ユーカ」
「しんぱいしたんですからぁああああああ!」
 俺はこちらに両手を広げて飛び込んできたユーカ――を、横に移動してかわした。
 俺の背後には海がある。
 その海に向かって、ユーカは突っ込んで落ちていった。
 ズボン。犬神家の一族のスケキヨのごとく、頭から沈んでいた。

***

「はっ!」
 という夢を見た。
 いや、夢と言うより回想、過去の記憶のリプレイ映像であった。
 あの忌々しい過去のことを俺は思い出していた。
 ユーカに対してはまだあの過去のことについてははっきりと説明していなかった。説明したところであのアホには理解できないだろう――そう思って封印していた。
 俺もつくづく、“あいつ”のように面倒くさがりなんだなと心で思った。
「しかし……」
 久しぶりに俺はこの世界のことについて考え直すことにした。
 なぜ俺たちがこの世界にやって来たのか。どういう経緯でやってきたのか。
 ある日俺は幼馴染の御剣ユーカに愛の告白(笑)をされて成り行きで3階から落とされて、気づいたら異世界に居た。
 スライムとかゴブリンとか亀とか倒しつつ、成り行きでユーカ捕まって、それを(嫌々ながら)助けて、ドラゴンと戦って現在に至るわけだが。
 どうもしっくりこないのは、この世界に来た経緯だ。3階から落とされてこの世界に――というのはいかにも偶然的な話だ。いや、偶然と言うよりこれはもう天文学的な確率だろう。トンネル効果のような――壁に何回もぶつかればものすごい低確率で壁をすり抜けられてしまう、とかいうみたいな話だろう。
 物事に対してなんでもかんでも必然性を考えるのはよろしくないかもしれないが、しかし、なんらかの“故意”か“悪意”があったと考えた方がしっくりくるものである。
 そして、俺にはそのことについて思い当たる節がある。
 それが、俺が昨夜見た夢の、というか、己の過去についてのことだ。
「リメンバー、パイドパイパー……か」
 俺は目下で嵐が過ぎ去ったような乱れたみだらな状態のベッドで眠るユーカを眺めた。
「せんぱい~おゆるしをお~」謎の寝言をユーカはつぶやいた。
 まったく調子が狂う野郎だ。
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