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異世界に来たけど戦いません。 作者:カッパ永久寺

はじまりの街編

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エピローグ:終わりよければすべて良し

 街に戻った俺たちを迎えたのは祝福のファンファーレだった。
「あなたがトマリギトマル様と、ユーカ様でございますか!」
 と初老の白髪男に言われ、俺たちはこくりとうなずくと。
「あなたたちはこの街を救ってくださった英雄です! ありがとうございます!」
 街の人々がいくらか崩れた街の通りにずらりと並んで俺たちを迎えている。どうやら俺たちの勇姿を見て街の人達は心を打たれたそうだ。
「やっほー! 先輩、私たち一躍有名人ですよ! 雨降って“痔”固まるってやつですか!」
「字が違う。しかし……こうも盛大に祝福されるとは」
 思ってもみなかったことだった。
 それに俺たちは別に祝福されるべきではないのだ。ただ俺たちは自らの正義のために戦った、いや戦わずして勝ったのだけど。といえば聞こえはいいんだけど。

 結局、ファナさんはこの地を去った。兵士たちが騙されて洞窟から出て行ったあと、すっかりへとへととなったファナさんを、俺たちは何とか説き伏せて……
「ファナさん! 生きていたらいいことありますよ! 死んだご両親のためにも生きるべきなんですよ! 生きろ! 生きて罪を償ぇえええええ! がんばれがんばれやれるやれるもっとあつくなれよぉー!」
 などと激励の言葉をユーカがマシンガンのように発したところ、ファナさんは『生きる』ことを選択したそうな。おそらく、色々のゴタゴタとユーカのウザさによって根負けしてその選択を取ったのだろうけど、とにかく生きる道を選ぶのはいいことだ。
 たとえファナさんが何人もの人を食ってきた怪物であろうとも、法律なんかに従って処刑されるべきではないと思う。俺の勝手な考えであるが。
 というわけでファナさんはその後身を潜めて一人で去っていった。俺たちがしばらく付き添いましょうかと言ったところ。
「私は、街には決して戻れませんし……。それに、お二人の旅に水を差すのは悪いですし」
 と言って、ファナさんは一人でこの街を、この地を去ることを決心した。
 シリウスの枷がなくなり、自由の身となったファナさん。どうかこれからの人生は平和に生きてほしいものだ。
「ファナさん、くれぐれもこれからは人を殺めないでくださいね。あなたはまだ自らの意思で人を殺めてはいません。ですから、何があろうと人を傷つけないでください」
「はい……。それだけは絶対に守ります!」
 と言って去っていったそうな。
 いや、最後にもう一言何か言っていたような。たしか。
「お二人とも、いつまでもお幸せに!」
 だったような。

 というわけでファナさんを見送って再び二人だけとなった俺たちだった。そんな俺たちが忘れ物を取りに来る気分で街へ戻って来たところこんな祝福を受けている次第である。
「お二人にこちらを差し上げます!」
 と俺たちの前に差し出されたのは金銀財宝の山であった。輝きで目が開けられないぐらいぎらぎらしている。
「これはどこから持ってきたんですか」
「シリウスの屋敷からです!」
 なるほど。あのシリウスは失脚したのか。なんかちょっとかわいそうな気も……しないか。
「さぁ、トマリギトマル様、ユーカ様、こちらで盛大な祝祭を行いますのでどうぞこちらへ」
「先輩先輩! 盛大な祝祭ってなんでしょうか! おいしいごちそうとかてんこ盛りだったり、盛大なダンスを踊ったり、美しい音楽が奏でられたりぃ! わくわくですよ!」
「そうだな。さぞ素晴らしいだろうが……俺たちには分不相応だな」
「はいぃ?」
 ユーカの疑問顔を押しのけ、俺は人々の前に立つ。そして腹から力を込めて大きな声をあたり中に響かせる。
「皆さん。この金銀財宝も、祝祭も俺たちは受け取れません!」
「な、なぜですか! トマリギトマル様」
「俺たちはさすらいの旅人。どうせこの街から離れる人間だ。この金銀財宝は街の復興支援にでも使ってください。祝祭は俺たち抜きで騒いで結構です。それではみなさんさようなら」
 と言って俺たちは去る。ユーカの腕を無理やり引っ張って。
「せ、先輩いきなりなんですか! せっかくの金銀財宝と祝祭なのに!」
「ユーカ、とにかく顔を隠せ。俺もなんとか見つからないようにする。いいかユーカ、とにかく俺たちはあまり目立っちゃいけないんだよ」
「な、何で目立っちゃいけないんですか!」
「お前は忘れたのか。お前はタートルネック教の禁忌を犯して捕まったんだ。たとえ決闘裁判で無罪となったとしても、タートルネック教は俺たちを狙っているかもしれない。それにこの世界の住人でない俺たちがでしゃばって、変なことにでも巻き込まれたら困るから、できるだけ身を潜めておかなければならないんだ」
「変なことって、どんなことですか?」
「たとえば異端審問で魔女に間違えられるとかかな」
「魔女裁判ですか! そんなの異議あり! ですよ! もう裁判なんてこりごりですよ」
「だろう。じゃあまずは顔を隠して宿屋へ向かおうか」
「へ? 宿屋ですか? 先輩は私を宿屋へ運んで何をおっぱじめようとしているんですか!」
「それはだな」
 俺たちは宿屋に到着。「一泊1シェールですかお泊りになりますか」という機械的な言葉にうなづき、一階のカウンター近くの部屋にたどり着く。
「さぁユーカ」
「ななななななんですか先輩! まさかこれがいわゆる『ゆうべはおたのしみでしたね』という」
「寝るぞ」
 象を背中に背負われたような壮絶なる疲労を、ベッドに身を投げ出して開放する。
 俺たちは疲れすぎていた。そのまま次の日になるまで眠り続けた。

 翌朝。俺たちのもとにカイン率いる兵士たちがやってきた。
「トマリギトマル! そしてミツ……ミツルギユーカ!」
 その声に驚いて掛布団を天井に吹っ飛ばし起き上がるユーカ。
「な、なんですか! まさか私を再逮捕しようとでも言うんですか! もうブタ箱はいやだぁ!」
「……昨日はいろいろあってうやむやになったが、お前の処刑を取り消す」
 お役所仕事ご苦労様である。わざわざ今になってご報告に来てくれたようだ。
「カインさんよ、それよりもファナさんは見つかったんですか?」
「ファナさんは……今はまだ見つかっていない。まさかとは思うがトマリギトマル、お前、ファナさんの行方を知っていたりしないのか?」
「いやいや。こっちが知りたいぐらいですよ」
 今となってはどこにいるかわからないだろうけど。
「お前たちは、どうやら昨日の祝祭を断ったみたいだな」
「ええ。こっちはいろいろあって、あまり人前に顔を出せないんですよ」
「タートルネック教のことか……。まぁ、そんなことはともかく。お前たちに一応報告しておくが、私の家臣……であったシリウス様が処刑されることとなった」
「ほう」まぁ、いままでの罪状を考えれば当然だろうか。
「そしてだな、大臣がなき今、吾輩が代理としてこの街の大臣となったのだ。カール家はシリウス様以外の血縁が皆、ファナさんに喰い殺されているから、とりあえず家来であった吾輩が代理を務めることとなったのだ」
「なるほど」
「このような事件のあとに、大臣となるのは少々複雑な気分だが、吾輩はこの街の復興のため職務を全うしようと思っている」
「そうか……。なら、あんたの元上司のシリウスの豚のようなことにはならないよう、頑張ってくれよ」
「ああ。吾輩も今回の件でいろいろ思い知らされたものだからな。お前にもいろいろ世話になったものだから……。命を懸けて職務を全うしたいと思う」
「そうかい。精々頑張るんだぞ、大臣さん」
 俺はユーカの手を引っ張って外に出ようとする。
「せ、先輩なに急に手をつないでるんですか! こ、これはまさか……合気道の小手返しをやれと言う合図なんですかてやぁー!」
 ユーカは本能的に俺を分投げようとする。しかし俺はくるりと宙で一回転するだけ。
「いいからユーカ行くぞ」
「行くぞってどこに行くんですか!」
「お前にごほうびをやるのを忘れていただろ。ほら、ドラゴンことファナさんと闘っていたとき、この戦いが終わったらごほうびをやろうとかなんとか約束したじゃないか」
「な! 先輩あの約束ちゃんと覚えててくれたんですか!」
「俺は約束を違える男じゃない。とにかく約束は約束だから果たさないとな」
「きゃ、もー先輩! まさかこんなところで『あの』約束をするんですか! みんなが見ているのにー!」
「なにウナギのようににょろにょろ動いているんだ。いいから行くぞユーカ」
「え、場所を変えてですか!」
「ああ。朝飯も食ってないからちょうどいいだろう」
「ワー先輩心の準備がぁ!」

『ドラゴンを倒したらごほうびにキスを……その、あのー……』
 と言うユーカの頼みを叶えるため、俺とユーカが向かったのは一件のこじゃれたレストラン。
 外に設けられた木の椅子とテーブル。のどかな雰囲気をかもし出すそこで俺たちは椅子に向かいあって座っていた。
「もー先輩ったら、こんなところでまさか……き、キスを、きゃー!」
 何故かユーカは顔を赤らめはしゃいでいる。
「ユーカ、なにかお前は勘違いしているようだが……まぁいいか」
 そのまま朝の街の景色を眺めつつ、小鳥のさえずりを数回聞いた後、こちらにウェイトレスの人が白い皿を手にしてやってくる。
「どうぞお召し上がりください」
 とユーカの前に料理の乗った皿が運ばれる。
「えーと先輩これは」
「キスだ」
「えっ!」ぴくん、とわずかに尻を持ち上げて飛び跳ねるユーカ。
「キスと言う名前の魚だ。それをフライにしたものを10尾だ。お前、ごほうびにキスが欲しかったんだろう」
「え、えー、ええええええええ!」
 ユーカは黙ったまま停止していた。
「どうしたユーカ、揚げたてだぞ。食べないなら俺が頂くが」
「ガーツガツガツガツ!」
 ユーカが突然大口を開いてキスのフライをほうばっていく。
「あーもー最初っから最後まで先輩に騙されてばかりですよ! ちくしょー! こうなったらやけ食いですよ!」
「いい食いっぷりじゃないか。それでこそユーカだ」
「おかわり十匹追加だ! 私の胃袋は宇宙だぁああああああ!」
 と。いつものようなユーカとのひと時。
 こいつとは、変わらずこんなふうに日々を過ごしていけばいいんだ。そうだ。
 変わる必要なんてないんだ。変わったらつまらなくなる。
 だから所と場所と世界が変わろうとも俺たちは――

「はっはっはっは」
 突如、俺の背後から怪しげな笑い声が聞こえた。
 その声のする方へ顔を回すと、そこには黒いローブをまとった、怪しい者がいた。
「魔王の復活は、着実に進行している。お前たちは、指をくわえて待っていろ」
「えーと」
 突然のできごとに俺は言葉が詰まる。
 そんな俺に対して、黒づくめの男、いや女か? 性別不明のそいつは、ローブの中から一つの小瓶を取り出す。その小壜を見たとき俺は妙な既視感を覚えた。
「そ、それは……」
 ファナさんが持っていた小壜だ。あのドラゴンに変身する時に用いた薬品の入った小瓶。
「お前が、ファナさんにその小壜を渡していたのか!」
「それをシリウスに渡していたのは別の魔女。私は、決闘の時に、小壜の中身をすり替えただけ」
「決闘のときって……」
 あのとき、俺を殺そうとしたときファナさんが使った小壜――その中身は、あらかじめそこの黒づくめのやつによってすり替えられていたのか。
 それじゃあ、ファナさんがあんなに長い間ドラゴンとなって暴走したのはこの黒づくめのせいであったということなのか。
「どうしてだ。お前はなんの理由でファナさんを……」
「完全なるドラゴンとなったあれを私たち魔女の仲間にしようとした。だが、あのドラゴンメイドは逃げ出した。逃げたならもういい」
 どことなくおぼつかない口調で黒づくめは言う。子供のような口調にも聞こえなくはない。
 しかし、今その黒づくめは魔女とつぶやいたが、魔女とは一体何なんだ? 魔女についてはまだ本で調べていないものだから詳しいことは分からない。
「とにかく、魔王復活をお前たちは指をなめなめして待っていろ。わっはっはっは。わっはっはっは。わー」
 笑い過ぎてのどが痛くなったのか、声が聞こえなくなる。
 そのまま黒づくめの者は後ずさりして去っていった。その後を追っていきたかったが、なんとなく追わないことにした。
 まだ追うべきでない。まだ準備が足りない。
「ぐふー! おなかいっぱいです!」
 こっちの話などまったく耳にせず、ユーカは(きす)を50匹も平らげていた。
「おいユーカ。俺たちはさすらいの旅人なのにこんなに飯を食ってどうする。金はどうするんだよ」
「だ、だってー、腹が減ってはイグサはできぬというじゃないですか!」
「まぁ……。なんでも言うことを聞くと言ったから仕方ないか。今日だけだぞ」
「わーい、じゃああと50匹追加で!」
 こいつはいつか世界中の水産資源を食い尽くす悪魔となるかもしれない。とんでもないやつだ。ほんとうに規格外のやつだ。
「あ、そうだ! 私ばっかりごほうびもらってちゃ悪いですから私から先輩にごほうびを上げますよ」
「なんだユーカ。お前がなにかごほうびをくれるのか」
「先輩こそ今回の戦いの功労者ですからねぎらわないと!」
「そうか。じゃあどんなことをしてくれるんだ?」
「先輩、じっとしといてください」
 そういうと、ユーカはテーブルに身を乗り出してこちらに近づく。
 そして、俺のほおに口を付けた。
「キス……です。な、なーんちゃって!」
 と笑みを浮かべておちゃらけた調子でユーカは言った。
「……油っぽいぞ」
 俺はハンカチでその頬をぬぐった。
 なぜか、その俺の頬は火照って熱くなっていた。
まだまだつづきます。
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