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異世界に来たけど戦いません。 作者:カッパ永久寺

はじまりの街編

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9.大臣シリウス

 というわけで大臣の屋敷の前まで着いた。
「ここです、トマルさん」
 とファナさんが言った。ファナさんは俺のことを『トマルさん』と呼んでいるようだ。シスターさんらしく質素で礼儀正しい。どこかの野蛮人後輩とは天と地の差だ。
「ブェェェェエエエエエクションッ――――!」
 彼方からドラゴンの咆哮のようなくしゃみが聞こえたような気がするが、ユーカのくしゃみのような気がするが、無視しよう。
「ここにあなたの義父でありこの街の大臣であるところの『シリウス・カール』氏がいるんですね」
「はい。今の時間なら義父は家にいると思います」
 中世の時代の司法というのは厳密なものではなく、下手すれば法律さえも確立していない無法状態だ。それにならってかはわからないが、こちらの世界の司法も大雑把なモノだそうだ。
 どうやら、街の司法行政立法は大体全部大臣たるシリウスが執り行っているみたいだ。
 まさに独裁政治。
 そんなやつがユーカの処刑を決めたんだ。なんだろう。顔を見るまでもなく、そのシリウスと言うやつが憎らしいやつと想像できてしまう。
 そんなシリウスがどういういきさつで目の前の純情可憐なファナさんを養女にしたかいささか謎だけど。
「どうぞおあがりください」
 赤いじゅうたんの敷かれた屋敷の廊下を歩いていく。無駄に豪華そうなツボなどの器物がぽつぽつ廊下のわきに並んでいる。なんだか退屈な家だ。
 突き当りの大きなドアの前に立つ。ファナさんが前に向かって扉を開けて俺を通す。
 中は大臣の部屋らしく、アンティークな書斎。部屋の奥に大臣らしき、“ヒゲを生やしたブタ”のような人間がデスクの前に座っていた。灰色の髪と脂ののった肌の中年の豚っぽい男だ。
「おいブタ。いや間違えたイベリコブタいや間違えたデブゴブリン」
 俺の言葉を聞いてなぜかきょとんとしたブタ顔を見せる大臣。
「あ、確かシリウス・カールとかいう名前だったな」
「なんなんだ貴様はッ!」
 怒鳴り声をあげるシリウス豚。大臣の様子を見て慌てて駆けてくるファナさん。
「シリウス様! 落ち着いてください!」
「ふぁ、ファナか! いったいこの無礼者はなんなんだ!」
「この人はですね、トマリギトマルさんと言う人で、シリウス様に御用があるそうなんですよ」
「そうだ。私トマリギトマルは大臣たる“シリウス・カール様”に用があって参った」
「用とはなんだ! 私は忙しい身なんだぞ!」
「大臣たるあなたに申しあげます。私は、御剣ユーカの判決を撤回するため『決闘裁判』を申し込みたいと思っているのであります」
「決闘裁判だとぉ!」
「ええ。最終的に御剣ユーカの処刑を決めたのは大臣であるあなたでしょう? それに対し私は異議を申し立てたいんです」
「異議だと。大臣たる私に盾突くつもりか!」
「大臣も人間ですよ。人間平等、天は人の上に人を作らず。誰でも、裁判を受ける権利はあるんですから」
「こやつ! 勝手なことほざきおって!」
 大臣は立ち上がりこちらにづかづかと近寄る。
「大臣、聡明な判断をお願いしますよ。こちらに、決闘裁判の書類がございます。印鑑をお願いします」
「こ、この野郎! そんなひょろひょろの身体のヤツが何が決闘裁判だ! わ、私はな! こう見えても、昔は騎士だったんだぞ! お前なんかこの小刀一本で斃してくれるわ!」
 大臣は懐から30センチほどの小さなナイフを取出し、それを両手でしっかり持ちこちらに突っ込んできた。
「俺は戦わないぞ」
 まさに猪突猛進でやってきた大臣を横っ飛びしてかわした。大臣は俺の横を通り抜け、途中バランスを崩す。そこですかさず、
「あ、絨毯がしわ寄っているぞ」
 俺は大臣の立つ絨毯を思いっきり引っ張った。
 すると大臣は絨毯につられてずるっと地面に倒れた。
「し、シリウス様!」シリウスは床に顔面を打ち鼻が赤くなっていた。
「こ、小僧……ふざけた真似をしやがって!」
「もう一回こけたいか? お前が攻撃してくるなら何度でも『自衛』するぞ」
 俺は大臣の前に立ち凄みを付けて睨んだ。
「こ、こいつ……」
「こっちは正式な手筈を踏んで申し込んでいるんだ。それを跳ね除けたら、困るのは大臣あなたの方ですよ。あなたの信用問題になるんですよ」
「ぐぬぬ……」
「さぁ、早くこちらに印鑑を押してください」
 俺は書類を突き出す。
 大臣は頭を抱えつつしばらくあたりを周っていた。あーでもないこーでもないと思案し尽くしたあと、こちらにやってきて、脂汗たぎらせて言う。
「いいだろう……。お前の言う決闘裁判を受けて立とうではないか!
 ただし――決闘を受けるのは、私ではなく、私の家来7人が私の代わりとなって受けてもらう。家来7人に勝てたら、お前の言う御剣ユーカの処刑の撤回を受理してやろう」
「さすが大臣、聡明な判断痛み入ります」
「決闘裁判は――そうだな、この際、盛大に行おうではないか。街の中央にある“闘技場”にて、観客を呼んで行おうではないか」
 なるほど。この決闘裁判を見世物にするとは。さすが大臣、ビジネスライクだ。こういう考え方嫌いじゃないぜ。
「何はともあれ、決闘ができるなら喜んで受けましょう」
「決闘は御剣ユーカの処刑の1日前に行う。それまでにせいぜい家族に別れの言葉でも告げておくんだな。なんてったって私の家来は強者揃いだからなぁ!」
「あいにく両親は他界しているんでね。それに、俺は負ける訳がない」
「その自信が命取りになるんだ。覚悟しろよ」
「そちらこそ、しっぽを巻いて逃げないように」
 こうして決闘の手筈は済んだ。
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