第四章:日常的会話
「ではでは華神ちゃん、どこ行きますか?」
フレイルはコンクリートの道を歩きながら、のんびりとした口調で言った。
ここは商店街で、本屋や八百屋など、さまざまな店が建ち並んでいる。
「ちゃん、って……。まぁ、そうだな。雑貨屋に行きたいな」
華美川華神は、お嬢様である。
ゆえに、庶民がどんな生活をしているか、等の事はあまり分からないらしい。
それで雑貨屋か、とフレイルは勝手に結論付けた。
フレイルは携帯電話のナビ機能のスイッチを入れ、
「雑貨屋は……、と言うより、百均でいいですか?」
フレイルの口から自然に出た言葉だが、華美川は首をかしげ、
「ひゃっきん………? 何だ、それは」
と質問した。
「百円均一です。まあ、売っている物が大体百円で買えるお店ですね……税抜きで」
「ふむ。となると、ほとんどが百五円で購入可能である雑貨店、で良いんだな?」
はいはいー、とフレイルはうなずく。
「まずどーします? 的当な場所……、あら?」
フレイルは人差し指で自分の唇に触れ、首を傾げる。
華神がいない。
迷子にでもなったのか、と思い、きょろきょろと辺りを見回す。
思ったより、早く見つかった。
華神が見ていたのは、調理器具や歯ブラシ等の生活雑貨のコーナーだ。何を見ているのかは分からないが、初めて見る物のようで、その目には輝きと疑惑がある。
「そこの赤魔術師!」
「はいはい。と言うより、式神ですよー」
華神がフレイルを呼び、それに答えてフレイルは華神に近づき、華神が見ているものを確認する。
「これ、何だ? なんかこの硬い毛がいっぱい生えてるやつ」
「ははあ、タワシですね。亀の子タワシ」
まだ絶滅していなかったのか、とフレイルが一人で感心する。
現在メジャーなのは、特殊繊維で作られているスポンジである。繊維が非常に細かく、さらに硬さも十分なので、汚れを取りやすい。さらに殺菌効果がある液体が別売りされており、それに一定時間浸けておけば一ヶ月は殺菌効果が持続すると言うすばらしいものだ。
しかし、薬品に浸けるために、直接素手で触ると手荒れがひどいし、値段的にもいくらか高い。その分では、このようなタワシ等のほうがいいのだろう。
「……ふぅん。貧乏人は苦労してるんだな。これで汚れを擦るんだろう?」
「はいはい。……出来れば一般人といって欲しいのですが」
華神は、大金持ちの家に生まれたから、自分の贅沢な暮らしを『常識』としてとらえているのだろう。ゆえに、先程の発言に嫌味っぽさは感じなかった。
「……む! あれは何だ?」
華神はそう言って、高速で別のコーナーにすっ飛んでいった。
「ちょっと、はぐれないで下さいよー?」
フレイルが注意するが、その口調はのんきなものだった。
「もっと速く! もっと速くッ!」
白羽瑠璃は、そんな事を叫びながら白き翼で大空を滑空していた。
相当な速度が出ているが、簡単なバリアを張っているので、風圧の影響はあまり受けない。
現在、白羽瑠璃は白き翼の特訓中である。
「もっと速く飛ぶことが出来れば………」
と言っても、その動機となっているものは、
「今までより十分間……、いえ、三十分間は長く寝ていられるッ!」
下らなく、なおかつ不純なものなのだが。
ちなみに、彼女の家は学校からそれほど離れていない。むしろ、他の生徒と比べて近いほうだ。
それでもなお、睡眠時間を求める理由は謎だが。
ズバン! と言う騒々しい音と共に、移動方向を逆向きにして無理矢理止まった彼女は、ズボンのポケットからストップウォッチを取り出す。
「1分で25キロメートル……、まだまだぁ!」
音速を超えた速度で移動できれば十分だと思うが、それでも彼女は満足できないらしい。
威勢のいい叫び声と、空を裂く音が、いつまでも続いていた。
「ベルゼブブ様ー。はやくご飯下さいよ」
「チげぇっつッテんだロが! っテか、黙っテろ病人!」
暗闇の中で、そんな会話が聞こえた。
目を凝らすと、闇の中には人影が二つあった。
一方はベッドに横になっていて、もう一方は横になっている人影に向かって吼えている。
「しかしアレですね。魔王がピンクエプロン着けて料理と言うのもなかなか……」
「……黙レよアスタロト。サもナくバその頭もぐゾコラ」
「分かりましたよ、堺キュン」
「キュン言うナ!」
ごとん、と言う音が聞こえ、一瞬だけ場が沈黙する。
「ホラよ。カレーでも食っトけ」
堺の声を聞き、アスタロトが体を起こす。
「えー、出来れば『バハムートの切り身バター炒め』が良かったんですが……」
「アンなでかイ魚狩れルか! っつカ、アレは狩猟禁止ダろうが!」
怒る堺の声に対して、アスタロトはけらけらと笑っている。
「全く、そモソも何で俺ガお前ノ飯ヲ作らナキゃならないんダ?」
「まずいです」
「質問に答えロやコラぁ!」
暗闇に怒号が響いた。 |