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密偵者〜スパイゾーン〜
作:界牢 天



     第十章:暗い部屋の中で


 暗い部屋の中、かたかたとパソコンのキーボードを叩く音が聞こえる。
 数秒その音が続き、かたり、とエンターキーを押す音が聞こえ、画面に文字が現れる。
『天使養成学校の様子 初日についての報告を開始します』
 画面の光に照らされてながら、村川は再度エンターキーを押す。画面の文字が消え、文章が相手に直接送信される。その数秒後、『了解』の文字が赤い文字で表示される。その送信者は、密偵養成学校スパイエリア校長、安部晋三あべしんぞうである。
 村川はキーボードを叩き続ける。
『調査の結果、学校には九つの階級が存在し、下位、中位、上位それぞれ三隊あり、下位が生徒、中位が卒業生、上位が教師となり、位が高ければ高いほど能力も高い模様。
 この学校は本物の天使を造っている訳ではなく、いわゆる模造品を育てている。模造品の能力は本物には及ばないが相当な実力である。また、模造品の中に本物の天使が宿る事もあるらしいです』
『クラスメイトとは仲良くなれそうかい?』
 こちらはまじめにやっているのに、向こうの返信はこんな具合だ。
『………まあまあです』
『ばれていないだろうね?』
 その文字に、村川の動きが一瞬止まる。
『心配は要りません』
 数秒後、返信が来る。
『そうかい。ところで、君の「密偵者スパイゾーン」の事だけど、あれの事が少し分かったんだ。
 今まで理論上可能だったけど行く事ができなかった領域、それが密偵者スパイゾーン
 それを発動すれば、設定された行動を使用者の意思とは関係なしにする。殺す事もためらわない。発動中も使用者の意識はあり、中止することも出来る。…まあ、意図的に切り替えることが出来る多重人格ってところかな?
 んで、何でか知らないけど、そこに君が入り込むことが出来た。これは奇跡かな? 才能かな?
 ちなみに設定可能な行動はただいま調査中ってところだね』
 しばらく文章を眺めてから、キーボードを叩き始める。
『了解しました。有り難うございます。ではこの辺で失礼します』
 エンターキーを押し、返信を待たずに回線を切る。

「どうするかな………」
 村川は一人、悩んでいた。悩みの種は、青咲氷芽あおさきひめについてだ。
 熾天使セラフと言うのは、天使の中で一番上の階級だが…どうも階級の事を言ってるようには思えなかった。
 天使アンゲロイのクラスに熾天使セラフがいるとは思えない。
 つまり、
 青咲氷芽は、本物の天使・・・・・を宿している可能性が高い。
 しかし、仮にそうだとしても、神に似たものミカエルは最強の天使で、妨げる者サタンを倒した話を聞いたのだが、青咲の言葉とこの情報が真実ならば、貴重どころの騒ぎではない。
 だが、問題はそこではない。
 書置きに書かれていた、あの言葉。

『皆には内緒にして下さい。また、私も内緒にします』

 村川が内緒にする内容は熾天使セラフの事だろうが、青咲が内緒にする内容は恐らく、「村川正一はスパイだ・・・・・・・・という事か?」
 可能性は十二分にある。というか、そうである確率の方が高い。密偵者スパイゾーンを発動した時、周囲からは平凡な風景しか見えないようにしてあるし、そこに行こうとも思わなくさせるようにする術式を使っている。しかし、青咲には自分に向けられた術式を打ち消す効果がある。この術式は周囲の生物全体に対して放たれるので、例外ではないだろう。
 だとすれば、
 考えられる事は一つ。
 口封じ。
 死人に口無し。
 つまり、

 青咲氷芽を、殺す。

 しかし問題がいくつもある。
 信頼させる術式があっても、転校してきた次の日に殺されたら、流石に誰かが不審に思うだろう。しかし、しばらくしてから殺すにしても、その前に言われたら話しにならない。
 それに、何故かは知らないが、青咲氷芽を殺したくない。
 理由は分からない。ただ、『殺そう』と思うと、何故か、よく分からない感情に包まれる。暖かくもなく、冷たくもない、何か。
「さて、と。どうしようかなぁ………」
 後頭部を掻き、ベットに横になる。
 そして、眠りに落ちていく。












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