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基本はコメディーです。
四十七丁目 異界の魔法
「さてみなさん・・・・・・」


ごたごたが収まってきたところで、三丁目達は朝日香の村を発つことに決めた。現在三丁目と神海、赤坂さん、それに朝日香、ライカを含めた5人はそれに向けての作戦会議とでも言おうか、リビングの丸テーブルを囲っている。そんな中、何故か一番元気な神海杏奈がここぞとばかりに切り出した。


「これから新女王とやらを倒しに行くわけですが・・・。ってちょっと聞いてんの!?」


「聞くからそれ向けんな、おのれは暴力にしか訴えられんのか」


憮然として言い放つ三丁目、なに、自分に非はないのだ。それどころか顔面を一回りも二回りも腫らした自分にとってここは是が非でもデモクラティックにいかせてもらおう。帝国主義にはもはやうんざりなのである。とまあ凄み、神海の突き刺すような視線をはっしと受け止めていた。のだが・・・・・・。


「ふふふ、ごめんね? 暴力にしか訴えられなくて。まあ訴えるんだけど」


「・・・・・・」


ガチャリと迷いのない指使いで取っ手を握る音がしたので、三丁目はあっさりデモクラティックを断念した。


「・・・・・・一ついいですか?」


「なによ?」


「お前じゃねぇ、だからどけろっつの」


神海のパラソルを押しのけて、三丁目は向かいに腰掛けるライカの方へ視線を飛ばした。


「ホーラウのじいさんが神海の魔法? ていうか傘を見たときえらく動揺してましたよね? 珍しいんですか? こういうタイプのは」


ライカは三丁目の問いにしばし思考を巡らせていたが、隣りに座る朝日香と顔を見合わせて頷いた後、こくりと首を縦に振った。


「そうですね。私もなにぶん、こんな田舎の生まれですから、あまりよくはわかりませんが、神海さんのような物質を取り出す魔法は初めて見ました。ほら、我々の魔法、例えばアスカの『魅了』や私の『笑激』は直接発動するものでしょう?」


ライカはお茶をすすり、言葉を区切ると、さらにこう続けた。


「ですが帝都の軍人の方が驚いていたということは、やはりそうそうないものなのかと・・・・・・」


「そういうものですか」


「てかそれがどうしたのよ」


神海が割り込んできた。面倒くさかったが、しかし言っておいたほうがいいかもしれない。


「あまり意味無いかもしれないけど、今後俺と赤坂さんの魔法の参考にだよ。お前と同じ異世界人の俺等が何出すのかある程度予想しておければいいだろ。ああ、それと神海」


「なに?」


「お前さ、なんか傘に思い入れでもあるのか?」


「はぁ? そんなん知らないわ・・・よ・・・。 あ」


珍しい事である。神海の顔が病人のようにみるみるうちに青ざめていく。


「・・・なんかあるのか?」


「な!なんにもないわよっ!!!やぁねぇ・・・あはははは・・・・・・」


何かあるんだな。まあ、といってもそんな神海でさえ恐れるエピソードなど聞きたいはずも無く、大事なのは、どうやら俺達の魔法は過去のトラウマないし、思い出などに傾倒するようだ。・・・・・・だとすれば


「な、なんでしょう?」


赤坂さんが若干上ずった声で三丁目から目を逸らした。目を泳がせ、冷や汗を一筋垂らしていることから、ある程度自分で気づいたのかもしれない。
・・・・・・さすがに不憫なので何も言わなかったが。
しかしだとすれば自分は何が出るのだろうか。トラウマならだれにも負けない自信があるが、まさか生きものは出まい。出るとするならばウチのアホどもが真っ先に飛び出してくるだろう。


「ってそういえばそのアホどもと戦わなくちゃダメなのか・・・」


対策を練るに当たり、これほどわかりやすい人間達はいない


「なぁ、神海、フライパンって・・・」

「やめてお姉ちゃん・・・! ダメよ、パラソルはビーチに挿すものでしょ・・・ああ! ごめんなさいごめんなさい・・・あ!!! 避けてーー! 危なーーーい!!!!」


「・・・・・・」


なんだか封印していたらしい心の扉が開いてしまったみたいなので、頭を抱えてブツブツとやりだした哀れな神海はそっとしておくことにした。


「・・・・・・ライカさん、これ以上じっとしてるとまた誰かの古傷に塩練りこむ事になりそうなので、俺達もう行きます」

「そ、そうですね・・・・・・」


三丁目がライカにいろいろと礼を述べたあと、いまだ立ち直れない神海を赤坂さんがいたわりつつ、三丁目達は家を立ち去ろうとした。


「あ、待ってください」

ライカが三丁目達を引き止め、パタパタとキッチンに消える。
5分くらいすると戻ってきて、両の手で収まりそうな大きさの小包を三丁目に手渡した。


「これをどうぞ」


「これは・・・・・・」


しゅるしゅると包みを解くと。中には四つの箱が入っていた。


「お弁当です。旅先でお召し上がりください」


にっこりと微笑みながら手を握られたので、渡されるがままに渡され緊張でぼーっとしていたが、はたと気づいてライカに尋ねる。


「四つって・・・」


三丁目が包みを持って立ち尽くしていると、何かが三丁目の脇を吹き抜ける風のように通っていった。
それは軽やかに外へ飛び出し、さくさく草を踏みながら三丁目を振り返る。


「私も行きますからね。当然です。三丁目さんたちをこの世界に呼んだのは私ですから」


穏やかな微笑をたたえて小首を傾げる、朝日香がいた。


「いや、ありがたいけど、いいの?」


「はい、それに三丁目さん達だけじゃ道とかこの世界のルールとかがわからないでしょう?」


いたづらっぽく舌をちょこっと出し、三丁目によろしくお願いします、と頭を下げると、朝日香は赤坂さん達を追いかけて有無を言わさず行ってしまった。


「妹のこと、どうぞよろしくお願いします」


今度はライカにまで深々と頭を下げられ、三丁目は何も言えなくなってしまう。


「うーん・・・」


ポリポリと頭を掻く三丁目。


「ま、いいか・・・。とりあえず服だな・・・」


ぼろぼろになったワイシャツを引っ張り、なんとなくため息を一つつくと、三丁目はだらだらと三人のあとを追いかけた。






―――――――――

―――――







一方そのころ・・・・・・。


「ホーラウがやられたらしいな」


「ええ、それもまだ年端のゆかない子どもたちにね」


「情けないですねぇ…。まあ彼ももう年ですからね。仕方ないですよ」


ここは三丁目たちがいる村からはるか南、帝都。新女王アニムスが統治する巨大都市である。その都市は楕円形の形に広がっており、西は工業地区、東は商業地区となっている。ただ女王の管制の下厳密なる審議により職業活動が行われるため、自由という言葉とは程遠い、秩序と節制、言い換えれば貴族に有利な悪法が罷り通る都市なのである。

さて、その帝都の中央に位置する女王アニムスの巨城にて、三人の豪傑が集っていた


「けっ、何が四天魔だ。調子に乗りやがって」


「アマト、そういうことは思っていても口に出すものではないわ。あの四人の強さは身をもって理解したでしょう?」


「……わぁってるよ」


アマトと呼ばれた男は乱雑に置かれた木箱を足で小突き、どかっ、と腰を下ろした


「パル、先程から何を読んでいるのですか?」


壁によりかかり、埃に咳込みながら若い青年が尋ねた。暗い石造りの狭い部屋、ベッドやその他諸々の家具などと言う気の利いたものは一切なく、端から見れば牢屋のようであった。ただ、鉄格子、牢番、クサい飯の三点セットが揃っていないことから牢屋では無いと判断できる。彼等三人はどうやら何らかの意図をもって集まったようだ。


「この本のタイトルは『異界からの戦士』、そうね、どこにでもあるような英雄賛美よ」


二人の男に対して、一人、円熟した美女が片かけの眼鏡―モノクルを外しながら、ちょうど片手にすっぽりおさまりそうなサイズの本を青年に投げた


「…………。……つまらないですね、何の興味も湧きません」

目をすぼめてパラパラとめくったのち、青年は本を投げ返す


「私だって何も趣味で読んでいるわけではないわ。何かヒントが得られれば、と思ってね」


カツ…カツ…、とハイヒールの高い音を響かせ、暗がりから女の全容がだんだんとあらわになってくる。
女は薄い桃色の髪をひっつめ、装いに関して言えば、果実のように膨らんだ胸が大きく開いたドレスの胸元を持ち上げ、膝上20センチという際どいスカートをはいている。これだけ見れば夜街の売り子か、はたまた劇場の踊り子かと見紛うこともあろうが、どことなく落ち着いた雰囲気を兼ね備えているために、聖職者のようなオーラをも放っていた。


「んなこたどうだっていい、なんで俺達を呼んだ?」


飢えた獣のような眼光で女、パルを睨み、膝の上で頬杖をつく。よく見ればアマトと呼ばれたこの男、全身をプロテクターのように動物の皮でコーティングしている。物語から抜け出た野蛮人のような恰好に酷似していた。


「そのことなんだけど」


パルは本をぱたんと閉じ、アマトのように木箱の上に腰掛けた。足を組み、二人の男に目を配る


「アマト、キィラ、ホーラウ。そして私、パル。この四人がいわゆる“元”四天魔」


「ホーラウのジジイは“現”四天魔の力に恐れてこびへつらってるがな、へっ、さすがはカラス。よく頭が回ることだ」


アマトが肩をすくめて皮肉ると、キィラと呼ばれた青年も同調した

「ホーラウさまは所詮老兵ですよ。風を起こすしか脳の無い過去の遺物」

抑揚の無い声で淡々と吐き捨てる。彼の興味のほどが知れる一言である。だがパルはそんな愚痴にも似た嘲りなど意にも止めず。足を組み直すと真顔になった


「今はそんなことを言ってるんじゃないの」

パルは立ち上がり、小窓まで歩いていった。

「ではやはり対策を練れたのですね?」


キィラがパルを目で追いながら呟く。キィラの縁無しの眼鏡が沈みかけた夕日に反射し、彼の表情を隠した。口は結ばれているが、その目に宿る感情は読み取れない


「彼等の魔法、実力を確かめる際に確認したわよね」


「ああ、見たことのない力だったな。なんというか、こう、長い棒と、こんな形した帽子」


アマトが両手でジェスチャーすると、パルが振り返り説明する


「シルクハット、ステッキ、と言ってたわ。おそらく『あちら』の物ね」


「……異世界、ですか」


パルはこくりと頷く


「物質を呼び出す魔法?そんなん聞いたことねぇぞ」

アマトが訝ると、パルは再び頷いた

「そうね。私達の魔法は物質を媒体としない。私の『搾取』も、アマトの『双神』も、キィラの『封城』も」

パルは腰に手を当て首をもたげると、さらに続けた。


「だからって私達の魔法が弱いということは無い、それに私達の目的は打倒四天魔なり異世界人じゃない……」


「奪還、することだろ?」


アマトがにやりと微笑む。


「この国を…女王、アニムスから、ね」


キィラがそれに合わせて眼鏡の位置を直した。


「……それがわかってればいいのよ。集まってもらったのは目的の再確認のため、対策は悪いけど決定的には決まっていないの。とりあえず目立つ行動は控えてちょうだい。……特にアマト」


「チッ、わかったよ」


ぶすっとしながらアマトがそっぽを向くのを見た後、パルは肘をかけて窓の外を眺めた。空にはもう夜の帳が下りていて、わずかな夕日をバックに真っ赤に染まる雲がぽつぽつと見える。
  今日は月の見えない夜になりそうだ。
  だが、もうすぐだ。もうすぐこんなちっぽけな窓からでは無く、あのときと同じ、晴れ渡った空に浮かぶ大きな月を見ることができる。
  パルはゆっくりと目を瞑った。そして2,3言何かつぶやいた後、三人連れ立って部屋を出た。


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