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  有明の月 作者:小波
第七十八話
「多子は果報者ですな。あなたのような方が養父となり、さらに入内とは。多子が妃となること間違いなしですなあ!」                              
 養女のことを思った頼長の顔が悲痛のため少し翳ったが、彼はそれを内側から照らすかのようにしてほほえんだ。桃花のような匂いたつ白さに、公能は目を奪われた。
「油断はいけません、わが義兄(あに)よ。摂政様は老練なお方。対抗策をもって臨んでくるのは目に見えております」                                   
 公能は肩をすくめ、頼長の腰に手をまわした。上等な香の匂いが頼長の鼻をかすめた。
「左大臣様が薨られたという話し、ご存知ですね?」
 公能の声は聞きとれないほど低かった。
 花園左大臣―――知っている。濃紫色の直衣から垣間見えたなよやかな手。年齢を感じさせない化粧がほどこされた顔。なんと高貴な姿態であったことか。そして哀愁の横顔!新院と同じ、哀しみの清らかさ・・・
「大臣は花園殿とあなたの二人だけ。花園殿が亡くなられた今、左大臣に昇る資格があるのはあなたしかおりません。そうでしょう?」
 頼長は夢からさめたように公能を見た。首を少し傾げ義兄を見上げた。彼の提言に驚いているわけではなかった。
義弟おとうとよ―――婿殿。あなたがすべてなのですよ。善きに計らってくださいますよう―――」


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