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  有明の月 作者:小波
第七十七話
「父君」
 義兄に先に車に乗るよう言うと、頼長は引き返し忠実の前まで戻ってきた。
「父君。私がしようとしていることは、またしても、兄君を苦しめることになるのですね?」
 忠実は無言であった。肯定していることは明らかだった。彼は頼長の肩を両手で掴んだ。
「なにを昔のことで思い悩んでおるのか。摂政との父子の約など忘れてしまえ。おまえにはなさねばならぬことがあろうが」
 忠実は声を沈めて続けた。
「不義の子がっ。白河院の―――!あのような者に家を奪われるわけにはいかぬのだっ」
 頼長は肩を震わせた。
「兄君が・・・わ、私は・・・兄君を・・・」
「頼長よ!わしの期待を裏切るでないぞ。あやつは兄などではない。義理よりも大義を見るのだ」
 頼長は目を見開き、また伏せると、一礼し牛車に乗り込んでいった。
 忠実は嘆息した。
 頼長の明達さには目を瞠るものがある。だが、なぜああなのだ。情に左右される状況判断、利己的で協調というものを知らぬ性格。貴賤をことのほか気にかけ、理想の追求にかけては恐ろしいほどに貪欲であった。
 若さゆえか。それとも、所詮は賤しい女の腹の出ということか―――。
 少なくとも忠通は情に対して客観的だ。そして、したたかな為政者であった。経験のなさ以外に、忠通にはあり頼長にはないものが確実に存在していた。
「頼長よ。おまえはなんと、おまえの祖父に似ていることであろう」


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