第六十四話
大炊御門の邸の門を叩くと、一人の男が清盛を迎えた。
身なりからして家司ではなく家人であろう。太刀を佩いているのを見ると武士だとわかる。
清盛は目を眇めて男を見た。
清盛よりも背は高いが年はずっと下だ。
その男の後について庭をよこぎりながら、清盛は父が言ったことを思いかえしていた。
内大臣。
噂でなら知っている。
父・忠実の偏愛により兄である摂政をも凌駕する速さで昇進し、わずか十七歳の時に史上最年少で内大臣に就任。明敏犀利で学において彼の右に出る者はおそらくいないであろう。
そして、その辛苦を知らぬ生い立ちゆえか、意に添わぬ者はなんの躊躇もなく屠る残忍な性格の持ち主。
そう。
私刑。
公が認めようとも内大臣様は認めぬというわけだ。
蒼々《そうそう》とした菖蒲の叢。
その向こうに佇む人影は、濡れているようであった。
ほとんど白に近い薄紫の直衣はまばゆい光沢を放ち、目を射ぬくような蘇芳色の袷が、袖がひるがえるたびにちらちらと見えた。
顔は白いというより青白く、唇が異様に紅かった。
この頼長という人物、白昼の燃えている空間にあって雪を思わせる。
近づくにつれて顔の細部まで見て取れた。
古人たちが求めてきた美がすべて集結されたかのようだ。
特に、くっきりとしているがけして濃くはない眉の非人間的彎曲の美。
―――はて
清盛は首を傾げた。
すべてが完璧だというのに、何かがひっかかる。
彼の美は誰かの意思のもとにある、と清盛は直感したのだ。
庭園とりわけ観賞用の植物に、手塩にかけた者の嗜好が現れるように。
頼長は目を閉じ、首を少し右に傾けた。
年にふつりあいな笑みの深さに、清盛はぞくりとした。
「あんたみたいに育ちのいいヤツは、俺たちを嫌っているだろう?」
「たしかに気に食うものではないな。ところで、おまえもあまり心にないことは言わぬほうがよいぞ」
頼長は無表情に言った。
清盛は肩をすくめて見せた。
たしかに、こいつは尋常じゃあない。庭に死体が埋まっていても、その横でゆっくりとくつろぎながら歌でも詠みそうなヤツだ。だいたい、なぜ俺を邸に招き入れる?殺すならもっとそれらしい方法があるだろうに。
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