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  有明の月 作者:小波
第六十三話
 外はまったく白いと形容してもよかった。
 陽は真上から照りつけ、頼長の項を焦がすほどだ。
 彼はちらりとあたりに目をやり、成佐の姿を探した。
「内府様」
 令明の死以来、声を聞くことも話しをすることも、いや、顔を合わすことさえなかったので、頼長は彼とこうして向かい合っているこの時が、至極かけがえのないものに思えた。
 しかし、成佐の顔には従来の気さくな表情はなかった。
「学兄」
「もうやめたらどうだ?頼長」
「学兄・・・」
「裁断をくだすのは法皇だ。刑を執行するのは検非違使だ。なぜ、おまえがやる?おまえの善とは何なのだ。俺はおまえがわからない」
「・・・」
 頼長は成佐を見た。
 しっかりと、その顔に広がる苦渋を、いや苛立ちを―――。
「私は善など知りません。善は悪であり悪は善であるのです。私は規律を乱す者が許せぬのです」
 成佐は頼長をあざ笑うかのような声を出した。それは狂気じみていた。
「おまえが善悪を説くのか、この俺に?規律だと?よくもそんなことが!」
 成佐は叫んだ。
 頼長は半歩後ずさった。
 ―――学兄、学兄!どうしてしまわれたのだ
「なぜ、そんな顔をする。何も知らぬ子どもでもあるまいに!」
 成佐は吐き捨てるように言った。
「私は、自分が間違っているとは思わない」
「ああっ!」
 成佐は嘆嗟の叫びを上げた。
「気づかないのか!おまえがしていることはすべて徒労なのだよ。すべて(・・・)ね!そして、おまえは決定的矛盾に気づいていない。そう。俺を友と呼ぶ矛盾に―――」
 その言葉を聞いたとき、頼長はおのれと兄弟子の間に生じた亀裂が、もうどうしようもないくらい深く広いことに気づかされた。
 頼長は座りこんでしまいそうになるのを、柱にもたれることで防いだ。
 いつからなのだろう。
 私が学兄を苦しめていたのは―――。
 頼長の脳裏を、かつて友として未来を語り合った昔のことが通り過ぎ消えていった。
 ―――学兄・・・
 声に出そうとしたができなかった。
 声の出し方を忘れてしまったかのように―――。
 言い表せないあまたの単語は頼長の頭のなかを飛び回る。それは、今までにない完璧な思想だった。漠々としたものは何一つない。
 成佐が背を向けた。
 過ぎ去った日々を取り戻すことができないように、成佐と“世界”を共有することはもうないであろう。
 頼長は決然と立っていた。
 彼は、まだ立っていられるという事実に歓喜した。
 成佐の背中が見えなくなるまで、なんとしてでも平然としていたかった。


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