第六十一話
京中が清盛の話で持ちきりであった。
それは邸内でも同様であった。
清盛を称賛する声も悪罵する声も、同じ心地よい響きとなって忠盛の胸に伝わってくるのであった。
目に浮かぶようだ。
燦然とした清盛の姿が―――。
驚嘆と畏怖の眼差しの中心にいる男。その者は豪放にして磊落。そして、いかなる力にも屈しない無垢な精神の持ち主なのだ。
優しげな目元。高貴ささえ感じられる生命力あふれる四肢。
ああ!愛する者よ。憎む者よ。おまえたちの面影を混沌とあわせ持つ、この者を見よ!
―――おまえはどこから来てどこへ行くのか
「父上」
清盛はまさに出かけようとしているところであった。
彼は首をほんの少し傾け、簀子の上にいる忠盛を見つめていた。
忠盛は今しがたまで、この目の前にいる息子に何かを伝えなければと考えていたのだが、何を言おうとしていたのかまったく思い出せなかった。
「父上。では、行ってきます」
清盛はにっこりとした。
もう子どもでもあるまいに、なぜこうも無邪気な笑顔になれるのか。
―――そうであった
忠盛は発散した言葉の断片をかき集めた。
内大臣からのお召しがあったのだ。
そう。そうだ。彼に危険だと伝えなければならぬのだ。
「十分に気を配れ、平太よ。内大臣殿は常軌を逸したことをするお人だ」
清盛はわかっています、と言うと邸の門をくぐって行った。
忠盛は、手を振って帰ってくる清盛の姿が、早くも見えていたのであった。
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