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  有明の月 作者:小波
第六話
 川の水が海にいき着くように、この因縁も、いつか何処かの果てに流れ着くのだろう。
 恐ろしや。
 あなた様は女を女としかみていない。
「ああっ!」
 影の発する苦痛の叫びに耳をふさぎたい思いで、女御は妹の手を握っていた。
 昨夜から続く長い陣痛。
 出産は難産を極めた。
 もう破水したというのに、赤子が出てくる気配がまったくない。
 御簾の外で一心不乱に陀羅尼を唱える、年老いた女房たち。
 泣き叫ぶ侍女。
「影様!いきんでくださいましっ」
「影様っ!」
 影の顔はおそろしいほどに真っ青であった。
 初産であるからとこの邸に呼び戻したというのに、姉であるわたしがうろたえてなんとする。
 女御は御簾ごしに見える、暗い空をにらんだ。
 なぜ、あの者は来ぬ。
 あの伯耆守は!!
「影っ。しっかりするのですよっ。影!」
 影の喉のあたりから、苦悶に似た、くぐもった声がした。
 いや、声というよりは音にちかかった。
「女御様っ、影様っ!男子(おのこ)・・・男子にございますっ」
 几帳の陰で息をつめていた女房たちのあいだに、一瞬歓喜の風が吹きわたった。
 しかし。
「泣かぬ・・・」
 血まみれの嬰児は、ぴくりともしなかった。
「やはり、死産・・・」
 呆然と肩をおとす産婆から、女御はいきなり赤子を取りあげた。
 近くに用意してあった竹の刀で、臍の緒を断ち切った。
「影!そなたの赤子じゃ。よくやりましたね。男子ですよ」
 姉の声を聞き、紙のように白かった顔に、ほんのりと赤みがさした。
 ゆっくりと、わが子に手をのばす。
 自身の純白の袖と女御の袖が、汚物のため汚れた。
 影も、女御も、そんなことはどうでもよかった。


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