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  有明の月 作者:小波
第五十二話
 産養(うぶやしない)の宴は盛大に行われた。
 和歌が詠まれ管絃を鳴らし、夜通し賑わう。
 酒がまわり参列者の気も緩みはじめた。
 ―――やはり父は来ない
 忠通が赤子を抱いて入ってきた。
 二言三言挨拶を述べるが、頼長は聞いてはいなかった。
 正室との子どもだ。常ならば摂関家の嫡男であろう。
 頼長はぼんやりと忠通を見やる。
 赤子に頬ずりしながら幸せそうにほほえむ兄。
 頼長は目をそらした。
 忠通と一瞬だが目が合ってしまった。
 彼は逃げるようにしてその場を退がった。
 宴たけなわ。誰も頼長を見とがめなかった。
 忠通のあんな顔を見ていたら、頼長の心はどうにかなってしまう。
 もう帰ろう。
 そう思い歩み先を変えようとしたが、意に反して彼の足下はよろけた。
 誰か呼ばわろうと考えたが、このような姿を見られるわけにはいかない。
 彼は柱にすがるようにして立ち上がった。
 疲れが出たのであろう。
 この軽いめまいさえおさまれば・・・
 ふと、何者かの手が腰のあたりに触れた。
 あっと思う間に横抱きにされた。
「・・・兄君!」
 忠通であった。
 なぜ―――
 頼長は頭が混乱してしまいそうになるのを、かろうじて防いだ。
「無理をするな」
 兄の言葉を理解するのに、少なからず時間を要した。
「赤子に嫉妬するなど、いかにもおまえらしい」
 頼長は顔をそむけた。
 首筋の透きとおるような美しい曲線。
 忠通は目を細めた。
 弟を横抱きにしたまま彼は歩き出し、それに驚いた頼長は少し体をよじってみたが、無意味だとさとるとそのままおとなしく身を任せた。
 これから何が起こるか想像に難くなく、頼長は両手で顔を覆った。


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