第三十八話
冷たい。
それは冬の大気なのか、おのれの心なのか―――
光っている。
空気が、陽の光りをあびた水面のように。
こんな情景と出会えば、少し前なら歌が詠みたくてたまらなくなっただろう。
しかし、今はそんな気にはならなかった。
義清はふと、もし妻帯したならば今よりもっと歌に対する想いが薄れるのではないかと思った。
思いかえしてみれば、自分は女性を本気で愛したことがない。
胸ときめいたことはある。しかし、恋や愛と呼ぶにはあまりにも淡かった。
だから、渡の気持ちは正直なところ理解できない。
でも、彼の奥方の気持ちならわかる。
なぜ、死ななければならなかったのか―――
そう。袈裟御前は死んだのだ。
「あなた、もうお休みになられたほうが」
渡は冬だというのに、簀子のところまで出て月を眺めていた。
「きみもおいでよ。とってもきれいだよ」
袈裟はふっ、と吐息をもらした。
渡はいつもこうだ。
どこか抜けている感じで、のほほんとしている。
でも、そういうところが愛おしいのだと、袈裟は思う。
「だいじょうぶ?」
「え?」
袈裟は首を傾げた。
「昼間、気分が悪そうだったから。それとも、嫌なヤツでもいた?」
袈裟は渡の背中から目をそらした。
なんと直感が鋭いのか。
「清盛?義清?それとも盛遠?」
「わたくし・・・」
「みんないい人だよ。ちょっと変わり者だけどね」
「あなた・・・」
「袈裟。きみに会えて幸せだよ。ありがとう」
渡はにっこりと笑った。
袈裟は胸が締めつけられた。
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