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  有明の月 作者:小波
第三十七話
「わかりますか?清盛様」
「ああ、わかる。わかるよ。今、動いたもの」
 (めい)はにっこりと笑い、腹に手をやった。
 清盛も笑った。
「ぜったいに俺の邸に呼んでやる。今はまだムリだけど、いつかきっと」
 冥は、ただほほえむだけで何も言わない。
 そんな彼女を見ていると、清盛はたまらなくなる。
 けして今以上を望まない。誰も憎まない。
 おのれの身の上を嘆いたりしない。
「姫さま」
 襖障子の向こうで、声がした。
「まあ、どうしたの乳母(めのと)?」
 冥の乳母の婆が幼児を抱いて入ってきた。
 さっきまでくずっていたのだろう。目元が赤くなっていた。
「よいのよ乳母。きっと、その子も父さまに会いたいのだわ」
 清盛は婆に抱かれているわが子を見た。
 たしか、二つであったろうか。
「こっちへ来い、千歳(ちとせ)。父ちゃんが抱っこしてやるぞ」
 幼児は、父とわかったのか、呼ばれるままに来たのか定かではないが、おぼつかない足取りでやってきた。
 清盛の膝に手が届きそうなところで、突然こてんと前に倒れた。
 しゃくりあげ、だんだん顔をくしゃくしゃにして泣き出す子ども。
「あ・・・」
 清盛は助けを求めるように婆を見た。
 泣く。泣く。
 子どもが泣く。
 どうしたらいいのだ。
 泣きやんでくれ。頼むから!
 冥が優しく清盛の肩に手をおいた。
「千歳・・・」
 清盛は子を抱き上げた。
 どう抱いてよいのかわからないが、とりあえず一番重そうな頭を支えた。
「千歳、だいじょうぶだ。父ちゃんはここだ。ずっと、ここにいるからな」
 千歳丸は安心したのか、だんだんと泣きやんでゆく。
 最後には手を振って笑うではないか。
「清盛様」
 ほほえむ冥の顔を見る。
 繋がっている。
 なんてあたたかいのだろう。
 守る。
 誰にも壊させやしない。
 冥も千歳も腹の子も、俺が守るのだ。


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