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  有明の月 作者:小波
第二十九話
 因果は父上にこそくだるべき―――
 泰子の言葉が、頼長の心の深淵につけられた(きず)を押し広げる。
 ―――憎むべきは父君にあらず。兄と思うのさえ汚らわしい関白忠通をこそ!
 頼長はまた、こめかみをおさえた。
 この頭痛。                                    
 おさまりそうにない。                               
 父の祝いとはいえ、出席するのではなかった。
「内大臣様のお帰りでございます」
 随身の者が呼ばわる。
「北の方は?」                          
 牛車から降りながら、頼長は出迎える家司に尋ねた。
「朝からご気分がすぐれぬと、伏せっておいでです」
 そう、と頼長は小さく言った。
 結婚以来、いっこうに心を開かぬ妻。
 いつものことだが、見舞いにいったほうがよいのだろうか。
「内大臣様」
 家司の一人が頼長に何事かを耳打ちした。
「なに。して、今どこに?」
「西の舎屋に通しておきました」
「わかった。人払いをしておけ。話しがすむまで何人も私の部屋に近づくな!」
 頼長の剣幕になかば怯えながら、男は奥へと消えていった。
 他の奉公人たちも八つ当たりされてはかなわぬと、仕事を終えたらさっさと散っていく。
義賢よしかため・・・」
 頼長はつぶやき、袍の袖をひるがえすようにして奥へと進んだ。


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