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  有明の月 作者:小波
第二十六話
 管絃の音色が流れる。
 うるさくてかなわない。
 賑やかなざわめきが頭に響く。
「ささ、内府殿もどんどんお飲みください」
「義兄上・・・」
 蔵人頭藤原公能(きんよし)であった。
「私はもう、結構でございます」
 頼長は軽くおのれの盃を手でおさえた。
「今日はあなたの父君、禅閤殿の賀の祝ですよ。飲まなくてどうします」
 忠実の賀を祝うため、関白忠通がここ、東三条殿で宴を催したのだ。
 正直、頼長はこの義理の兄にうんざりしていた。
 上座にあって談笑する父を見やる。
 頼長は小さく吐息し、立ち上がった。
「どちらへ?」
 案の定、公能が尋ねてきた。
 頼長を引き留めようとするかのように、袍の裾を掴んできた。
「外の風にあたってまいります」
 にこりと笑い、彼は公能の手をやんわりと払いのけた。

 春の風、暖かな風。
 なんの花の香だろう。
 頼長は深く息を吸い込んだ。
「頼長」
 名を、呼ばれた。
 彼はふり向かなかった。
 そこにいるのが誰か、わかっていた。
「ご用ですか。関白様」
「今日は父の賀の祝だ」
 そう言い、忠通は近づいてきた。
 頼長は反射的に身をこわばらせた。
「わしを避けようとする、おまえの気持ちはわかる。しかし、祝いの席であからさまに態度に出すのはよせ。人の目がある」
 頼長の白いこめかみのあたりに青筋が立った。
「人の目!笑止な。私の思いの一片でもわかるのなら、そのようなことは言えませぬ」
 踵を返す弟に、忠通は何も言わなかった。


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