ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
  有明の月 作者:小波
第二十五話
「平太よ、おぬしはおもしろいことを言うな」
 ―――平太・・・
 清盛は心の中で反芻した。
 父はたしかに、平太と呼んだ。       
 この俺を平太と!
「おぬしにとって、この海洋は天下への道か!」
 忠盛は愉快そうに言った。
 実に愉快であったのだ。
 彼は異国との貿易を、一族の繁栄のためとしか考えていなかった。
 鳥羽院に大陸の宝物を進呈し、朝廷でのおのれの立場を確実なものにしようと―――
 その甲斐あって、院近臣として認められ御給によって正四位下となり、一門で誰もなしえなかった内裏の昇殿をも果たした。
 しかし、清盛はまったく新しい方向から未来を見据えている。
 国をどうのと帝のような口を利く。
「平太、今夜はよく休め。家盛はだいぶへばっているようだからな。明日からは海賊退治だ」
「はい!」
「とは言っても合戦をするわけではない」
「えっ」
「この土地における武士団を組織するのだ。そのためには、こちらの方が圧倒的に強いと示すだけでよい。無益は殺生はせぬことだ」
 朱に染まった海に臨む父の背中。
 大きな、広い背中。
 貴族に諂うような態度の父を、何度となく歯がゆく思った。
 だが、それはなんら恥じる行為ではないのだ。
 すべておのれの力で掴み取るため―――。
 祇園女御の言葉が思い出される。
 父上、あなたの後を、俺は追います。
 父上。ああ、父上!
 俺の心はどこまでもゆく!


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。