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有明の月
作:小波



第二十一話


 家に戻った清盛は、その騒然とした様子に驚いた。
 ―――何事だろう?
 首をかしげていると、後ろから家貞が声をかけてきた。
「やあ、和子。今戻られましたか。ささ、こちらへ」
「家貞、これはいったい何事だ?」
 清盛は困惑して尋ねた。
「おや、倅から聞きませなんだか」
「何も聞いてないぞ」
 清盛はからかうように家貞を見た。
 この忠実な家臣の背丈を、清盛はとっくに越えていた。
「殿が院より、海賊追討の命を賜れたのです」
「海賊!」
 清盛は眼を輝かせた。
 生まれてこのかた、京を出たことがない。
 広大な海が見られるのだと思うと、彼の胸はときめいた。
「和子、従軍なされませ」
 家貞の言葉で、清盛は真剣な顔になった。
 家貞がわざわざ自分を呼び戻した意味。
 それは、弟家盛との差をつけよということなのだ。
 家貞は不安だったのだ。
 もし、次期棟梁が家盛などになってしまったら、と。
 彼としては幼い頃からおのれになつき、成長を見守ってきた清盛への思い入れのほうが強い。
 宗子も清盛を長子と見なしているので、家人たちもそのように接してきた。
 だが。
 清盛、家盛の成長にともない、家人たちの間に亀裂が生じつつある。
 母の身分からいって、嫡男たるべきは家盛であろう。
 清盛の母はすでに亡い。
 そればかりではない。
 ―――和子自身の出自が・・・
「家貞、家貞っ」
 清盛が肩を揺すっていた。
「大丈夫か?ぼうっとしてたぞ」
「ああ、和子・・・」
 家貞は、はっとなって顔を上げた。
 清盛の眼を見る。
 青年の瞳。
 つねにどこか遠くを見つめている。何かを秘めている。
 ―――つまらぬことなど考えまい
「和子、わたくしめはいつも、あなた様だけのお側におりまするぞ」
 清盛はふっ、と笑った。
 その爽やかな笑みが、忠盛に似ているような気がした。
「おまえがそう言ってくれると、心強いぞ」
 そう言い、清盛は庭の方へと歩いていった。












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