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  有明の月 作者:小波
第十七話
 清盛は何かにつまずき、つまずいた物もろとも盛大に転んだ。
「いったぁ・・・」
 とりあえず灯りをつけなければと、火打ち石を探すが見つからない。
 暗さに目が慣れ室内が見えてくると、先程つまずいたのは、どうやらこの厨子らしい。
 中に入っていた書物や巻物が散らばっている。
 文机が置かれているのを見ると、勉強部屋なのだろうか。
 ふっと室内が明るくなり、びっくりして後ろを見やると、そこには一人の少年がいた。
 賢そうな顔つきだが、清盛よりも幼い。
「やあ、ありがとう」
「あんたか。ここで暮らすことになった妾の子って」
「は?」
 清盛は呆気にとられた。
 見ず知らずの、しかも年下の少年に“妾の子”呼ばわりされる覚えはない。
「俺は妾の子じゃない。だいたい、おまえは誰だよ」
「ぼくは家盛」
 少年は言った。
「長男だ」
 清盛は少年を見た。
 秀でた広い額。
 目元が宗子に似ている。
 後妻がいたことも異母弟がいることも、祇園女御から聞かされ知ってはいた。
 清盛が驚いたのは、その弟がこんなくそ生意気なヤツだということだ。
「母さんは妾じゃないっ。おまえだって後妻の子じゃないか!」
「なにいっ!」
 少年が掴みかかってきた。
 清盛はにっ、と笑った。
 ケンカなら誰にも負けない自信がある。
 相手の拳を難なくかわし―――・・・
「何をしている!」
 視界の端に映ったのは、父の顔だった。
 家盛の拳が清盛の顔に命中した。
「あっ」
 ぱちいんという音とともに、清盛はもんどり打って倒れた。
「父上っ」
 家盛が忠盛に駆け寄った。
 忠盛は家盛を見やり、無様に倒れている清盛に視線を移した。
「殿、これは・・・」
 駆けつけてきた家貞も、この有様に驚いたらしい。
「お、おかえりなさい。父上」
 言ってしまったあとに、清盛はなんとも場違いな言葉であることに気づいた。
 忠盛は目を細め、尻もちをついている清盛を見ると、無言で行ってしまった。
 その後を追いながら、家盛が清盛に向かって、あかんべえをしてきた。
 やり返してやろうかと思ったが断念し、清盛は頭をポリポリと掻いた。


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