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想い出  作者: マサキ
1/1

高校 『初めての恋愛』

結婚して3年。

今は夫と二人、幸せな日々。お腹にはもうすぐ生まれる新しい命。

またひとつ、大人になるんだと思ったら、一端、昔を振り返りたくなった。


いろんなことがありすぎたけど、私はひとつひとつ大人になってきた。

悪い自分を知りながら。


 私「そら」28歳。

高校時代から今に至るまで、弱い自分を、全て書こうと思う。

~初めての恋愛~


 高校一年。

実家から車で1時間半くらいかかる、農業高校へ入学した。

頭は悪かった。勉強がとにかく嫌いだった。


小学五年の春に、卓球部か野球部へ入部しろと言われ、仕方なく女子野球部に入部した。

それからなぜかピッチャーとして活躍し、農業高校への入学を決めた。いわゆるスポーツ推薦。

 農業高校は倍率もあまり良くなく、ヤンキーばかり。でもそれ以上に私の頭は足りなかったから、家族みんなで喜んだ。真面目に部活に励むことを約束し、学校に寮があったが、食事付きのアパートに住むことになった。


 野球部員は2、3年生合わせてちょうど20人。新入部員は7人だった。少ないなと思った。

同級生とはすぐに仲良くなれて、さほど人間関係で苦労することはなかった。ただ、キャプテンが坊主頭で偉そうで、変に厳しくて嫌いだった。3年生になるまでは、ジャージのエリは立ててはだめ。練習中、トイレに行きたければ必ず3年生に許可を得ること。校舎内で先輩とすれ違う際はかならず「ご苦労様です」とあいさつすること。その他、いろいろ。

くだらないと本気で思ったけど、仕方ないと諦めた。


 私には、小学校からの幼なじみがいた。名前は「チエ」。私と同じで頭が悪いけど、すごく気が合った。チエは両親の反対で私のようにアパート住まいは許されず、寮に入った。チエは私より社交的で、他のクラスにもすぐ友達ができた。チエはすぐに私にも紹介した。「ミナ」と「ミナコ」と「マユミ」。ミナとミナコは姉妹かと思ったが違った。

三人はチエと同じ寮生で、私の実家と学校のちょうど間の町に住んでいた。三人とも同じ中学出身で、私やチエに比べ垢抜けていて美人だと思った。すごく羨ましかった。

チエは暇があれば3人を誘い、私も含め5人で遊ぶようになった。

思春期だから仕方ない。派手な遊びばかりした。ミナ達は三人共タバコを吸った。チエも吸った。私も吸った。煙を肺に入れる方法が分からず、煙を口に含んでは吐いた。何がいいんだろうと不思議に思った。

 ある日、5人で夜中までゲーセンで遊んでいたとき、マユミが同級生で私たちと同じ高校の男二人と、22歳の男を連れて来た。22歳の男がやけに目についた。

なんでコイツ、一人だけ年上なわけって、妙に気になった。

「何見てんの。」

22歳男が話かけてきた。

「別に。何でもないです。」

「何で敬語なの。」

「22歳だと聞いてますので。タメ口はちょっと。」

「そう。」

その日の会話はそれくらいでほとんど話さなかった。チエが22歳男とすごく仲良くなっていて、あの二人、付き合うんだろうなと思った。

後でチエから、22歳男は『マサト』という名前だと教えてもらった。



入学してから半年たち、初めはボール拾いばかりだった部活も、かなり厳しくなった。

監督も、坊主キャプテン以上に厳しく、毎日ヘトヘトで練習のない日はアパートに帰りぐったりしていた。

チエは懲りずに遊んでいるようだった。

私はあまり遊ばなくなっていた。練習で疲れていることもあったが、マユミが苦手だった。

たぶんマユミも同じだったと思う。

何を考えているのかわからなくて、あまり話をしたくなかった。


私の場合悪い癖で、この人はこういう人と自分の中で決めつけて付き合っていた。

マユミはそれがわからなかった。だから、自然と避けるようになっていた。

チエやミナやミナコは、それに気づいていないようだった。



高校一年の秋。

部活がオフの月曜日。

チエがマサトを連れて私のアパートに来た。


「マサトのこと、どう思う?」

チエがニコニコしながら聞いてくる。

「は?」

よくわからないので適当に返事をした。

そもそも、日々の練習で疲れていて、とにかく寝たかった。

チエは投手じゃないから、練習メニューも私よりはるかに楽だった。

投手というだけで、練習量が半端じゃなかった。いろいろ考えていたら、イライラしてきた。

私はチエとマサトが付き合っていると思っていたから、ただ見せつけに来たんだと思っていた。


「で、何よ?」

冷たくチエに言う。

マサトなんて、前に遊んで以来、一度も会っていなかった。

何か、ちょっと太ったような気がした。


「チエさ、もう門限ヤバいって。」

マサトが言った。

「そうそう、そうなのよ。帰らなきゃヤバいわ。」

思い出したようにチエが慌てる。

「結局、何?」冷たく言うと、「マサトに聞いて」とだけ言って、チエは帰ってしまった。


男と二人きり。

そうだ、私は男の人と話すのに慣れていない。

中学の頃、一度だけ同級生と付き合ったが、キスだけしてすぐに別れた。コイツ、キスしたかっただけかよって、無性に腹が立った。近所だったから気まずくなったのを覚えている。


とにかく、男と何を話していいのかわからない。

「何ですか?」

冷たく言った。とにかく早く帰ってほしかった。よく見たらコイツ、デブじゃんと思った。


「そらは彼氏いるの?」マサトは真顔で聞いてきた。何だかちょっと怖かった。

「部活ばっかりなんで、居ません。しかも部活の決まりで恋愛禁止なので。」

「そうなんだ。」

少しの間、沈黙があった。

「あの、何ですか?一応他からの目もあるので帰ってもらいたいんですけど。」「本当、冷たいね。」

別に冷たいと言われても、気まずくなっても構わなかった。

とにかく眠い。寝たい。いいかげんにしてほしかった。


「ピッチ、ないんだよね?そらとは連絡取る方法ないね。」

「はい。ないですね。」

「んー。じゃあチエのピッチに連絡すればいっか。」

「はい、そうですね。」

一分くらい沈黙が続き、マサトは帰った。


次の日、チエからマサトが自分と付き合いたいと言っていることを知った。

何とも言えない、不思議な気分だった。

マサトのことは好きではなかったが、自分に彼氏ができて付き合うということがすごく嬉しかった。

私は、マサトの彼女になった。

マサトは練習後、毎日私を迎えに来た。

私のアパートにマサトは入れなかった。部屋があまり綺麗ではなかったし、何より周りの目が気になった。

私のアパートには女子大生が多く、高校生は私だけだった。

高校生というだけで少し目立っていたため、男を連れ込んでいると分かれば、噂になって大変だろうと思った。


私は毎晩、マサトの家に泊まった。マサトの家は高校から車で20分程のところにあった。

マサトの車はセダンで、マフラーを改造していてうるさかった。

マサトの家には登校拒否の中学2年の妹と、父親が居た。父親とはほとんど顔を合わせなかったが、毎晩一応挨拶はしていた。

妹はなぜか、私になついていた。


マサトは優しい。

疲れて寝てしまう私を起こすこともなく、私の好きにさせてくれていた。

毎晩一緒に寝ていたが、マサトは私に指一本触れようとしなかった。

私は処女だったので、自分から誘うことはしなかった。


そのまま何もないまま、冬になった。

年末部活が休みになると、実家へ帰省する前、マユミやチエ達、そして同級生の男二人も呼び、みんなで遊んだ。約3日間、マサトの車で出掛けたり、マサトの家で飲み会をしたりした。

そのとき、チエとマサトが体の関係がないことを確認した。私にとっては大切なことだ。


そのとき、私は初めてお酒を飲んだ。ビールは苦くて飲めなくて、梅酒を飲んだ。

二杯飲んだところで、目の前がぐるぐる周り、すぐに吐いた。

2時間くらい眠り目が覚めると、マサトが隣に居た。マサトも眠っていた。


周りを見渡すと、チエが同級生の男一人とイチャついていた。二人とも、かなり酔っぱらっている。

よく見ると、飲み会を始めたときより、男が一人増えていた。私も酔っていたので、どうでもよかった。ミナとミナコもその男達と抱き合い、そのまま服を脱いでいた。

チエも同じだった。


これは酷い。

そう思った。

私はマサトと付き合っていてよかったと本気で思った。

みんな経験豊富だからいい。私なんてまだ処女だ。こんなところに居られない。


まだ頭がクラクラした。みんながセックスを始めたころ、私は怖くなってマサトを起こした。

マサトは冷静だった。

「外に出よう。」

そう言って、私の腕を引っ張り、外へ出てマサトの車の中に乗った。


「公園まで行くか。」

そう言って、車を走らせた。

「いつも、飲み会だとああなっちゃうの?」

マサトに聞いた。

「ミナ達は好きだからな。マユミは違うんだけど」

そういえば、マユミが居なかった。

「マユミは?帰ったの?」

「うん。そらが吐いてるとき、ちょうど出てったよ。」

「何で?」

「知らない。でもマユミはいつもそうだから。」

やっぱりマユミは分からない。そう思った。

でも、マサトはマユミをよく分かっているようだった。それが何となく、気に入らなかった。


公園に着くと、車を止めて、エンジンも止めた。寒いというと、すぐにエンジンをつけた。


「マサトはさ、したいと思わないの?」

酔っていたせいか、今まで聞けなかったことを聞けた。

「エッチのこと?」

「そう。もう2ヶ月になるのに、キスすらしないから。」

「しなきゃだめか?」

「そういうわけじゃないけど。アタシ、魅力ないのかと思って。」

マサトは笑った。

私も笑った。何で笑ったのかわからないけど、とりあえず笑ってごまかそうとした。


「じゃあ、キスしていい?」

マサトが笑顔で聞いてきた。

キスか。中学以来だった。

「やり方わかんないけど、いいよ。」

「やり方って。キスにやり方なんてないだろ。」マサトは笑った。

急に私の肩を持ち引き寄せると、やさしく短いキスをした。

タバコ味だった。

でも、その味と匂いに少し安心した。

マサトはそのまま抱き寄せると、今度は舌を入れ、長く激しいキスをした。

焼酎のような味とタバコの匂いでクラクラした。

自分を客観的に見たことを想像し、たまらなく興奮した。ドラマのヒロインになった気分で、夢中でマサトに抱きついた。


私はそのまま、車の中で処女をマサトにあげた。

たくさん血が出て、トイレの時はしばらく痛みが走った。

でも、マサトは優しかった。

自分がどんどんマサトに惹かれていくのがわかった。



年が明け、またすぐに部活が始まった。

練習は相変わらず厳しかったが、マサトに会えると思うと頑張れた。


チエが、年末の飲み会のときにイチャついていた同級生、「ツバサ」と付き合うと言った。

自分も幸せだったから、素直に喜んだ。

ツバサはイケメンで、チエにはもったいないと思った。

ツバサはマサトとも仲が良く、よく四人で遊んだ。


2月に入り、珍しく日曜に部活がオフになった。チエと私はさっそくマサト達に連絡し、朝から1日遊ぶことにした。

近くのゲーセンへ行き、四人で夕方まで遊び、その後、スーパーへ酒とつまみを買いに行った。


そのとき。

坊主のキャプテンが前から歩いて来た。

買い物カゴにはたくさんの酒。マズイと思った。

私はとっさにチエの腕を掴み、売り場の陰に隠れた。

でも、遅かった。

見つかった。

キャプテンは何も言わず、その場から去った。



案の定、翌日の昼、校内放送でチエと私は監督に呼ばれた。

チエは「行かない」と言った。これで親に知られる、もう自分はおしまいだと泣いた。

確かに、親に知られたら大変なことになると思った。タバコも見つかる、飲酒も知られたら、この先どうなる?

停学?

退学?

私もだんだん恐ろしくなった。


「逃げよう。」

チエが言った。

私も同じことを考えていた。きっとマサトなら助けてくれる、そう思った。


チエと私は昼休みに入る前に学校を出た。

校舎を出てすぐ、チエのPHSからマサトを呼んだ。

私が泣くと、マサトは抱き締めてくれた。

「俺を信じろ。守ってやる。」


今思えば、何で逃げたんだろうと不思議に思う。逃げ切れるわけもないのに。でもマサトを本当に信じていた。

親と離れても、マサトと一緒になりたいと思っていた。


チエはツバサのところへ行った。ツバサから電話があり、しばらくツバサの家に隠れることにしたと言った。


マサトは、夜中に遠くへ逃げようと言っていた。私もそうするつもりだった。部員の一人にマサトのことを話したことがある。マサトの家も絶対に見つかる、そう思った。

マサトは夜になる前に、お金を用意すると言った。

「夜中の1時に出るから。準備できたらゆっくり休んでろ。」

そう言って、出掛けて行った。

私はマサトからもらったお金でヘアブリーチ剤を買った。

髪の毛を金髪にしたあと、氷で耳たぶを冷やし、麻痺したことを確認し、安全ピンでピアスの穴を開けた。

耳たぶがを針が貫通した瞬間、お父さんの顔が浮かんだ。

それから眠れるわけもなく、マサトの妹の部屋に行き、妹にメイクをしてあげた。初めてだったらしく、とても喜んだ。



 夜の8時になっても、マサトは帰ってこなかった。見捨てられたのかと不安になったが、きっと自分と逃げるためにお金を集めてくれているんだと思うようにした。

「起きてても仕方ないから、ちょっとだけ眠ろう」そう思って、床についた。


1時間くらい眠っていたと思う。

車のエンジン音で目が覚めた。ベランダの方を見ると、ブレーキランプの赤い色が見え、真っ暗な部屋を赤く染めた。

マサトが帰ってきたとも思ったが、カーテンを空ける手が止まった。

「マフラーの音がしない」

カーテンの隙間から覗くと背筋が凍った。

監督の車だった。

私はすぐに妹の部屋へ行った。

「玄関出たら、マサトもアタシも居ないって言って!」

「わかってる。」

妹には事情を話していた。

すぐにドアホンが鳴る。マサトのお父さんは居ないようだった。

妹がドアを開ける。

「夜分にすいませんね。ちょっと人を探しているんですが。」

監督の声。いつもとは違う、冷静な声だった。監督の後ろには私やチエの担任も居た。

「マサトさんはいらっしゃいますか。」

「マサトは出掛けていて、今は居ません。」

妹が答える。

「では、うちのそらは居ますか。」

監督が少し大きな声で言った。

妹は少し困ったように下を向き、

「そらも居ません。」

と答えた。

「そんなことないでしょ。これ、そらの靴でしょ。」

監督がまた穏やかな口調で言った。

妹は完全に固まってしまった。


「見つかる」そう直感して逃げなければと思った。マサトの家は玄関以外、外に出る方法がなかった。私は二階に上がり、裸足のまま屋根によじ登った。2月の真冬の屋根は冷たいなんてもんじゃなかった。すぐに足の感覚がなくなり、うまく歩けなくなった。


監督と担任はマサトの家の中を探しているようだった。

私は隙を見て、屋根から飛び降りて逃げようと考えていた。

しばらくすると、家の中から物音が消えた。

やっと帰ったかと少し安心したのもつかの間、外を歩く音が近づいて来る。

「そら。降りてきなさい。」

監督だった。

最悪。ジャージに金髪頭で、裸足で屋根の上で体育座りしているところを見つかった。すごく自分が間抜けな気がした。


荷物をまとめて玄関へ出るとき、マサトの車の音がした。

マサトが帰って来た。

できれば顔を見たくなかった。

マサトは車を降りると、鬼のような顔をしてこちらに歩いて来た。

「何だてめえら。」

マサトは監督の胸ぐらを掴み言った。

「お前こそ何だ。」

監督は怯まなかった。

「そらは俺と一緒に居るんだよ。勝手なことすんじゃねぇよ。」

「何を言ってる。手を離せ。」


何とも言えない光景だった。マサトは自分よりずっと大人だと思っていたけど、監督と話してるのを見たら、すごく子供に見えた。

「お前は自分が何をしているかわかっているのか。」

「俺はそらを守るんだ。お前らには渡さない。」

マサトも必死だ。

「そらはお前のものじゃない。」

「そらは俺と居たいんだよ。本人の気持ちも聞かないで、だからコイツはあんたらから逃げたんだよ。」

逃げたとか言わないでよ。確かにに逃げたけどさ。悲しくなり涙が出た。マサトは、私のことを全然わかっていない。

「話にならない。」

監督は車へ戻った。

担任が早く荷物をまとめて来るように手招きをした。

私は制服を忘れたことに気付き、マサトの部屋に戻った。バックに制服を積めていると、マサトが来た。

「行くのか。」

「うん。」

私はもう諦めていた。

監督の顔を見たら、諦めがついた。

「もう、会えなくなる?」

「たぶん。」

マサトは私を抱き締めた。鼻をすするような音が聞こえたから、多分泣いていたと思う。

「俺、お前と離れたくないんだよ。」

「…ごめん。」

キスをしようとしてきたが、しゃがむようにして避けて部屋を出た。カズトへの気持ちは、あんなに好きだったのに、完全に冷めていた。マサトは年齢は大人だけど、本当は全然大人じゃなかった。裏切られたような気持ちだった。


車に乗ると、すぐに監督に殴られた。口から血が出たが、少し安心した。


チエもすぐに捕まった。私とチエは、約1ヶ月間の停学処分となった。その間、チエとは一切会うことを禁止された。

私達が停学になったことで、ミナやミナコ、マユミも停学になった。マユミはそのまま、学校を辞めた。


 停学が明け、私とチエは野球部員に頭を下げ、練習に戻った。辞めるつもりでいたが、監督に殴られたことを思い出すと、監督についていきたいと思った。

元々私は野球をするためにこの高校を選んだ。

野球で監督と自分の親に恩返しをしようと決めていた。ショートカットだった髪の毛を、バリカンで坊主にした。


マサトのことは簡単には忘れることができなかった。でも、戻るつもりはなかった。

アパート暮らしは禁止され、チエも寮を出た。私とチエは片道電車で2時間かけて通った。



5月。

ある土曜日、試合のため、私は父親に学校まで車で送ってもらって居た。

自宅から車で学校へ行く途中、マサトの家を通る。

私は父親に「マサトの家に寄りたい」と言った。

「マサトの父親に迷惑をかけたので謝りたい」とお願いすると、父親は承諾した。

意外だったが、父親はマサトの家の前に車を止めると、

「外にいるから、すぐ戻ってこいよ。」と言った。

ベルを鳴らすと、妹が出てきた。

「そらちゃん…」

かなり驚いているようだった。マサトのお父さんは居ないようだ。

「マサト、いる?」

「いるよ。」

「呼んでもらえる?」

「うん。」

私は玄関のドアを閉めて待った。すぐにマサトが出てきた。

「そら!」

マサトは笑顔だった。少しだけ、痩せたような気がした。

「この前は、迷惑かけてごめんね。」

「今日はどうしたの?」

「いや、謝りたかっただけだから。もう帰るね。」

長居はしたくなかった。

「ちょっと待ってよ。」マサトが腕を掴んだ。

「ごめん。外でお父さん待ってるから。」

そう言って帰ろうとすると、マサトの部屋からマユミが出てきた。

「あんた、どういうつもりなの?」

マユミは金髪になり、髪の毛はエクステでかなり長くなっていた。

「マサトはずっと待ってたんだよ。てゆうか、あんたらのせいでみんな巻き込まれたんだよ。わかってんの?」

「ごめん。」

マユミは確かに被害者だ。私やチエが逃げなければ、マユミが学校を辞めることはなかった。

「アタシ、マサトと付き合うから。」

マユミが言った。

一瞬目の前が真っ白になったが、逆によかったと思った。これで忘れられる。

「そっか。その方がいいよ。」

「そら、待って!俺はお前が忘れられないんだよ。」

またマサトが腕を掴んだ。

「マユミがいるじゃん。」

「俺はお前が好きだ。」

「じゃあ何でマユミがここに居るの?」

「…別に、マユミとは昔から仲がいいから。」

「もういいから。もう一生アタシに関わらないで。」そう言って玄関のドアを開けた。

「待って!俺はそらが一緒にいてくれないなら、死ぬからな。」

マサトは泣いていた。

マユミは怖い顔で泣きながら私を睨み付けている。


「…じゃあ、死にな。」

そう言ってドアを閉めた。父親から、玄関は見えていたと思う。でも何も言わなかった。

「行くぞ。」とだけ言って、車を走らせた。



 それから、マサトは私の実家や、学校にまで来るようになった。

チエのPHSにも毎日電話が入っていた。チエは着信拒否をした。

監督や担任が、マサトに何度も注意した。

私の父親も、警察を呼んだりして、しばらくすると、マサトは現れなくなった。

私は、マサトを忘れるために、マサトとの一年間を埋めるために、必死に練習した。




高校三年、夏。

私は女子野球部のキャプテンになっていた。

必死の練習は実を結び、体力も技術も、チームでは一番になっていた。

チエも四番として活躍していた。

夏休み。練習が終わりチエと駅まで歩いていると、マユミが駅にいた。あれ以来一度も会っていなかった。マユミはどこかの高校の制服を着ていた。

チエはすぐに嬉しそうに駆け寄った。

私は話をしたくなかったので、近くのコンビニに入った。

お茶を買い、立ち読みしていると、チエが来た。

「マユミがそらに話があるって。」

チエは私とマユミの出来事を知っていたので、少し困ったように言った。

外を見ると、マユミは駅のベンチに座っていた。

私は少し幅を空け、マユミの隣に座った。

チエは私の隣に座った。

「話って何?」

「何か、痩せたね。」

マユミは目を合わせず言った。

「別に痩せてないよ。」私も目を合わせず答えた。

「マサトのことなんだけど。」

少しドキッとしたが、同時に迷惑だと思った。

「何?」

チエも困った顔をしている。

「話がしたくて、待ってたんだ。これからマサトに会えない?」

「無理。マユミはマサトと付き合ってるんでしょ?今さら何なの?」

冷たく答えた。とにかく腹が立った。

「付き合ってもらえなかった。マサトは今もそらが忘れられないんだよ。」

「だから何?アタシはもう忘れたらから。」

マユミは何も言わず私の目を見て、涙を浮かべた。

「泣かれても困る。」

そう言ってベンチを立つと、マユミも立ち上がった。

「自分だけうまくいけばそれでいいの?あの後、マサト酷かったんだよ。ご飯も食べないで家で寝てるだけ。食べてもすぐ吐くし。」

「だから何?」

私は一生懸命冷たくした。心配でないと言えば嘘になる。でも、これまで必死に取り戻して来た信頼を、また失いたくなかった。

「昨日の夜、マサトが自殺未遂をしたの。」

マユミは泣いていた。

チエも泣いていた。

私は泣けなかった。

いろんなことを考えなければいけなくて、涙を流す余裕がなかった。

「遺書があって、そらに会いたいって書いてあった。」

「何で今?もう2年も経つんだよ?」

「お願い。そらにとっては過去の人でも、アタシらにとっては大切な人だから。」

マユミは泣きながら頼んだ。

「そら、行こうよ。アタシも一緒に行くから。5分だけ、顔見せてさ、きちんと話した方がいいよ。」チエが言った。


私はマサトに会うことにした。罠かもしれないけど、信頼を失うようなことにはならない自信があった。マサトの顔を見ても、気持ちは変わらない自信があった。


マユミとチエと電車に乗り、マサトのいる病院に着いた。

マサトは個室にいた。

「マサト。」

マユミだけが病室に入った。マサトの返事は聞こえない。

「そらが来たよ。」

私はドアを空け、中に入った。

マサトは痩せていた。顔色が悪い。髪もずいぶん伸びて、髭もあった。「久しぶり。痩せたね。」

声をかけると、マサトは少し笑った。

「マユミに呼ばれたのか。」

「うん。駅で待ってた。」

「迷惑かけたな。」

マサトはマユミとチエに病室を出るように言った。私とマサトは二人きりになった。「自殺しようとしたんだって?」

マサトは黙っている。

「何かあったの?」

マユミから事情は聞いていたが、あえて聞いてみた。

「お前に来てほしかったからじゃないんだよ。」

「違うの?」

「違うんだよ。確かにお前が好きすぎて、病気みたいになった。」

「何でそこまで。」

「…わかんね。お前さ、普通じゃないじゃん。」「は?」

「普通、頭坊主にして、化粧もしないで、顔も日焼けで真っ黒な女子高生なんていないだろ。」

「まぁ、そうね。」

「野球頑張ってるお前が好きなんだよ。」

マサトは窓の外を見ながら話した。

「だったら何で自殺なんかしたの。」

「お前を邪魔する自分が嫌だった。俺はお前に惚れてたんじゃなくて、お前に憧れてたんだと思う。」

「憧れてた?だから死のうとしたの?」

「別にお前が俺の女じゃなくてもよかったんだよ。お前を近くで応援できれば。」

「近くでは、無理でしょ。もう友達だとしても、会うことは許されないよ。あの一件で、アタシはたくさんの人を裏切って迷惑をかけたから。」

「そうだな。悪かったな。お前の邪魔して。」

「別に。アタシはマサトが好きだったから。」

「ありがとな。」

マサトは私を見て笑った。

「もう、死のうなんて考えたらだめだよ。」

「…ああ。」

「マサトは、素直だから。お互いもっと大人になって、きちんと生きて行こうね。」

私はマサトの目を見て言った。マサトは深呼吸をしながら、大きく頷いた。

「じゃあね。ずっと、バイバイだからね。」

私はなるべく優しく、マサトに言った。

マサトもにっこり笑った。



 病室での会話を最後に、私は今日までマサトに会っていない。

帰省したときマユミに会ったが、マサトのことは聞かなかった。

マユミも敢えて、何も話さなかったのかもしれない。

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