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それいけ!スーパーマンモス

 その事件が起きたのは、雪国のとある研究所の中でした。

 うっそうとした森に囲まれた建物の中には、様々な英知と未来への希望が詰まっていました。最先端の機械が心地よい音を立てて動き、世界でも五本の指に入る頭脳を持つ者たちが、様々な研究に勤しんでいる場所でした。しかし今、この研究所は、恐ろしい存在によって支配されていたのです。

「き、君たち、何をするつもりだ!」
「決まっているでしょう、博士。私は貴方たちの研究を頂きに来たのですよ」

 白衣の男を『博士』と呼びながら話しかける、スーツを着こなす美形の男。その口調は丁寧なものでしたが、彼の心が決して礼儀正しくは無い事は、その右腕にあるピストルが示していました。博士が変な動きをすれば、すぐに引き金を弾く準備をしていたのです。
 その傍では、博士と同じように白衣をまとった人々が、同じようにピストルを突きつけられて身動きを封じられていました。恐怖におびえる彼らの傍には、勝ち誇ったように卑しい笑みを浮かべる屈強な男たちの姿がありました。

 この男たちの正体は、世界を股にかけて悪事を働く恐ろしい盗賊集団。金になりそうなものを見つければどんな場所にも現れ、ありとあらゆる卑怯な手段で狙いの品を奪い取っていました。相手が反抗しようものなら自慢のピストルやバズーカが火を噴き、どんな存在も沈黙させてしまうのです。
 そんな彼らがこの研究所に目をつけたのは、ここで育てられていると言うある動物でした。

「この部屋にもいないみたいですぜ、ボス!」「本当にいるんすかねー?」
「もっとよく探しなさい!まだ調べていない部屋があるはずですよ」

 そうですよね、博士。
 そう言いながら、荒くれ者たちを束ねる美男子が博士の額の近くに銃口を近づけました。秘密の部屋が眠っていると言う意味の頷きを返すしか、博士に残された行動はありませんでした。

 少し時間が経った後、ボスである美男子の耳に何かの音が聞こえてきました。人間とは違う、まるで地響きのような声です。それはまるで、ずっと捜し求めていた宝物を見つけた彼らに対する祝福の音楽のようでした。そして、男たちに連れられながられながら、その声の主が姿を現しました。

「や、やめろ……彼女は……!」
「貴重なマンモスだ。そう言いたいんですよね?」

 スーツ姿の美男子や白衣の博士たちの前に現れたのは、現代に存在しないはずの、一頭の動物の姿でした。その名は『マンモス』。地球が恐ろしい寒さや分厚い氷河に包まれていた遥か昔、北国の覇者として君臨していた巨大なゾウの仲間です。
 どこか不満そうな顔を浮かべるその姿は、まさに図鑑に描かれていた姿そのものでした。体は茶色の毛で覆われ、口元には大きく曲がった一対の巨大な牙を生やし、そして長い鼻をまるで腕や手のように器用に動かしていました。

 ずっと昔に地球上から姿を消したはずのこの巨大な動物が何故この研究所にいるのか、盗賊集団は既に知っていました。この場所に集まった博士たち世界各地の研究者が、密かにマンモスを蘇らせていたと言う事実を。ずっと昔に氷付けにされたマンモスのお尻の毛を採取し、そこから何年も研究を重ね、博士たちはこの絶滅動物を復活させる事に成功していたのです。
 その状況は、盗賊集団にとって非常に喜ばしいことでした。いくら世界的な科学の権威たちとは言え、所詮は研究しか能が無いひ弱な集団、銃を持ち、屈強な体を見せ付ければすぐに降参し、マンモスを素直に渡してくれる、と。そして彼らの予想は見事に的中し、呆気なく貴重な研究の成果は屈強で卑怯な男たちの手に渡ってしまいました。

「きっと高値で売れるでしょうね。何せ、現代に蘇ったマンモスはこれしかいないですし」
「お前たち本当にマンモスを……『イブ』をもっていくつもりなのか!?」
「ほう、『イブ』と言う名前ですか。素敵ですね。
 私たちにふわさしい、可憐なレディと言う訳ですか」

 ボスの言うとおりだ、こんな狭い場所より俺たちに飼われたほうが幸せだ。
 すっかり勝ち誇った気分の盗賊の男たちは、博士たちからの必死の訴えを一切聞こうとしませんでした。このような動物を素人が扱ってはいけない、きっと大変なことになる。何とか止めようとした博士の口は固い布によって縛られ、声を出せなくなってしまいました。

「では、ごきげんよう」

 そして、博士や仲間たちが唖然とした顔で見守る中、研究所の大事な研究材料であったマンモスの『イブ』は、盗賊集団によって彼らの手の届かない場所へと持っていかれてしまいました。

「博士……」「一体どないしたらええねん……」「オラたちもう終わりだべ……」

 あっという間の出来事に愕然とし、ショックでうなだれる仲間たちに、博士は静かに、しかしはっきりとした口調で告げました。確かにイブの命も危ないかもしれない。だが、本当に危ないのは、マンモスを手中に収めた盗賊集団だろう、と。
 どういう事なのかと唖然とした表情の仲間たちに対し、博士は『イブ』の事をもう一度思い出してほしい、と言いました。やがて落ち着きを取り戻し始めた仲間たちの頭に、あのマンモスがどのような存在だったのか、どのような力を持っていたのかと言う記憶が蘇ってきました。

 そして、全員とも確信しました。
 『イブ』ではなく、盗賊集団の方が大変なことになる、と。


========================================


「さて、そろそろ『イブ』さんを降ろすとしますか」
「そうっすね、ボス」

 研究所から遠く離れた、どこかの山奥。そこに、世界を股にかける盗賊集団のアジトがありました。

 スーツ姿の美男子である盗賊集団のボスが博士に告げたとおり、山の中に佇む建物の中には、どんなに大きな動物でも収納できそうな巨大な檻が存在していました。逃亡用の対策もばっちり、電流で動物たちをおびえさせる機能を備え付けてあったのです。
 今はトラックに積まれているマンモスの『イブ』を、盗賊集団はしばらく檻の中で育て、裏ルートで契約がつき次第、世界の大金持ちにこの貴重な動物を売りさばこうと考えていたのです。その後彼女の命がどうなろうが、世界的な研究がどうなろうが知ったことではありません。ボスを始めとする盗賊集団は、お金があればそれで良いと言う考えだったのです。

 そして、ボスの指示に従い、トラックに積まれた『イブ』を男たちが降ろそうとしたときでした。

「なかなか降りてきませんね……」
「そうみたいっすね、ボス」

 いくら男たちが棒で刺激し、早く車から降りるように命令しても、『イブ』は車の中に寝転がったままでした。鼻や尻尾をだらしなく動かしながら、男たちの努力を無視し続けていたのです。体調が悪いと言う兆候も無いようで、単に動くのを面倒くさがっているようでした。そして、そのまま『イブ』は男たちを舐めてかかるかのように、なんと大きなおならを出したのです。
 たちまち辺りに広がる悪臭に嫌がる男達を見つめながら、『イブ』はその瞳をにやつかせました。屈強な体の男たちが悶え、美男子であるボスの顔も台無しと言うこの状況を、まるで嘲笑っているかのようです。その事に気づいた男たちが怒りの感情に満たされ始めたのは言うまでもありません。

「てめぇ、人間様を舐めやがって!」

 しかし、男の一人がスパイク付きの靴で『イブ』の体を蹴ろうとした時でした。突如立ち上がった『イブ』は、その巨大な鼻を男の巨体に巻きつかせ、そのまま吹き飛ばしてしまったのです。目の前に落ちてきた男の息も絶え絶えな様子に、ボスの美しく若々しい顔も少しづつ恐怖に包まれ始めました。

「み、皆さん何をしているんですか!早く檻に入れなさい!」
「へ、へいボス!」「分かったっす!」

 慌てて部下たちが様々な武器を抱えて『イブ』に立ち向かい始めました。いつの間にやら巨大なマンモスはトラックから降りてきた状態なのですが、決して喜ばしい状況ではありませんでした。世界を股にかけ、逆らう相手をねじ伏せてきた盗賊集団の力が、古代から蘇ったたった一頭のマンモス相手に、苦戦を強いられていたのですから。

「うわああっ!」「ぎゃあっ!」

 金属棒で殴りかかろうとした男は、怒りの形相でにらみつけた『イブ』にひるんだ隙に、頑丈な脚で蹴り飛ばされてしまいました。電気を帯びた棒をかざして気絶させようとした男もいましたが、彼女は一瞬の隙を突いて巨大な牙で電気の棒を軽々と折ってしまい、あっという間に男を丸腰にしてしまいました。

 予想だにしなかった緊急事態に、ボスも戦いの場に参加しました。勇猛な狼を思わせるスーツ姿の美男子が戦場に加わった事で、男たちも俄然やる気になりました。

「ピストルを使いなさい!
 ここまで凶悪な動物、売りさばいても金になる訳がありません!」

 自分たちに逆らった存在をいつも黙らせる自慢の武器を、男たちはボスと共に『イブ』にかざしました。そして、彼女が大きな雄たけびを上げたその時、ボスの指示と共に、何丁もの銃が一斉に火を噴いたのです。 
 これでもう、目の前の恐ろしい存在は二度と動くことが出来ないはず。再びマンモスは、古代の世界に生きる存在に戻った。そう確信し、ボスたちが安堵のため息をつこうとした、次の瞬間でした。

「……!?」


 盗賊集団が自分たちの目を疑ったのも無理はありません。目の前の『イブ』には、かすり傷すらついていなかったのですから。
 彼らが撃った全ての銃弾は、『イブ』の腕であり、手でもある彼女の鼻先に集められていました。そして唖然とする男たちの前で、彼女はその鼻で受け止めた何十発もの銃弾を、地面に落としました。勝ち誇ったような笑顔と共に。

「う……うわあああ!」「ば、化け物だー!!」

 たちまち恐怖が男たちの体を包み込み、彼らは一目散に自分たちの本拠地である建物へと逃げ出そうとしました。そしてボスも、早く建物に避難するように指示を出しました。今の自分たちにはピストルしかありませんが、あの中にあるバズーカ砲を用いれば、さしものマンモスでも一撃で仕留められると確信していたからです。彼らに残されていた手段はこれしかありませんでした。
 ですが、悲鳴を上げた盗賊集団が建物に入り込もうとした直前、彼らの上空を何かが横切り、そして轟音を上げながら入り口を塞ぐかのように落ちていきました。その物体の正体を掴んだとき、美男子のボスを含む盗賊集団全員を、言いようの無い恐怖、そして自分たちの常識を超えた存在に対する畏怖が包み込みました。彼らの目の前でひしゃげていたのは、研究所からはるばるマンモスの『イブ』を積んで走っていた、あのトラックだったのです。そして、何故それがこのような状態になったのか、それは男たちの後ろに聞こえはじめた、地響きのような足跡の主の仕業でした。

「た、た、た、助けてください!!私たちが悪かった!」
「頼む、俺たちの命だけは!」「助けてくれえええ!!」

 先程までの勢いはどこへやら、盗賊集団の男たちは必死で『イブ』に命乞いを始めました。例えバズーカ砲を持ってきたとしても、目の前にいる存在は自分たちの常識を遥かに超えた動物、どうあがいても勝ち目は無かったのです。
 涙を流しながら謝り続ける男たちは、やがて自分たちの頭の中に何か不思議な声が聞こえてくる事に気づきました。誰か仲間が声を出しているのかと辺りを見回しましたが、ボスを含めて皆が否定のしぐさをしています。そうなれば、声の主である可能性はたった一つしかありません。信じられないですが、男たちは認めるしかありませんでした。

 古代から蘇ったマンモス『イブ』は、盗賊集団の頭の中に直接このような言葉を告げていたのです。


『クイモノをだせ……あるだけすべてだ……!』


========================================

 『イブ』が盗賊集団に連れ去られてから、数ヶ月が経ちました。
 滅茶苦茶に荒らされてしまった研究所は、博士を始めとする世界の英知のお陰で元の姿を取り戻し、改めて研究を続ける運びになりました。そんなある日のこと。

「博士ー、手紙が届いたでー」

 仲間からの知らせを受けて、博士は早速その手紙の封を破り、中にある便箋を取り出しました。そこには、やけに大きな文字でこのような内容が記されていました。

「なになに……『ハカセとなかまたちへ』、か」

――あたいはきょうもげんきさ。ハカセたちはどうだ?
――こっちのくらしはとってもらく。まいにちたのしくくらしているぜ。
――みんなもいつかこないか?あたいの『テシタ』がおもてなしをするからな。
――それじゃ、またあおうぜ。

 とてもぶっきらぼうな文面ですが、離れた場所でも自分たちのことを思ってくれている事を、博士や仲間たちはしっかりと分かっていました。手紙の主である、マンモスの『イブ』が。

「それにしても、やっぱり『イブ』は凄いですね……文字も書けるなんて」

 仲間の言葉に、博士は感慨深そうに頷きました。

 現在地球上に住むゾウは、人間に負けず劣らず卓越した頭脳を有した動物として知られています。仲間を思いやり、敵に対して団結して立ち向かい、そして子供を愛する、まさに英知を宿した存在です。地球上に存在した雪国のゾウであるマンモスも同様の頭脳を持っていたのは間違いないであろうという事を、博士や仲間たちは研究で明らかにしていました。

 ですが、現代に蘇ったマンモスである『イブ』は、その博士たちの考え、いや普通の常識すら遥かに超える存在でした。

 人間の言葉を平気で習得し、文字もすらすらと書いてしまうほどの器用さを有し、さらにはどんな重いものも持ち上げてしまう凄まじい力までも備えていました。挙句の果てには、言葉を発さずとも相手の頭の中に自分の意志を伝えてしまうと言う『テレパシー』すら身に付けていました。漫画やテレビに出てくるスーパーヒーローを思わせるとんでもない存在が、この世界に蘇ってしまったのです。
 ですが、彼女は博士や仲間たちに対して、その力を誇示し続けるということはしませんでした。

「オラたちにはいつも優しかったよな」
「言葉は乱暴でしたけどね」
「いつも美味しい果物ばっかりねだってましたね」

 色々と文句を言いつつも、体力測定や血液検査などの研究の数々に素直に従ってくれたおかげで、マンモスの研究は飛躍的に進んだのです。改めて研究所の人々は、不思議な力を持つ『イブ』に対しての感謝の思いをひとつにしていました。
 そして博士は改めて皆に告げました。自分たちの常識や科学の力は、本物の自然相手に全く敵わない事がたくさんある、と。いくら自分たちが無理だと否定しても、それをあっけなく超える存在が現れることを否定することは出来ないのです。『イブ』のような『スーパーマンモス』が地球上に存在していたという可能性も同様でした。

「まだまだ地球の大自然には、不思議がたくさん眠っているのかもしれないな」
「そうですね……」

 そんな中、仲間の一人が『イブ』からの手紙に写真が同封されていることに気がつきました。そこに映されていた光景を見たとき、研究所の全員が苦笑を浮かべました。確かに彼女は、研究所から遠く離れた場所で毎日楽しく、のんびりした暮らしを過ごしているようです。その日々は間違いなく快適なもので、まるで楽園のようでしょう。ですが、そんな『イブ』に従う『テシタ』たちのほうは相当な苦労を強いられている事が、その写真にはしっかりと刻まれていたのです。
 今まで世界各地で散々悪事をしでかしていた彼らにはふさわしい末路かもしれません。しかし、まさかマンモス相手にこのような状態に置かれるなどとは、夢にも思わなかったでしょう。これはいつか様子を見に行ったほうが良いかもしれない、そう言う博士たちの言葉で、研究所の中は笑い声に満ちていきました。

 きっと今頃、かつての盗賊集団のアジトの周辺では写真のような奇妙な光景が繰り広げられている事でしょう。地面に寝そべり、ぐうたらしているスーパーマンモスの『イブ』に監視されながら、汗だくになりながら必死に畑仕事を続ける男たちと言う光景が……。

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