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婚約破棄して、10年目の邂逅。……そもそもなんでこんな男と婚約してたんだ?

作者:木村 真理
ひょろりとした男は長身で、たくさんの人が集まる研究会でも目立っていた。
周囲の人より頭半分は大きな長身に、何気なく目をとめて、息をのんだ。

その男の顔は地味で平凡で、細くてつりあがった目だけが唯一の特徴らしい特徴だ。
狐のような油断のならない顔立ちは男の内面を表している。
なのに、男が気弱そうな笑みをうかべると、男の顔は一気に人がよさそうに見えた。
だから周囲の人間は、たやすく男にだまされる。
彼のことを、気弱だけどお人よしのいい人だと思ってしまうのだ。

彼と別れる寸前まで、私が、そう信じていたように。

「お前との婚約は、破棄する。当然だろう」

吐き捨てるように言われた別れの言葉を思い出す。
あの時の、自分の心の痛みも。

あれからもう、10年くらいも経っているのに。

……こんな研究会、来るんじゃなかった。
10年ぶりの帰国は長期滞在の予定で、今日はなんの予定もなかった。
大学院の時の友人が発表する研究会があると聞いて、「行きたい」と言ったのは私だ。
けれど、この男が来る可能性を考えていなかった。

道理で友人が、微妙な表情をしていたわけだ。
彼女は、私と男の間にあったことすべてを知っているわけじゃない。
当時の私はほんとうに傷ついていて、男に言われたことを話すことさえ苦しくて、友人にも相談できなかったから。
それでも私たちが付き合っていたことや、婚約破棄されたことは、友人も知っていたから。

忘れたと思っていた過去が、つぎつぎに脳裏によみがえる。

男は、大学の先輩だった。
ひとつ年上の男は、同じゼミの先輩でもあった。
勉強ばかりしていて、男の人はちょっと苦手だったかつての私は、気弱そうな男の押しの弱さと、さりげない女の子扱いに惹かれた。
男が大学院に入学したのを機に告白され、付き合い始めた。
1年後私が大学院に入学し、その夏に婚約をかわした。
お互いの両親への顔合わせもすませ、男が大学院を卒業したら結婚する予定だった。

付き合い始めたころから、男はときどき私に対して支配的な顔を見せることがあった。
デートで食事に行っても、店は男が選ぶところばかりで、女の子の好きなカフェにはつきあってくれなかった。
映画を見ても、彼の好きな小難しい芸術的な作品ばかりで、私が好きな大衆受けするコメディやアクション映画は「見る時間の無駄だ」と切り捨てられた。

研究室で意見をかわしていても、とうとつに「これだから女は」と冷笑されることもあった。
遅くまで研究室で実験をしている時には全員の買い出しに行くように指名されたし、たまには手作りの夜食をさしいれしろ、とも言われた。
私も、彼と同じ院生なのに。

今なら、そんな扱いを受けたら断固として抗議する。
けれど当時の私は、男の人ってそんなものなんだろう、と受け止めていた。
女性向けの雑誌でも、よく「男の人はたてるように」と助言されていたので、素直だった当時の私はそれをうのみにしていたのだ。
彼は、私以外の院生や先生たちにはひどく気を使っていたから、「いいひと」だからこそ、身内扱いの私には自分と同じように他人にも気遣いを強要するのだと思ってもいた。

私は男の態度に嫌気をおぼえながらも、現実なんてこんなものなのだろうと諦念を抱いていた。
なんだかんだいっても男は真面目で浮気や暴力とは無縁だったし、研究者としての未来も嘱望されていた。
大学院を卒業したあとも、大学の研究室に研究員として残れることも決まっていたのだ。
そんな彼と結婚し、自分も研究員として働ければ、そこそこの幸せを手に入れられる、と当時の私は考えていた。

完璧な恋人とか、華々しい研究生活とか、そんなものは夢でしかない。
私にふさわしい現実的な夢は、そこそこの男と結婚し、そこそこの仕事をして、そこそこの幸せを手に入れることなんだって。
そんな夢を、信じていた。

すべてが一変したのは、その秋のことだ。
私に、アングレーズの大学の研究室の研究員というポストがまわってきたのだ。

アングレーズは、研究に熱心な国だ。
大学への助成金も他国とはけケタ違いで、この日昇国との差は、比べる気にもならないほど多い。
とうぜん研究にかけられるお金もぜんぜん違うし、研究員のポストも段違いに多い。
アングレーズの大学で研究員になることは、すべての国の若手研究者の夢といっても過言ではない。
もちろん、私にとっても、アングレーズの大学は憧れだった。

けれど、私には婚約者がいた。
彼はこのまま日昇国で研究を続けるはずだ。

離れていても、想いあう恋人たちはいるだろう。
けれど私たちは、そんなに深い愛情をお互いに抱いていなかった。
私が彼のことを「そこそこの相手」だと思っていたように、男も私のことを「そこそこの相手」としか見ていなかった。
実際、彼が本当に好きなのは、もっと華やかでかわいらしい女の子だった。
ただ彼女たちは、彼のことなんて相手にしなかったから、自分と同じように地味めな私で妥協したのだと、酔った彼に言われたこともあった。

手近にいるからこそ、妥協で選んだ婚約者。
その私が外国で働くことになれば、彼とは別れることになるだろう。

「そこそこの相手」なんて言っても、当時の私はやっぱり彼のことが好きだった。
婚約までした相手なのだ、ロマンティックな恋心はなくても、情はあった。
別れたくは、なかった。

だから、彼に相談した。
アングレーズの大学の研究員になれそうだ、けれどそうしたら私たちは離れて暮らすことになる、と。

あの時、私が何を期待していたのかは思い出せない。
もしかすると、彼が「結婚しよう」と言ってくれるかもと考えていたのかもしれない。
「行くな。離れたくない」と言ってくれるのを期待していたのかもしれない。
あるいは「離れていても、気持ちは変わらない」と言ってくれるのを期待していたのかも。

いずれにしても、期待は裏切られた。
微塵の未練も残さないほど、木っ端みじんに。

私の相談を聞いた男は、あたりまえのように言った。

「辞退しろ。お前程度がアングレーズの大学の研究員になんてなれるわけないだろ。どう考えても研究者としては、俺のほうが上だ。お前は辞退して、俺を代わりに推薦しろ」

「なに言ってるの?」

わけがわからなかった。
期待した言葉どころか、予想もしない言葉を、男は当然のように言うのだ。

呆然と男を見つめていると、男は「ちっ」と舌打ちした。

「相変わらず察しの悪い女だな。お前程度の女がアングレーズの大学に選ばれる理由なんて、まだ院生で勤務先が未定で使いやすいからってことくらいだろ。だったら、俺でもいいはずだ。自分には荷が重いって言って、俺を推薦しろって言ってるんだよ」

「違うわ!」

いらいらと机を指で叩きながら、男は私に命令する。
聞き捨てのならない言葉に、私は大きな声をあげた。

「あちらで所属することになる研究室の教授がいま手掛けている研究に、私の研究が役立ちそうだからって声をかけてもらったのよ。この間の学会誌の論文や、ネットで公開している論文を見てくださっての評価なの。この評価は、私のものよ。先輩が私のかわりになんて、なれない!」

大声で叫ぶと、男は目を丸くした。
今まで、私が男に正面切って逆らったことなんてなかったからだ。
けれどすぐに男は、驚きを怒りに変えた。

「お前、俺に逆らう気か」

「逆らうとか、そういう問題じゃ……」

「お前な。お前程度の研究者なんて、ごろごろいるのがわかっているのか?ちょっとアングレーズの大学に声をかけてもらったからって、調子に乗っているんじゃねぇよ!」

「調子に乗ってるとかじゃないでしょ。どならないでよ!」

「なら、なんだよ?自慢か?アングレーズの大学に選ばれたからって、自分が優秀だとでも思っているのか?言っとくけどな、お前みたいに地味でかわいげのない女、相手にしてくれる男なんて俺くらいだってわかっているのか?ましてや結婚してやろうなんて、ボランティア精神にあふれた人間が、俺の他にいるとでもおもっているのか?まったく、従順なだけが取り柄だったのに、俺に逆らうなんてな。お前はちょっと頭はいいかもしれないけど、人間としては優れたところがない人間だってことを自覚すべきだと思うよ」

畳みかけるように言われて、ひどい、と思った。
付き合っていて、婚約までした相手に、そんなふうに言われるなんて、ひどすぎる、と思った。

これが、そこそこの幸せ?
こんな相手と結婚することが?

そんなの、ぜったいに違う。

私は、研究が好きだった。
物心ついたころから、世界は不思議に満ちて見えていた。
小学校の時、初めて実験をした時、顕微鏡で見た世界にどきどきした。
今まで見たことのない世界の真実を見たと思った。
もっともっと、この世界の不思議なことを知りたいと思った。
世界の不思議を自分の手で明らかにする、研究は私の人生の核だった。

男は、私と同じ研究室に所属していて、一緒に研究をしてきた仲間でもあった。
私のそんな気持ちは、言わなくてもわかってくれていると信じていた。
でも、違った。
彼は、私がなにを大切にしているかなんて、気にも留めていない。

この男の言う通り、私は地味だし、かわいげのない女だ。
今まで、この男以外の男と付き合ったこともない。
彼と結婚できなかったら、一生結婚できないかもしれない。

上等だ。

目の前に、アングレーズの大学の研究員になれる道がある。
それは、私にとって「そこそこ」じゃない幸せの一端じゃないの?

「言っとくけどなぁ、アングレーズの大学に行く気なら、お前との婚約は、破棄する。当然だろう」

ひどく意地の悪い笑みをうかべて、男が言う。
望むところだ、と私はうなずいた。
こんな男と結婚するくらいなら、生涯結婚なんてしない。

「ええ。婚約はなかったことにしましょう。アングレーズの大学に、行きます」




一気によみがえった記憶は、あの時の心の痛みをも蘇らせる。
正式に男と別れるまでの間、男にも、男の両親にも散々ひどい言葉を投げつけられた。

一方的にぶつけられた悪意は、私の矜持を粉々にした。
毎日泣いたし、自分が間違っているのかもしれないと悩んだ。
あの日々を思い出す。

男に目を向けたまま、浅い呼吸を繰り返す。
そんな私に、男はふと視線を向けた。
一瞬の愛想のよい笑顔は、私が誰だかを悟った瞬間、残酷な笑みに変わる。

その笑みもまた一瞬で消し去り、男は「やぁ」と私に手をあげて挨拶をよこした。

「やぁ、会田さん。驚いたよ。ひさしぶりだね」

「お久しぶりです、猪瀬先輩」

ただの後輩にするような言葉をかける男に、私も愛想笑いを浮かべる。
あれから、もう10年だ。
私はもうあの時の私じゃない。
こんな男の機嫌をとって生きていた女の子は、もういないんだ。

そう思うのに。
声は、すこしだけ震えてしまった。

男は、そんな私のわずかな揺れさえ見逃さない。
親し気に笑いかけて、眼鏡のフレームを人差し指でトンと叩く。

「君がアングレーズの大学に行ってからだから、もう10年くらいになるのかな。あっちに行ってから、ぜんぜん連絡もよこさないんだもんなぁ。研究室のみんなも、ずいぶん薄情だなっていっていたよ」

「申し訳ございません、猪瀬先輩」

連絡を絶っていたのは、男と、男と仲のよい数人の先輩だけだ。
教授や、親しい院生たちとは連絡を今も交わしていたけれど、口には出さなかった。

「アングレーズで、教授になったんだって?いいね、アングレーズは。君でも教授になれる」

小声でつけ加えられた言葉に、うんざりとした。
この男は、以前とぜんぜん変わっていない。

「そうですね。アングレーズは研究が活発ですから。ずいぶん鍛えられました」

笑ってかわすと、男は不快そうに眉をしかめた。
男がなにかまた言おうと口を開いた時、近くにいた女の子たちが集まってきた。

「猪瀬講師。お話中すみません。あの、会田教授ですよね?先月のガッハイ誌の論文、読みました!」

「私もです!まだお若いのにガッハイに論文が採用されるなんて。私たち、教授にすっごく憧れているんです!」

「こんなところでお会いできるなんて、光栄です。猪瀬講師のお知り合いなんですか?」

きらきらとした目で私を見てくれる女の子たちは、男と同じ研究室の学生らしい。
男の周囲に集まって、紹介してほしいと目で促した。
男は嫌そうに眼をすがめたが、渋々口を開く。

「まぁね。彼女は昔、俺と同じ研究室にいた院生だったんだ。アングレーズの大学に行くまでの、ね」

「わぁ。そうなんですか!」

「会田教授と同じ研究室にいたなんて、猪瀬講師すごいですねー」

「初めまして」と私に自己紹介しながら、女の子たちは男に言う。
男は、ますます不機嫌になって、

「すごい?……当時は俺のほうが、彼女より実力があったんだけどね。さっきも、アングレーズの大学に行けたのが俺だったら、今も俺のほうがいい研究者だっただろうって話していたところだったんだ」

そんな話、していたっけ。
なんてつっこみはしなかった。

男は穏やかそうに言っているものの、その悪意は明白だ。
男の周囲にいた女の子たちが、とまどったように男の顔を見ているのにも気づいていない。

「いやでも、アングレーズに選ばれたのは会田教授だったんでしょ」

むっとしたように、ひとりの子が言う。
男は、はっと鼻で笑った。

「彼女は、自分の研究がむこうの教授に認められたなんて言っていたけどね。当時の研究員の中じゃ、こっちの教授の推薦だろって言われてたんだよ。なにしろ彼女は研究熱心で……、教授と遅くまでふたりきりで研究室にこもりきりだったからね」

男が示唆した邪推に、別の女の子が不快そうにちらりと男を睨み、

「へー、やっぱり当時から会田教授は研究熱心だったんですね。そういうところが成功の秘訣なんですか」

「やっぱり成功する人は、初めから違うんですね。私もがんばらなくちゃ!」

無邪気を装って、男の言葉を退けた。
なのに男は、女の子たちが自分の言葉を理解できなかったとおもったようで、なおも私をあざける。

「まぁ研究室の推薦がものをいうところもあったしね。それに当時の研究室の教授は女性に弱くてね。彼女は恋人に教授との関係を邪推されて婚約破棄されるほど、教授にべったりだったし」

とうとうと語る男に、周りは完全にひいている。
それでも先輩は気づかず、追い打ちをかけるように、下卑た笑いをうかべて言う。

「まぁ、でも君がまだ研究職にあってくれて嬉しいよ。君ももう34歳だろう?普通の女性ならもうとっくに結婚して子供を産んで……、研究職から退いているかもしれないのにね。君はまだミス・アイダなんだろう?」

たぶん、雑誌のインタビューでも読んだんだろう。
男は、私がまだ独身だというのをあてこすってきた。

「やだ、猪瀬講師ってば。会田教授は、プロフェッサー・アイダですよ。ミス・アイダじゃないですってば」

度重なる私への侮辱に、男の研究室の院生たちが申し訳なさそうに頭を下げつつ、フォローしてくれる。
気を使わせて、ごめんね。

……なんていうか、あまりの男のくだらなさに、びっくりしすぎて反撃する気にもなれなかったんだ。
この男は変わっていないと思ったけど、前はもうちょっとまともだったと思ったんだけどな。
どっちにしても、こんな男が好きだったなんて。
むかしの私、見る目なさすぎでしょ。

「ええ、まだミス・アイダです。もちろんプロフェッサーでもありますけど。それにもうすぐミセスになるんです」

私は、こちらを心配そうに見ている婚約者に手を振った。

婚約者であるランドルフ・モーガンも、著名な研究者だ。
彼に気づいた研究者に囲まれて、その質問に丁寧に答えていた。
けれど常に私のことを意識してくれているんだろう、こちらの会話が聞こえたわけではないだろうが不穏な空気を感じ取ってか、ちらちらと心配そうにこちらを見ていた。

「だいじょうぶだよ」と笑顔で伝えると、ほっとしたように青い目が和む。
その眼差しは愛情にあふれていて、私の心をほわんと暖かくする。

だいじょうぶ。
あなたみたいな極上の男に、めちゃくちゃ愛されている私が、こんな男に傷つけられるはずないでしょ。

「え、あれ。ランドルフ・モーガン?」

ぽかんとした男とは対照的に、院生ちゃんが「わぁ」と歓声をあげる。

「ご結婚なさるんですか?おめでとうございます!お相手は、あの人……、ってモーガン教授?やだ、雑誌の写真でも素敵って思っていたけど、実物はもっと素敵!そっか、あの方もアングレーズの教授ですもんね。同じ大学にお勤めなんですか?あんな素敵な人と同僚で、恋に落ちて、結婚って。あぁ、やっぱり憧れますー!」

女の子の高い声が、部屋に響く。
ちょっと恥ずかしい。

それにランドルフが素敵なのは外見じゃなくて、中身なんだけどね。
いや、見た目もかっこいいけどさ。
誰よりも努力家で、でも他人への敬意を失わない。愛情深く誠実で、貪欲に人も世界も愛する。
そんな彼だから、結婚なんて興味をもてなくなっていた私でさえ、ともに生きたいと思うようになったんだから。

まぁ、でも。祝福の言葉は、嬉しい。
私が、彼女たちの憧れる先達になれたのなら、それも嬉しい。

地味で、かわいげがなくっても。
男の人をたてるなんて思って我慢しなくても。
幸せは、手に入る。

だいたいね。地味なのはともかく、かわいげなんて、心底好きな男と一緒にいたら、自分でも知らないようなかわいげが、ばんばん胸の中からわいてくるもんだ。
男の人をたてるなんて意識しなくても、尊敬できる相手なら、自然にたてられる。
というかランドルフの場合、たてる必要もないけどね。全方位的にできる男だし。

猪瀬先輩がごちゃごちゃ言っていた私へのさげすさみは、結局のところ彼自身への評価だったんだと、今の私は思う。

「ありがとう。うちの両親に挨拶するために、帰国したの。結婚なんてって思っていたけど、相手によるわね。幸せよ」

ぼうぜんと私とランドルフを見比べる猪瀬先輩を見て、思った。

あぁ、ほんとうに。
こんなくだらない男と結婚しなくてよかった。

あの時、私と婚約破棄してくれてありがとう、先輩。
泣きまくったけど、がんばったあの時の私、ありがとう。
おかげでいま、最上級に幸せだわ。

先輩はしどろもどろになにか口走っているけど、正直にいえばこの人にはもう興味なかった。
嫌味のひとつも言う気にならない。

私はたっぷり祝福してくれた院生ちゃんたちに笑顔でお礼をいうと、ランドルフのほうへ歩いていく。
「そこそこ」の幸せは努力しても我慢しても手に入れ損ねたけど、極上の幸せは簡単に手に入った。
人生って不思議で、素敵だ。

私が隣にたつと、嬉しそうに笑顔を向けるランドルフに笑顔を返し、周囲の研究者に挨拶をする。
隣によりそって立つランドルフのぬくもりを感じながら、先ほどの研究会についての議論を交わす。
あの時から懸命に生きて築いてきた居場所は、ここにある。

またたくまに、猪瀬先輩との邂逅は頭の片隅に消えていった。
昔のことなど、もはやどうでもよかった。





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