before_33
「ぽんぽ、いちゃい」
自分の性癖というものを普通は意識しない。知らないで一生を終える人もいる。自分の性癖を知って、その異質さと社会との乖離に、本当の自分を心の奥底に閉じ込めて生きる人間もいる。私もそういうタイプの人間だった。なまじ、プライドが高かったから。
「……ここ?」
「ちがうのー、もっとしたー」
耐え切れないという様子で、優は顔を赤く染めた。私も羞恥心を感じて、頬が熱くなるのを感じた。
優も私が自己顕示欲が強く、体面を気にするタチだと理解している。だからこそ、首を傾げざるを得ないのだ。そんな私が幼児プレイを望んでいるだなんて。
いつものように優と寝たあと、私は前々から興味のあったことしたい、と彼に頼んだ。地下室から昔、自分が使っていたおしゃぶりとよだれ掛けを持ってきて、説明した。いまいち理解できないでいた優は自分がそれをつけるのだろうかといった顔で困惑した。
「……私のに決まってるじゃない。ここにもペンでユウカって書いてあるでしょう。ああそうね、おむつがなかったかしら」
「いや、あのちょっと」
家を飛び出して、近所の薬局で大人用のオムツを買った。
勢いに身を任せた。勢い任せないと恥ずかしくてしかたがなかった。勢い任せないと、次の機会は訪れないと悟っていた。それほどにカミングアウトは恥ずかしかったし、優の戸惑ったような目は辛かった。多分、目の前に拳銃が置いてあったら、迷わず自分の頭を撃ちぬいていたと思う。
私は素知らぬ顔で、ベットに寝そべっておしゃぶりを口に入れて、ガラガラを持った。首にはよだれ掛けがあって、服は着てない。顔から火が出るほど恥ずかしいし、奇声を上げたくなったけど、どこか興奮していた。ずっと前からやりたかったことなのだ。ずっと前から思っていたことなのだ。その妄想をしながら自慰に浸るほどに、自分用の哺乳瓶を買ったりするほどに、ベビー用品のカタログを垢がつくまで読み込んだりするほどに。
優は涙目になりながら、私にオムツをつけた。耳の先まで赤い。
「ちょっと、何やってるの? 恥ずかしいのはこっちも同じよ。真面目にやってちょうだい!!」
私は起き上がり、ガラガラでぽかりと兄の頭を叩いた。
「いたっ……! でも、こういうのは慣れてなくて……」
「言い訳しないで! ほら、最初はウェットティッシュで汚れを拭く! 兄さん、私のオムツも変えてたんでしょう!? しっかりやって!」
私は馬鹿だ。馬鹿以外の何者でもないわ。恥ずかしくて死にそう。死にたい。いい年した娘が股を開きながら、兄にオムツをつけろと激怒して、オムツの付け方にキレて、挙句の果てには真面目にやれと宣うだなんて、悪い冗談だわ。
私は恥を隠す為にそっぽを向いた。優の顔を見てたら、羞恥心が湧いてきてしまう。
優はしぶしぶといった感じでウエットティッシュで私の股周りを丁寧に拭き、次にお尻の穴と性器の辺りを拭いてくれた。
屈辱感と同時に性的高揚を感じて、へその下が熱くなるのを感じた。敏感な部分がアルコールによってすうすうと刺激される。優の指が絶妙な優しさで肌に触れて、お尻がひくつく。
ああ、きっと兄の中で私はどうしようもない変態だと決定づけられている。救いようがない変態だと。普段、偉そうに気取っているのに、実際はこんなにも滑稽なんだと思われてる。
それが心地よかった。そう思うと、性的なものとはまた別の種類の高揚感が全身を包んだ。
兄に全てを任せ、委ねるという快感。心の奥底まで覗かれるような快感。
気がつけば私は幼児言葉だった。幼児言葉でよだれを口からこぼしながら、兄の乳房を口をつけて、吸った。優の目の前で、オムツの中に排泄して、半ば本気で泣いて、兄にあやされた。
兄が私を残念そうな目で見る。お兄ちゃんが私を何とも言えない顔で見る。にいにい耳まで赤くして幼児言葉で私に話しかける。それが堪らなく楽しくて、嬉しくて、震えた。今までの私が完膚なきまでに崩壊して、新しい自分が構築されていくのを快感と共に知った。
ただただ、それは幸福だった。ただただ幸福で、不安がなくて、安心した。
最後に幼児のまま、優と交わり、私は排泄と共に達した。
世界の変わる音がした。
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