ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
エロ注意。
before_1
 兄は私のことをきっと嫌いなのだと思う。
 それはそうだ。それ相応のことを兄にしてしまった。だから彼はよそよそしいし、私に何かを求めることはない。
 歩み寄ってこないということは、兄が私に何も求めていないのだと思う。もしも兄が息苦しさを感じているなら求めるべきだし、私は求めて欲しいと思う。願う。

 兄は家計の足しになればと、アルバイトに勤しんでいて、私が学校に行っている間も家事をやってくれる。帰宅する頃には暖かい食事を作り、テーブルに並べてくれている。辛いだとか大変だとか、苦しいという言葉を一言も言わず、ただ当たり前のように身の回りの世話をしてくれる。
 よくできた兄だ。
 だけど、兄は人殺しだ。
 彼は私の母を殺した。いや、彼の母でもある。
 第一発見者は私だった。
 真っ赤に染まった寝室で兄は、血溜まりに伏せる私の肩を叩いて、警察を呼ぶようにいった。あのどこまでも仄暗い瞳を私は今でも忠実に思い出すことができる。
「それから警察が来て……」
 大人たちに揉まれて、いろんな事が起きて、今でも私達は事件のあった、母の死んだこの家で暮らしている。
 父は……いない。父にあったことがあるのはほんの数回。事件の時にも、辛かったあの時期にも全く顔を出さなかった父は憎い。だけど幼少の思い出は私にきらびやかな映像を見せて、美しく染め上げる。
 父は優しかったと。父は素晴らしい人だと。
「ああ、だから私は」
 この家から出られないのか。
 兄が引っ越そうといっても私は拒否した。理由は分からなかったけど、何故そうしなかったか分からなかったけど、そうかなるほど。
 父が恋しいのか。
「くふ……ふふふ」
 でも、もう父は要らない。
 窓の外を車のヘッドライトが流れていく。私はケイタイで時刻を確認すると、のっそりと起きた。長い髪を手ぐしで軽く整え、枕元の明かりを灯す。事前に用意した濡れタオルと、普通のタオルを手に取った。
 部屋の端に置かれた鏡に青いストライプ柄のパジャマ姿が映った。
 悪くないはず。
 控えめに見ても私は可愛らしいと思う。
 長い睫毛、細身の手足とウエスト。胸は確かに大きとは言えないが人並みにある。お尻の形は自分でも惚れ惚れする。
 美しい母の遺伝子にありがとうと言いたい。
「ふふ、馬鹿ね私」
 自分の部屋の扉を出て、直ぐ横は兄の部屋。一番奥の部屋は父の部屋だ。私は奥に一瞥もくれることなく兄の部屋のドアノブを捻る。
 兄はベットの上ですうすうと寝息を立てて、夢に身を委ねている。瞼をピクピクと踊らせ、布団を抱き枕のようにぎゅっと抱いていた。
 ああ、血の気がすうっと失せて行く。

 暗闇に獣がいる。薄暗い闇の中、牙を剥き出しにした獣。
 それは獲物の前で舌なめずりしていて、欲望に瞳の色を変えてゆく。コーヒーカップに落としたミルクのように欲望、肉欲、愛欲、情動、欲情……それらが混ざり合い、ぐつぐつと煮えたぎり、武者震いに似た震えを喚起させる。
 獣は私だ。獲物は兄だ。欲情しているのは私で、欲情されているのは兄だ。
 親指の爪を噛んで兄を眺める。指に湿った自分の吐息が掛かってイライラした。
 私は何かを焦っている。何を? ああ、心臓の音が煩い。兄に聞こえてしまう。世界に響き渡るようなこの胸の鼓動が。
「お兄ちゃん……ねえ、お兄ちゃん」
 兄は起きない。私はそれを知っている。
 兄は夕食に混ぜられた睡眠誘導剤で起きることはない。私はそれを知っている。
 暗闇で獣は唇の端を曲げて、にやりと笑った。涎が床にポタポタと零れ落ちる。股の間がヌルヌルして気持ち悪い。
 もう我慢できない。できるわけがない。そのまま私はいつものよう自信の毛皮を剥ぐ。衣服を脱ぎ捨て、重い下着をその場に落とす。
 熱い。熱い熱い熱い熱い熱い。ヘソの下が、頭が、頬が目が。
 この乾きを潤すには薬が必要だ。薬は血で、肉で、兄だ。
 私は兄に覆いかぶさり、頬をべろりと舐めた。汗ばんだ肌は塩の味がした。
 何も知らず、すやすやと寝ている兄を私の唾液で汚したことに、鼓動が強く脈を打つ。
 よだれにまみれた唇をそのまま、兄の唇を貪り、口腔を犯す。
「うっ……ふぅふぅ。んむ……」
反応のない人形のような兄。だけど確かに生きていて、私を認識していないだけで、それは兄で。
「おにいちゃん、おにいひゃん、おにいひゃん! んむ……」
 顔全体を舐めまわしても兄は起きない。思うままキスをし続けても、兄は眉間にしわを寄せて息苦しそうに口を拭うばかり。足を舐めようと、脇を舐めようと、“あらゆる場所”を舐めようと兄は目を覚まさない。ただ人形のように私に貪られ、息を荒くし、頬を赤くし、シーツを強く握るだけだ。
 起きない。兄は起きないのだ。この時間だけは私の自由にされる。私の玩具にされる。
「うふ……ふふふふふふ」
 息も絶え絶えになりながら、息を切らす兄を、兄の上から見つめる。これ以上に幸福で、楽しい遊びを私は知らない。情欲があるいは情動が満たされ、全身を針で刺すような脳内の分泌物の刺激に浸る。最高だわ。
 私は汗ばんだ髪を掻き上げて、兄に貪るようなそれではなく、心の篭った熱いキスをした。マーキングに似た熱の篭った私のキスをした。

 ベットの軋む音もないしんとした部屋は、やけに寒く感じた。兄のボタンを結ぶ指先が、空気の冷たさに少し痛む。
 兄の頬をタオルで丁寧に拭き取り、パジャマをただした。私の下着は……あとで洗濯機に入れよう。
「お兄ちゃん……」
 今はすうすうと寝ている兄の顔を視姦するだけ。横で、一緒に寝るだけ。
 きっと私が一緒に寝ようといえば彼は拒まない。もしかしたらキスをしようといっても拒まないかもしれない。
 兄は私に罪悪感を感じているのだ。だから私と同じ学校を辞めて、私の我侭を何でも聞く。
 少し悲しいけど、私は思う。
 あわよくばそれが永遠に続きますように、と。
「優兄さん……」
 兄の顔を見てるとまた、獣が目を覚ます。喰らえ喰らえと咆哮を上げる。
 私は頭を横に振って、兄の部屋をいそいそと出た。
 布団の外は酷く寒くて、部屋の外は圧倒的に何かが足りなかった。
今日の話が面白かったら、1クリックお願いします


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。