教えてレオノーラ先生!
書籍版「邪神アベレージ」1巻の特典シリーズ第3弾です。
時系列としては前篇17の中になります。
アンリとテナに対して闇魔法の講義を行うことになったレオノーラ。
彼女は白衣を翻して即席の教壇に立ち、生徒であるアンリとテナを振り返った。なお、教鞭は持っているが、眼鏡は掛けていない。
「さて、闇魔法を教えてほしいという話だったが……そもそものところを確認しておきたい。お前達、魔法自体は使えるのか?」
その質問に、アンリとテナは共に首を振って返した。元々一般人だった二人は魔法などとは無縁だった。
「なるほど、それではまずは魔法の基本からだな。魔法がどうやって発動するのかについて説明しよう」
そう言うと、レオノーラは壁に貼られた大きな紙に二つの単語を書き記した。
「魔法を発動させるのに必要なものは基本的に二つ、魔力とイメージだ」
「スキルは?」
アンリの質問に、レオノーラは「ふむ」と頷く。
この世界の一部の者達はスキルというものを持ち、そのなかには魔法のスキルも存在する。そのことを知っているアンリは、それも魔法の発動に必要なものなのではないかと疑問に思ったのだ。
「光魔法や闇魔法といった『本来使用者が限定される魔法』を他の者が使用するような特殊な場合を除けば、必須ではない。火魔法や水魔法であれば、スキルが無くても発動自体は出来る」
光魔法は人族、闇魔法は魔族しか使用できないと言われているが、中には生まれ付きや特殊な事情で、本来使えない筈の者の中でそれらを使用出来る者も存在する。
そういった者達は例外なく、対象の魔法スキルを保持している。
アンリやテナも、そのうちの一人だ。
「火魔法や水魔法のスキルは無いの?」
「いや、あるぞ。それらのスキルは無くても発動出来るが、保持している者の方が発動はスムーズだし威力も高くなる」
「なるほど」
レオノーラの回答に、アンリは納得して頷いた。
「但し、弊害もあるのだがな。魔法系のスキルを持っている場合、他の系統の魔法は逆に発動が困難になる。使えないわけではないが使いにくくなるから、スキル保持者は大抵の場合その系統に特化するのが一般的だ。お前達は闇魔法スキルを保持しているという話だから、闇魔法に特化させた方が良いだろう」
例えば、火魔法のスキルを保持している場合、魔力の操作も魔法のイメージもスキルが補助してくれるため、火魔法は発動が容易になる。しかし、自動的に火魔法に向いた操作やイメージをしてしまうことになるため、水魔法は逆に発動が阻害されてしまうのだ。
「あの、私も聞いて良いですか?」
「ああ」
今度はテナがおずおずと手を挙げて、質問を出してきた。
「魔法を使う時って呪文の詠唱とかも要るのではないですか?」
「確かに、一般的には呪文の詠唱を必要とすると言われている。しかし、実は必須というわけではなく、魔法を発動させ易くするための儀式のようなものなのだ。魔力が足りてイメージがしっかりと固まっていれば、無詠唱で発動することも詠唱を部分的に省略することも可能だ」
「なるほど、分かりました」
そこまで話すと、レオノーラは一つ咳払いを打ち、話を元に戻した。
「さて、ここからは実践を交えていくぞ。まずは魔力の操作からだな。二人とも、足を肩幅に開いて右手を前に出して掌を上に向けろ」
「うん」
「分かりました」
レオノーラの指示に従い、アンリとテナは指定された格好を取る。
「指を軽く曲げて掌の中央に意識を集中しろ。全身を駆け巡る力の流れを徐々にそちらに寄せていくイメージだ」
素直に魔力を操作しようとしている二人を見て、レオノーラはウンウンと頷きながら腕を組んで過去を思い起こすかのように目を閉じる。
「最初は流れを意識出来ないかも知れないが、繰り返し行うことで魔力を操作出来るようになる。個人差はあるが早ければ数時間で……」
「出来た」
「私も出来ました」
「早過ぎるだろうっ!?」
あっさりとこなした二人に対して、レオノーラのツッコミが走る。
「ま、まあいい……それが魔力を集中する感覚だ。そうして魔法の発動に必要な量や密度の魔力を集め、イメージを描きながら詠唱するのだ。さっき言った通り、使いこなせば無詠唱でも発動出来るがな。折角だから、そのまま初級魔法を試してみるとしよう」
かつて自分が習った時には数時間掛かった魔力の操作を数分で習得されたことに対してショックを受けながらも、レオノーラは気持ちを切り換えて次のステップへと進む。
二人に対して口頭で闇弾を放つ魔法の呪文を教えた。
「魔力を集めた右手を壁に向けて、闇の塊をイメージしろ。魔力とイメージを維持しながら、今教えた呪文を詠唱するのだ。慣れるまでは詠唱に意識を取られて魔力やイメージの維持が難しいかも知れないが、何度も反復して訓練することによって発動出来るようになる筈だ」
次の瞬間、二人の手から人の頭よりも大きな闇の塊が打ち出され、壁に当たって大穴を開けた。
「あ、出た」
「私もです」
「だから早過ぎるだろうっ!?」
再びレオノーラのツッコミが走る。習得が異常に早いこともそうだが、発動した魔法の威力が自身のものよりも強大であることに、レオノーラは内心で滝のような汗を掻いていた。なお、二人の魔法がここまでスムーズなのは、言うまでもないが闇魔法スキルの恩恵である。
「で、ではこの魔法はどうだ?」
「出来た」
何となく焦って、より難しい魔法を教えて「これはどうだ」と問い掛けるレオノーラだが、二人はあっさりと課題をこなしてゆく。
「こっちは!?」
「あ、これも出来ました」
とうとう、彼女自身の使用出来る闇魔法全てを収得されてしまい、内心で打ちひしがれながらも、最後の課題を出すレオノーラ。
「こ、これは無理だろう!? 無理だと言ってくれ!」
「ん、使えるみたい」
「私は何とかという感じですけど……」
未だ彼女自身も発動が出来ない最高難易度の闇魔法を教えるも、無情にもあっさりと発動されてしまった。
流石にテナの方はギリギリのようだったが、何の慰めにもならなかった。
講義を開始してから三時間後、そこにはプライドを圧し折られて落ち込むレオノーラの姿があった。