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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【特典之章】
80/82

テナとカルチャーギャップ

書籍版「邪神アベレージ」1巻の特典シリーズ第2弾です。

時系列としては前篇09と10の間になります。

 アンリの眷属となって共に暮らすようになったテナだが、その生活の出だしは必ずしも順調なものではなかった。その原因は、アンリが整えたダンジョンの生活環境が、この世界の基準で言えば非常識極まりないことだ。

 そもそも、一般的な思考を持つ者であれば住処がダンジョンという時点で色々おかしいと思うだろう。そんな生活を送っている者が仮に他にも居るとしたら、人里離れて研究に打ち込む世捨て人に近い魔導士や、何らかの事情で逃亡生活を送っている者くらいのものだ。


 テナにとっては何もかもが初めてのことであり、色々と疑問を抱いては驚愕するということを繰り返していた。




   ◆  ◆  ◆




 まず、最初に彼女が気にしたのは、地下深くにありながら異常に明るいダンジョンの各部屋だった。

 まるで、普通に屋外に居るような明るさなのだから、不思議に思うのも無理は無い。テナが周囲を見回して光源に目を向けると、そこには小型の太陽が浮かんでいた。


「あの、何故ダンジョンの中にお日様があるのでしょうか?」

「無いと生活リズムが崩れる。あと、太陽の光が無いと作物が育たないし」


 問題はそこではない。テナが聞きたかったのは目的ではなく、何故そんなことが出来ているのかだ。

 尤も、「ダンジョンクリエイト」スキルの力とアンリの異世界の知識・発想が組み合わさって実現された話であり、原理を聞かれたとしても用意したアンリ自身にも答えられないのだが。


 しかし、アンリの答えの中で別に気になることがあったテナは、疑似太陽よりもそちらの方に気を取られた。


「え? 作物、ですか?」


 アンリの言葉だけを聞くと、まるでダンジョン内で作物を育てているかのように聞こえる。ダンジョンと作物、繋げて考え難いそれらの言葉にテナは疑問の声を上げた。

 それを聞いたアンリは、テナを屋内菜園へと案内することにした。


 それは、かなり広めの部屋だった。それこそ、テナの育った村の小さい家なら、その部屋に何軒か入ってしまうほどの大きさだ。

 その部屋を幾つかの区画に分けて、果物や野菜が植えられている。


「ダ、ダンジョンの中に畑が……」

「そのうち収穫出来ると思う」


 ビニールハウスも存在しない世界で屋内に畑を作るという所業、村で畑の世話をしていたテナにとっては全く想像出来ないことであり驚愕で固まっているのだが、アンリにとってはそれほど意外な発想ではないため、それに気付かない。


 ただ、果物や野菜を植えたのはアンリが自分自身で行ったが、屋内菜園の区画自体はダンジョンクリエイトの機能の内である。

 やる者が居ないだけで、機能としては最初からこの世界に存在していたものなのだ。


 続いて二人は、屋内菜園から最も近い台所へと足を向けた。収穫した野菜をすぐに調理出来るよう、屋内菜園と台所は隣接している。


「す、凄いお台所ですね!」

「そう? 好きに使っていいよ」


 テナからすれば王宮の厨房かと思うような設備が整っている──テナは王宮の厨房など見たことがないため、あくまで想像の中のものだ──が、アンリからすれば現代のシステムキッチンと比べれば大分見劣りするため、凄いことだと理解していない。

 二つの世界の文明格差が大きいことは頭では理解しているものの、実感が中々追い付かないのだ。


 その後、アンリはテナを風呂へと案内する。

 扉を開くと浴場の浴槽には既にお湯が張られていた。


「お風呂はそこ、いつでも入れるから」

「い、いつでも入れるのですか……?」


 そもそも、個人の住居に風呂があるということ自体がこの世界においては非常識だ。

 特に、テナのような田舎の村出身だと、身を清めるのは基本的に井戸の水や川や泉などであり、風呂自体を見たことがないということも珍しくない。実際、テナ自身も見るのは初めてだ。

 そんな彼女でも、話に聞いていた風呂と比較して目の前の風呂が規格外であることは理解出来た。


 風呂を案内し終えた後、アンリはテナに倉庫を案内した。


「あの、倉庫に食糧が全然ないみたいなのですけど」

「傷まないようにアイテムボックスにしまっているから、後で出すよ」

「ア、アイテムボックス!?」


 ちなみに、「アイテムボックス」スキル自体はユニークスキルではないので、この世界でアンリしか持っていない能力というわけではない。わけではないが、かなりレアな部類に含まれる。


 どうやら住居だけではなく、主人も規格外だということを今更ながらに実感して、テナは引き攣った笑みを浮かべた。




   ◆  ◆  ◆




 驚愕というのは非常に体力と精神力を消耗する感情だ。

 見るもの見るもの全てに驚いていたテナは、住居の見学が終わる頃には疲労でぐったりとしていた。


「大丈夫?」

「だ、大丈夫です! 必ず慣れてみせます」


 つまり、現時点では大丈夫ではなかった。

 心配して問い掛けたアンリに対して、何とも先行きが不安になる回答を返すテナ。

 アンリの方も案内の途中からテナの反応を見て、自身と彼女の間で生活環境についての基準にかなり大きなギャップがあることには気付いたのだが、気付いたからといって何も出来ることはなかった。テナの基準に合わせて生活レベルを落とすという選択肢も、当然却下だ。


「最初は慣れないかも知れないけど、分からないことがあったら聞いて」

「わ、分かりました!」




 なお、その後数日でテナがある程度は慣れたのは人族の適用力の高さゆえか、それとも彼女が色々と諦めただけか、それは彼女自身にしか分からない。

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